018 ~観察と安らぎ そして、苛立ち~
紫髪の少女に案内された言えでアルト達はその少女の母から出迎えられる。
そして、その紫髪の少女達の家でアルト達は一時の安らぎを味わう。
だが、そんな空気を宝珠の国の皇女がどんどん悪くしていき……。
「何処に行ってたんだ、未来?」
そう言って紫髪の少女の家から出て来た女性にアルト達は出迎えられた。
その女性は紫髪の少女とほぼ同じ服装と髪型で、年齢は四十代半ばといった所だ。
「母さん、遅くなってごめん。それと、客人だ」
すると、紫髪の少女はその女性を見上げそう言った。
そう、紫髪の少女がそう呼んでもすぐ納得するぐらい、
その女性と紫髪の少女の顔とスタイルはそっくりだったのだ。
「客人? そう……皆さん、とりあえず、お入りなさい。霊獣の方もね」
そんな紫髪の少女の母はアルト達を家の中へ招き入れてくれた。
「お邪魔します」
それからそう言って、ラニーニャが家の中に入ろうとすると、
「お姉さん、遠慮は無用だ! こっちに来て、暖炉があるんだ!」
と、言いながら紫髪の少女がラニーニャの手を引っ張って暖炉の傍に連れていってしまったのだ。
「すみません、家の子が!?」
その光景に紫髪の少女の母は焦る。
そして、紫髪の少女を止め様とした。
「いえ。こちらこそ、すみません。いきなりこんな大勢で押し寄せてしまって。ご迷惑をかけます」
だが、それを制したジャップが頭を下げ、アルト達は紫髪の少女の家に入る事となった。
そんな家の中は暖炉の温かさが充満しており、朱雀達は寛ぎ、そして、メタとパラはじゃれ始めた。
(彼等は凄いな! ここまで僕等を導いて疲れているはずなのに遊ぶ余裕があるなんて……)
そんな朱雀達をアルトが観察していると、紫髪の少女の母とジャップ達は何かを話していた。
だが、その話の中で猪の祟り神の事になると、
「猪の祟り神が……!?」
と、紫髪の少女の母は言葉を詰まらせ、ふらついたのだ。
「大丈夫ですか!?」
そんな紫髪の少女の母をラニーニャが支える。
「母さん、どうしたの? まさか!?」
すると、紫髪の少女の顔は今にも泣きそうなものとなった。
「未来、唯の立ち眩みよ。心配しないで。
皆さん、お疲れでしょう? 何か温かい物を作りますね。その間、部屋で寛いでください」
だが、一人で立ち上がった紫髪の少女の母は微笑む。
(あの少女の反応からして、まさか、あの少女の母は……)
そんな紫髪の少女とその母の反応を見ていたアルトの脳裏にある嫌な考えが浮かんだ。
「じゃあ、せめて、手伝わせてください!」
「私も手伝う!」
それからラニーニャと、たぬてぃは紫髪の少女の母に付いて行き、
紫髪の少女も付いて行った。
(相変わらず先輩は、お人好しなんだから……)
ラニーニャ達がいなくなった部屋でアルトの眉は下がり、溜息をついてしまった。
ドンッ!
アルトの背中に走る衝撃。
パラが急にじゃれてきたのだ。
「おっと、パラ君!? どうしたんだい?」
アルトとパラの視線が合う。
「食事まで、お前と遊びたいみたいだぜ?」
そこに笑顔のジャップがメタを引き連れ現れた。
「そうか……僕で良ければ遊ぼう!」
それからアルトがパラの頭を優しく撫でると、パラは尻尾を速く横に振り、
メタまでもがアルトの傍に来て尻尾を横に振り始めたのだ。
「おいおい……メタ、それはないんじゃないか?」
一人になったジャップは苦笑する。
「まあ、君より僕の方が彼等に好かれているから仕方がないだろう?」
アルトは涼し気な顔で素直に思った事を言ってしまった。
すると、ジャップの顔に悪巧みがくっきりと出た。
「言ったなぁ……アルト!!」
そう、アルトの髪をグシャグシャにしようとしている事が丸わかりだったのだ。
だから、アルトはそんなジャップを優雅にかわした。
ズデンッ!
