014~苛立ちと再会~
凍った海を朱雀の背に乗り渡っていたアルト達だったがある島に上陸した。
そして、その島でジャップの指示により野営をする事となった。
だが、その夜、ケレスの口から思いも寄らない言葉が発せられ……。
「メタ、ここで休むぞ。今日は、ここで野営するから、準備を、アルト、ケレス、手伝ってくれ」
凍った海を渡り上陸した島でジャップはそう指示した。
そして、アルトはそれに従おうとしたが、
「ジャップ!? まだ進めるよ! こんな所で休めない!!」
と、ラニーニャは必死に訴えた。
そのラニーニャはオルトから降り様とはしなかったのだ。
だが、
「駄目だ! 今日はここで休む!!」
と、ジャップはその訴えを退ける。
「そんな!? まだミューちゃんに追いつけてない!! 早く見つけなきゃ!!」
「先輩。ここはもうじき暗くなります。彼はここにいる皆の命を預かっているんです。
ここは彼の言う事を聞きましょう」
「そうね、そうなんだけど……」
ジャップに必死に訴えるラニーニャをアルトは説得した。
それでもラニーニャはオルトから降りなかった。
「姉貴。ミューにはララが付いてる。ララは一番頼りになる御庭番犬だ。だから、ララを信じろ!」
「わかった……。ごめんね、ジャップ」
すると、ジャップに諭されたラニーニャは不本意ながらもオルトから降りた。
ちなみに御庭番犬とは宝珠の国王家を守る朱雀の事で、
朱雀の中でもトップの実力を持つ朱雀を差す。
そして今、御庭番犬とされているのはララ達家族五体である。
「よし! 実はここは、俺が軍の訓練で来た事がある所だ。だから、野営する為の物は任せろ!」
それからジャップはアルト達に色々と支持を出し、皆で野営の準備を始めた。
そして、野営の準備を終えると、辺りは暗くなった。
この時アルトはジャップの的確な指示に、こっそり感謝していたのである。
何故ならもう少しでも野営の準備が遅ければどうなっていたのかがわからなかったからだ。
そう、暗くなるのがわかっていたとは言え、
アルトでは暗くなる前までにこうも上手くいかなかったという事を知っていたのだ。
「よし、こんなもんか!」
そんな事を知らないジャップがそう言って皆で食事を始めたが、
ラニーニャだけはほとんど食事に手をつけなかった。
「姉貴、食わないのか?」
そんなラニーニャをジャップが心配する。
「ごめん。私、ミューちゃんが心配で……」
すると、ラニーニャは俯いてしまった。
(せ、先輩が気落ちしてる!? こういう時、何て言えばいいんだ? えーと、調べなきゃ!!)
なのでアルトは焦った。
「そっか……。まあ仕方がない。でも、出来るだけ食えよ!」
だが、透かさずジャップから励まされたラニーニャは軽く頷いたので、
アルトが入れる場所は全くなかったのである。
(むっ!? また、ジャップに良い所を持って行かれてしまった!!)
そして、アルトがジャップに嫉妬しているとメタがラニーニャのリュックをゴソゴソと匂い始めた。
「メタ、どうした?」
「あっ! メタ、もしかして……。これ、食べたいの?」
そんなメタに目を転がしたジャップの前でラニーニャは自身のリュックからリンゴを取り出した。
すると、そのリンゴを見たメタは興奮して、ヒューンっと鳴きラニーニャに擦り寄る。
それからラニーニャのそのリンゴも加えて野営で集めた食材を食べる事となった。
ちなみに野営で集めた食材は朱雀達の炎の力を借り、ジャップが手際よく料理していた。
そしてそれ等の食事を終え皆で眠る事となりアルトが横になろうとすると、
パラがアルトにくっついてきた。
「パラ君、今日はありがとう。凄いね、君達の一族は」
そんなパラの頭をアルトが優しく撫でると、
もっと褒めてほしいパラは前足を並べ舌を出して尻尾を速く横に振ってアピールしてくる。
「わかった わかった。でも、少しだけだよ? 君は、休まなきゃ」
それからアルトはパラに感謝を伝えながら一〇分程戯れた。
そして、二人で横になった。
すると、パラは疲れからかすぐに眠ってしまい、アルトもパラの温もりでうとうととしてきたが、
「ケレス君、眠れないね。ちょっと、話、しよっか?」
と、ラニーニャの優しい声が聞こえ、
「いいよ、姉ちゃん」
と、ケレスの声も聞こえたのである。
(むっ!? ケレスの奴、何をしてるんだ? 先輩は気疲れしてるんだ!!
