第9話 迎えに来ました
依頼の内容は、単純な捜索のはずだった。
「三人パーティーのうち、一人だけが単独で戻ってきた。仲間二人は、その後の捜索で死亡が確認されている。だが、生還した本人がまた森に戻ったきり、行方が分からない」
リントの報告に、シャーロットは眉をひそめた。
「戻った理由は?」
「分からない。ただ、尋常な様子じゃなかったそうだ」
*
森の奥、崖下の窪地で、リントがようやく男を見つけた。膝を抱え、うずくまるようにして座り込んでいる。外傷は見当たらない。だが、その様子は明らかに普通ではなかった。
「いました。私が行きます」
シャーロットが近づくと、男はびくりと体を震わせ、顔を上げないまま呟いた。
「……来るな」
「迎えに来ました。一緒に帰りましょう」
「帰れるわけ、ないだろう……!」
男が、初めて顔を上げた。目は虚ろで、頬はこけていた。
「俺が、逃げたんだ。あいつらを置いて、俺だけ……! そんな奴が、のこのこ帰れるわけ、ないだろう」
シャーロットは、それ以上近づかず、その場に膝をついた。
「何があったのか、私はまだ知りません。だから、あなたが悪いとも、悪くないとも、私には言えません」
男の肩が、わずかに揺れた。
「でも、ここで一人で答えを決めなくていいんです」
シャーロットは一声かけてから男の背に触れた。魔力を通し、乱れた呼吸のリズムを、少しずつ緩やかに整えていく。
「……なんだ、これ」
「呼吸を、落ち着けています。話は、そのあとで構いません」
しばらくして、男の肩から力が抜けた。荒かった息が、少しずつ穏やかになっていく。
「俺なんか、助ける意味ないだろう」
「意味なら、あります」
シャーロットは、まっすぐに男を見た。
「あなたが帰らなければ、悲しむ人がいます。何があったのかを話すのも、責任を考えるのも、帰ってからできます」
男は、何も言わなかった。ただ、震える手で顔を覆った。
「私たちの仕事は、あなたを裁くことじゃありません。帰すことです」
長い沈黙のあと、男の口から、掠れた声が漏れた。
「……本当に、帰っていいのか」
「あなたの帰りを待ってる人が、いるんです」
シャーロットは、静かに、それでいてはっきりと言った。
男は、しばらくその言葉を噛みしめるように黙っていた。それから、震える手を、ゆっくりとシャーロットの方へ伸ばした。
*
帰り道、男は一言も発さなかった。それでも、自分の足で、しっかりと歩いていた。
町へ着くと、宿の前で、年老いた両親らしき二人が男の姿を見つけ、駆け寄ってきた。
「無事だったんだね……!」
母親らしき女性が、泣きながら男に抱きついた。男は、それに応えるように、崩れ落ちるようにして涙を流した。
シャーロットは、その光景を少し離れた場所から見ていた。
「今日のは、見つけた後がいつもと違ったな」
リントが、ぽつりと言う。
「そうですね」
「剣も、背負って運ぶ必要もなかった」
ガレオンが、静かにそう付け加えた。
シャーロットは、小さく頷いた。
見つけても、それだけでは帰れない人がいる。傷を塞ぐことも、背負って運ぶことも、今日は必要なかった。