ジャップはそのまま倒れる。
「ゥワッフン!」
そのジャップの上にメタが伸し掛かり、顔を舐めだした。
「こ、こらっ! やめろって、メタ!! 降参するから、やめろって!!」
ジャップはくすぐったそうに笑い転げた。
「君の兄弟は強いね」
そして、パラから見つめられたアルトはパラの頭を撫でる。
すると、パラは目を細めて気持ちの良さそうな顔をした。
そんなパラ達との触れ合いでアルトの心は和んだ。
だが、
「おーい、ミュー!! こっちに来て、メタをどうにかしてくれよ!」
と、ジャップが宝珠の国の皇女を呼び、
「もう、メタは悪戯好きなんだから!」
と、言った宝珠の国の皇女がこちらに来ると自然とアルトの眉間にはしわが寄ってしまったのである。
そのアルトをパラは心配してくれた。
「すまないね。僕は君達の主人とは気が合いそうにはないんだ……」
それでもアルトはパラに寂しい言葉を告げ、ジャップ達から視線を外す。
そのアルトの視界の外でジャップはケレスも呼び、暫く家族で何かをしていたみたいだった。
その間、アルトは何をする訳でもなく、何を考える訳もなく唯、その場にいたのである。
「夕食、出来たよ!」
すると、ラニーニャが盆に乗せた丼を持ってきた。
その丼からは湯気と共に良い香りが立ち上っていた。
「美味そうな匂いだな。姉貴、何だそれは?」
その香りをジャップは目一杯嗅ぐ。
「チャンポンだ!」
そして、紫髪の少女も同じ様な丼を持っていた。
それから人数分の丼が机に並べられ食事の準備が出来たが、
「なあ、この二本の棒は何だ?」
と、ケレスが箸を見ながら聞いてきたのである。
(ケレスは、箸を知らないのか……。まあ、箸を使う文化は宝珠の国にはないから仕方がないね。
でも、ケレス達はどうやって食事をするんだろう……)
そのケレスを心配したアルトが観察していると案の定、ケレスは困り、あたふたしていた。
「こういう風に持って使うんだよ」
すると、ラニーニャは箸を右手に持って動かした。
「俺も、使えるぜぃ!」
さらにジャップも箸を使える様だった。
(へえ、先輩は兎も角。ジャップまで箸を使えるのか!?)
その光景にアルトが驚いていると紫髪の少女の母からケレス達はフォークを受け取り、
ケレスは早速、チャンポンを豪快に頬張り、それに負けじとジャップも豪快に口に入れていた。
(全く……気持ちはわかるけど、二人共もっと静かに食べれないのかな?)
その二人に呆れながらアルトは静かにチャンポンを食べていた。
バンッ!!
何かが叩きつけられた大きな音。
それは宝珠の国の皇女が持っていたフォークを机に叩き付けた音だった。
その音が部屋中に響く。
「ミューちゃん、何かあったの?」
その音が消え暫くして小さく寂しいラニーニャの声が聞こえた。
「別に」
それから小さく冷たい宝珠の国の皇女の声が続く。
「お前、お姉さんに冷たくないか?」
それに怒っている紫髪の少女の声も続いたが、
「あなたには関係ない事よ。黙って!!」
と、宝珠の国の皇女は部屋中に響く声で怒鳴ったのだ。
その声は先程の宝珠の国の皇女がフォークを机に叩き付けた時の音よりも大きかった。
「ミューちゃん、そんなに怒鳴らないで。未来ちゃんがかわいそうよ」
悲しい顔のラニーニャは言葉を発したが宝珠の国の皇女は沈黙する。
だが、
「何でお姉ちゃんはそんなコを庇うの? それに、何で赤き女王をそのコの霊獣なんかにあげたの?
そのコ達のせいで蕾とやどり木の家は焼けちゃったんだよ!!
所詮、お姉ちゃんは蕾とやどり木の家の子供じゃないからわからないかもしれないけど、
私はそのコを許せない!!
まして、そんなコと仲良くするお姉ちゃんなんか、大嫌い!!」
と、宝珠の国の皇女はラニーニャを睨み、怒りをぶつける様に怒鳴りつけたのだ。
(蕾とやどり木の家……確か、宝珠の国の先代の女王が創設した孤児院の名だったはず。
恐らく、ケレス達はそこの孤児だったんだろう。
だから、ジャップが言っていた様に彼等には名字がない……という事だね。
そして、孤児院はあの少女達が何かしら関係して焼けてしまった、という事か……。
だから、宝珠の国の皇女はあの少女達にあの様な態度をしていた……。
でも、先輩は関係ないんじゃないのか?
本当、気が合わない者は嫌いだね!!
何か言ってやりたいけれど今、僕が何か言えば、
さらに宝珠の国の皇女は先輩を傷付けてしまうだろうし……)
アルトはいつの間にか止まっていた箸を握り締めていた。
「ミュー、言いすぎだ!!」
すると、ケレスが宝珠の国の皇女を諫め様とした。
「ケレス君、いいの。その通りだから……。
ごめんね、ミューちゃん……。私、ミューちゃんの気持、考えなかった。配慮が足りなかった……。
姉として、失格だね」
だが、ラニーニャは俯いたままケレスの優しさを拒む様な事を言ったのだ。
(先輩……やはり、あなたは優しすぎる。
それじゃあ、あなたが傷付くだけですよ? だけど、こういう時僕はどうしたら……)
そして、そう思ったアルトの箸は止まったままだったが、この後さらに動かせない出来事が起こる。
次回【因縁の国 ~無力と贖罪~】




