013 因縁の国からの招かねざる訪問者
ひらひらと宝珠の国では降る事のない雪を見たアルトは叫んだ。
だが、ラニーニャがその場にしゃがみ込んでしまう。
そして、そんなラニーニャに寄り添っていたアルトの前にそれは現れた……。
「あれ、雪? 珍しいね……」
舞い落ちて来る雪を見ながらラニーニャはその雪を拾った。
「何か変だ、この雪!?」
だが、その雪に危険を感じたアルトが叫ぶとラニーニャがその場にしゃがみ込んでしまったのだ。
「先輩!?」
そして、アルトはラニーニャの傍に駆け寄り声を掛けたが、
ラニーニャは何かに怯え、ふるえていたのである。
(やはり、この雪は唯の雪じゃない!? 嫌な予感がする……)
そう感じているアルトがラニーニャの傍に寄り添っていると、
宝珠の国の皇女の御供の朱雀達が一斉に唸り声を上げた。
その朱雀はクリオネを含め、全部で五体いる。
一番体が大きく、クリオネと同じ色で同じ丸い宝珠が胸元にある朱雀はクリオネの母、ララ。
だが、ララの宝珠にはクリオネと違い、その周りには羽の様なものはない。
そして、そのララより少々小さいがアルトの肩程の高さで長さは優に二メートルはある朱雀は、
オルト、メタ、パラである。
彼等は三つ子でクリオネの兄達だ。
さらに彼等の違いはオルトは額に下向き三角形とその両隣に対称的な三角形の赤色の宝珠、
メタとパラはオルトと同じ額の宝珠でメタは両頬に下向きの三角形、
パラは喉元付近に上向き三角形の赤色の宝珠が生えている事である。
そんな朱雀の家族は先程迄仲良く遊んでいたが急にアルト達の前に立ち塞がったのだ。
「君達、どうしたんだい?」
そんな朱雀達にアルトが目をやると辺りが急に寒くなった。
その寒さは体の芯から来る異常な寒さで、ふるえが止まらないのがわかった。
「みんな仕事場に入ろう。何か変だ!!」
それからケレスの提案で皆で非難しようとしたが、それは出来なかった。
何故なら、地面が凍り付き、凍った地面の下の草は何故か枯れていたからである。
(これは、まさか滅びの呪い!? どうしてこの国にそんな事が起きるんだ?)
それを見たアルトは息を飲んだ。
「ヤバいな、これは……。お前ら気を付けろ!! 祟り神が来る!!」
すると、ジャップが叫ぶ。
(祟り神だって!? そんな馬鹿な!!)
そして、アルトが身構えると降ってくる雪も多くなり、
その雪までもが有ろう事か草木を枯らし始めてしまったのだ。
「このままじゃ僕達も危険だ。何処かに非難しないと……」
そんなアルトがこの状況を打開しようとした時、それは現れた。
そう、現れたのは禍々しい気配を纏った、巨大な猪の姿をした祟り神だったのだ。
そして、その猪の祟り神は赤黒い瞳でアルト達に殺意を向けてきたのである。
(これはまた、立派な猪の祟り神だね……。
でも、この姿からして、この国のものじゃない。まさか、剣の国から来たとでも言うのか!?)
、身震いしながらもその猪の祟り神をアルトが分析していると、
その猪の祟り神から禍々しいマナが溢れ出した。
すると、舞い落ちる雪にその猪の祟り神のマナが次々と溶け込み、
その雪は辺りの草木を次々と枯らしていったのである。
そして、その現象に比例する様に猪の祟り神の禍々しさはどんどん増していき、
その威圧感にアルトは背筋が凍る程 恐怖を感じ、ウルブルふるえ何も言えなくなった。
だが、動けないのはアルトだけではなかった。
ジャップもラニーニャも、ケレスも、宝珠の国の皇女の皆がそうだったのである
そして、アルト達が動けずにいるとその猪の祟り神は徐にアルト達に近づいて来る。
(マズイね……。祟り神とはこんなにも恐ろしいものだったのか……)
為す術が全く無くなったアルトはふるえる事しか出来ずにいた。
だが、アルト達の前に立ち塞がっていた朱雀の五体が行動を起こしたのである。
そう、朱雀達の宝珠が赤く光り輝き出したのだ。
それから朱雀達の体は炎を纏わせ体全体に炎が宿ると、
それはまるでアルト達を守る炎の壁となった。
すると、その朱雀達が作り出した炎の壁を見た猪の祟り神は一度は怯み足を止める。
だが、またアルト達の方へ進み出したのだ。
その猪の祟り紙に朱雀達が炎のマナで攻撃した。
(朱雀達の攻撃が効いてない!? どうすればいいんだ?)
