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「そなたは森や馬の言葉がわかるのですか?」

 王女は気になっていた疑問を口にする。 しかし疾走する馬の背で、尚且つ、後ろに流れてゆく声は髭面に届かない。

「なんですって?」

「森や馬と話せるのか、と聞いたのです」

 今度は髭面の耳元に口を寄せて言った。

「すべてがわかるわけではありません。彼らが意思を伝えたいと思った時にだけ、その声がわたしに届くようです」

 再び王女が訊ねる。

「そなたは妖術を使えるのですか?」

「もう一度言ってください」

 王女の唇は髭面の耳にくっつかんばかりになる。

「妖術を使えるのか、と訊きました」

 森の出口が見え、髭面は馬の速度を落とした。

「わたしはただの木こりです。森や動物がなぜわたしにだけ話しかけてくるのか、その理由もわかりません」

 森を抜け、街を横切り、宮殿の門をくぐるまで、王女は髭面に訊ね続け、髭面は王女に答え続けた。

「そなたのようなものがどうして木こりなどしているのです。それほど物知りなら教職にも就けたでしょうに」

「木こりがいなくては家も建ちません。声は言いました、『知識は見聞きすれば手に入る、だが使い途を学ばずして生かすことはできない』と。わたしはまだそれを見つけれられていません」

「そなたのいうことはよくわかりません」

「ははは、わたしもです。わたしが物知りなどでないことがこれでおわかりでしょう」

 どうしてもこれが欲しい、なんとかこの者を自分の傍に置いておく方法はないものだろうか。王女の欲求は一段と高まっていた。


「新しい従者に? しかしあの者はこの国の民でさえないではないか」

 国王は困惑していた。いくら娘の命の恩人でも出自も定かでない男を城内に置いておく気にはなれなかった。

「争いの時が終わるまでは、この国の森で猟師をしていたそうよ。ねえ、お父様、お願い。わたしはあの者を傍に置いておきたいの」

「弓の腕が立つのなら射手ではどうだ。南の城塔の射手が年老いたと将軍が申しておったが――」

「だめよ、射手なら争いの時が起これば戦場に送り出されちゃうじゃない」

「まあ、待ちなさい。当人の希望も訊いてみようではないか」 

 側近でさえ滅多にはいることのできない国王の居室でその相談は行われていた。大広間に控える髭面の前に国王父娘が姿をあらわす。天井の彫刻をぼーっと仰ぎ見ていた髭面は慌てて膝まづく。国王が言う。

「面をあげよ。そのほう、なにか欲しいものはあれば言ってみよ」

「おそれながら申し上げますれば、少しばかりの土地をいただければと存じます」

 家は自分で立てることができる。畑を耕し家畜を飼おう。東の大陸で覚えた皮の加工もやってみよう。そうすれば質素でも町娘と所帯をもつことができのではないだろうか。髭面のうちにそんな淡い希望が浮かんでいた。

「ああ、申しておるが?」

 国王はほくそえみ、王女は唇を噛んで悔しさを滲ませる。国王の娘である自分が望んで手に入らないものがあることが許せなかった。ややあって何事か思いついた王女は艶然と微笑む。

「そうだわ、あの者はお父様の領地である森の木々を勝手に切り倒し、禁じられている集会を開いていた。罰せねばなりません」

「なんだと? それはけしからん。衛兵を呼べ! この者を牢に放り込んでおけ」

 髭面は、たったいま描いたささやかな夢が、うたかたに消えていくのを知った。








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