余計な心配事を増やさないでほしいね!!)
そのケレスの声でイライラして目が冴えたアルトがその二人の会話に聞き耳を立てると、
「姉ちゃん。あのさ、昴の事なんだけど、あの後大丈夫だった?」
と、ケレスの口から思いも寄らない言葉が発せられたのだ。
(昴だって!? どういう事だ?)
その言葉で驚いたアルトはさらに聞き耳を立てる。
そう、世界の中心にある昴には滅多に一般人が入る事は許されていない。
それなのにケレスとラニーニャは昴に行っていたのである。
「うん、大丈夫。でも、私ね、あの時の記憶があいまいで……。
何であんな所で眠っていたのかな?」
それからラニーニャが不思議そうに答えた声が聞こえたが、
「それよりケレス君。イザベルにはもう慣れた?」
と、ラニーニャが話を変えた声も聞こえた。
(先輩が昴に行ってた!? しかも、そこで何かあったんだ!!
だから先輩の様子が変だったんだ……。なのに、先輩は僕には何も話してくれなかった……)
アルトは落ち込んだ。
すると、ケレス達の会話は暫く聞こえたがその後、幸せな寝息の音へと変わる。
(仕方がない……。僕じゃ先輩は頼ってはくれないんだ……)
そんな二人の仲を見せつけられたアルトはそう痛感し、眠れない夜を唯、瞳を閉じて過ごした。
それから朝日が昇りかけた頃、ケレス以外の者は起きて出発の準備を終えた。
そして、やっと起きたケレスも加え出発し、また数時間朱雀達の背に乗り凍った海を渡り続けた。
すると、
「陸地が見えたぞ!!」
と、ジャップが叫んだ。
「えっ、本当か!? 見えないけど?」
そんなジャップの声にケレスは目を皿にする。
だが、目を皿に下アルトにも何も見えなかった。
「ほら、あそこだ!!」
「本当だ! 陸地だ!!」
すると、ジャップが指差した方を見たケレスは歓喜の声を上げた。
それからその陸地がアルトにもはっきりと見える様になり、
アルトを乗せたメタはその陸地に徐々に近づいて行った。
その陸地に全員無事に上陸するともう時は昼を過ぎていた。
そこで急にオルトがある方向を見て他の二体に鳴き声で何かを知らせたのである。
「オルト、どうしたの?」
そんなオルトにラニーニャがそう聞くとオルトはいきなり走り出し、
それに他の二体も続いたのでアルト達もそれに続いた。
そして、アルト達がオルトに付いて行くとそこには宝珠の国の皇女とララがいたのだ。
「ミュー!!」
「ケレス!? どうしてここに?」
その宝珠の国の皇女達に向かいケレスは叫んだ。
すると、ケレスを見た宝珠の国の皇女は目を丸くして声を上げたが、
「ミューちゃん!! もう、心配したんだからね!! 勝手に突っ走るんだから!!」
と、言いながら涙を零したラニーニャは宝珠の国の皇女を抱きしめたのである。
「お、お姉ちゃん!? もう、心配症なんだから!! でも、ごめんね……」
そのラニーニャの腕の中で宝珠の国の皇女は頬を赤くしたが、喜んでいた。
「ミューちゃん、お腹、空いてない?」
「実は、空いてるんだ」
それから宝珠の国の皇女を放したラニーニャの目には少し涙が残っていた。
すると、宝珠の王女は小さく頷く。
「はい、これ」
そして、頷いた宝珠の国の皇女に微笑んだラニーニャは残った軽食とリンゴを出した。
「うわ! お姉ちゃん、ありがとう。しかも、赤き女王だ!」
そんなラニーニャがリンゴを半分に切り分けると
宝珠の国の皇女は喜んでその半分になったリンゴを食べた。
赤き女王とは宝珠の国の先代女王 マーサの為に作られた赤いリンゴの事である。
そのリンゴの赤さは宝珠の国を象徴する美しい赤色で、宝珠の国のブランドリンゴとなっている。
「はい、ララ。あなたの分。ミューちゃんを、ありがとうね!」
それからラニーニャが残りの半分の赤き女王を出すと、
ララもそれを美味しそうに、シャリシャリと音を出して食べていた。
だが、それを見ていたメタがまた赤き女王を欲しそうに鼻で、ヒューンと鳴いたので、
ラニーニャはアルト達にも赤き女王を均等に分けて配ったのである。
「あ、あの、先輩……」
そのラニーニャの行為を見たアルトはある事が気になった。
そして、その事を言おうと口を開いた。
次回【因縁の国 ~無知なる者への教えと出会い~】




