第7話 小さな綻び
市場の外れで、シャーロットは見覚えのある後ろ姿を見つけた。
「レイラさん」
振り返った女性は、一瞬驚いた顔をして、それからすぐに笑みを浮かべた。
「あら、シャーロット。噂は聞いてるわよ。森で人を助けて回ってるんですって?」
「大したことでは、まだありません」
「十分よ。あなたたちの話、あちこちで聞くようになったもの」
レイラは、今は隣街の治療院で働いているのだという。契約解除された白魔導師たちは、それぞれ別の場所で新しい居場所を見つけつつあるらしい。
「他のみんなも、元気にしていますか?」
「まあまあね。……ただ」
レイラの声が、少しだけ低くなった。
「銀剣クランの方は、あまりよくないみたい」
「よくない?」
「知り合いから聞いた話だけどね。私たちが抜けてから、小さな怪我人が増えてるんですって。ポーションの消費も、当初の見込みよりかなり多いとか」
シャーロットは、何も言わなかった。驚きはなかった。危険を避ける者がいなくなれば、危険に踏み込む回数は増える。そうなれば、怪我も増える。
「でも、クランマスターはまだ方針を変えるつもりはないみたい。“体制変更直後の一時的な混乱だ”って見てるらしいわ」
レイラは、皮肉っぽく肩をすくめた。
「まあ、私たちにはもう関係のないことだけど」
「……そうですね」
あの場所が困ればいいと、思っているわけではない。
ただ、あの頃一緒に働いていた仲間たちが、まだあの場所で無理を重ねているかもしれないと思うと、心のどこかが落ち着かなかった。
「顔、暗いわよ」
レイラが、からかうように言う。
「あなたが気に病むことじゃないわ。それより、今のあなたたちの仕事の話を聞かせてよ」
シャーロットは、少しだけ表情を緩めた。
「――帰れなくなった人を、迎えに行く仕事です」
「いい仕事ね」
レイラは、そう言って微笑んだ。
*
その夜、シャーロットはリントたちに、レイラから聞いた話を短く伝えた。
「ふうん」
リントは興味なさそうに相槌を打っただけだった。ガレオンも特に反応を示さない。
ただ、フィンだけが、少し考えるような顔をした。
「もし、銀剣クランからも依頼が来たら、どうします?」
シャーロットは、しばらく黙っていた。
「――受けます。困っている人を選ぶ理由には、なりません」
その答えに、三人は、それぞれの仕方で頷いた。