そう、朱雀達の攻撃に猪の祟り神は全く怯まなかったのだ。
近づいて来る猪の祟り神に打つ手が無いアルト達が動けずにいると、
今度はクリオネが全身の毛を逆立て、牙を剥き出しにした。
すると、クリオネの模様のタビーから金色の火の粉が溢れ出し、
その火の粉でクリオネはまるで金色の炎の羽を生やした別の生き物と化す。
そして、その炎と共鳴する様にクリオネの宝珠が白銀に輝き出すと、
その輝きに猪の祟り神は怯み、逃げたのである。
(さすが、アマテラス様の御加護を享けただけあるね。
彼女の宝珠は災いを祓う力が宿っているんだ!)
動ける様になったアルトが状況を確認していると、
「クリオネ!? 待って!! ララ、お願い!!」
と、叫んだ宝珠の国の皇女はララの背に乗ってクリオネを追い掛けて行った。
「ミュー、待て!!」
そして、ジャップが叫んだがララは宝珠の国の皇女を乗せたまま凄い速さで去ってしまった。
(全く、また勝手に突っ走るんだから!!
本当、こういう所は血は繋がってない癖に、兄妹そっくりなんだから!!)
そんなララ達を見送ったアルトの眉間にしわが寄る。
すると、いつの間にか動ける様になっていたラニーニャは たぬてぃとオルトの背に乗っていた。
「先輩!? 待ってください!!」
それを見て、今度はアルトがそう叫ぶと、
「俺も、行く!!」
と、叫んだジャップがメタの背に乗ったので、
「僕も、行きます!!」
と、言ったアルトはパラの背に乗った。
「ちょ、ちょっと待って!? 俺はどうすれば……」
だが、どうするか決まっていないケレスは三人の顔を見渡していた。
「ケレス、後ろに乗れ!!」
すると、ジャップがメタの背に乗れる様にスペースを作る。
「ええぇぇ!? わ、わかった!!」
なのでケレスはメタの背に乗り込んだ。
「よし、ケレス!! しっかり捕まってろよ!! じゃあ、メタ、頼んだぜ!!」
それからジャップが叫ぶとメタは勢いよく走りだし、アルトを乗せたパラもそれに続いた。
暫くアルト達を乗せた朱雀達はララ達を追い掛け颯爽と走り続けた。
(ケレスの奴、朱雀に乗れなきゃ、アカデミーの試験に受からないぞ?
前も思ったけれど、彼は本当にアカデミーにいく気はあるのかな?)
その途中、ケレスを見たアルトは心底、心配になってしまった。
何故ならケレスはジャップの背に必死にしがみつき、揚げ句の果てに目を閉じていたからである。
アルトが心配するのも無理はない事なのだ。
それは、ケレスが目指しているアカデミーの試験には、
宝珠の国民と共に宝珠の国を守って来た朱雀の背に乗るものがある。
だが、それにもかかわらず、どう見てもケレスは朱雀には乗れていない。
ましてや朱雀は颯爽と掛ける時、全ての足が炎と化して滑る様に駆け抜けるので、
バランスを取るのが非常に難しいのである。
なのにケレスは瞳まで閉じており、何も身につけようとはしていなかったのだ。
そのケレスを見ていたアルトが呆れるやら心配するやら色々な気持ちでパラに乗っていると、
パラが軽く振り返りアルトを見つめてきた。
「すまない。君の事じゃないんだ
そのパラの頭をアルトが撫でるとパラはまた真直ぐ前だけを見て走り続ける。
そして、数時間パラ達は走り続け、目の前に広がる氷の海の前で止まった。
「海が凍ってる!?」
すると、やっと目を開けたケレスは驚いた。
「ケレス、これからどうする?」
そんなケレスを全く見ていないジャップは静かに問う。
「はっ!? どういう事だ、兄貴?」
「ここは宝珠の国の果ての地、メンカルだ。ここから先は危険だ。どうなるかは、わからん!!
だが、俺達はこの海を渡ってミュー達を追いかける。ケレス、残りたかったら降りろ!!」
ジャップの背を必死に見つめながらケレスは答えたがジャップは他の者の意見も聞かずそう決めた。
「そんな!? 姉ちゃんは、どうするんだ?」
「私、行くよ」
そして、おろおろしているケレスがラニーニャに目を転がすと
氷の海を真直ぐ見つめているラニーニャは即答した。
(全く、二人共、考えなしに言うんだから……)
そんな二人に呆れていたがアルトの答えは決まっていたのである。
「先輩が行くんなら、当然、僕は御供しますよ!」
なのでアルトはそう言って髪を軽くかき上げた。
「兄貴、このまま行ってくれ!!」
すると、ケレスはジャップの背をしっかり掴む。
「わかった。しっかり捕まっていろ、ケレス!! みんな、行くぞ!!」
それからジャップの号令で、パラ達は氷の海の上を走り出した。
そして、数時間アルト達を乗せ氷の海を走り続けた朱雀達は、ある島に上陸した。
次回【因縁の国 ~苛立ちと再会~】
次話から章が変わるよ~☆




