第6話 二件目の夜
初めての依頼から、十日が過ぎていた。
「また依頼か」
ギルドの受付から差し出された紙を受け取り、リントが面倒くさそうに目を通す。
「無所属の駆け出し二人組。ヴェルダ大森林へ希少樹液の採取に入ったまま、帰還していない。今夜から嵐が来る」
「行くしかないっすね」
フィンはすでに荷を背負い直していた。
トーマの一件が広まったのは、思ったより早かった。誰から聞いたのか、「帰ってこない仲間がいる」「捜してもらえるか」と、相談されることが増え始めていた。まだ「救難団」と呼ばれるような大層なものではない。それでも、少しずつ名前が挙がり始めていた。
*
森に入った頃には、すでに雨が降り始めていた。
「痕跡が薄い。雨で流されかけてる」
リントが舌打ちする。それでも足を止めず、地面と木の幹を交互に確認しながら進んでいく。
しばらく進んだところで、リントが川沿いで足を止めた。
「ここで痕跡が乱れてる。……増水だな」
普段は浅い沢が、雨で一気に水嵩を増していた。地図にない場所まで水が広がっている。
「渡れずに、迂回して迷ったか」
ガレオンが呟く。リントは頷き、獣道のさらに奥へと進路を取った。
一時間ほど進んだところで、木の洞に身を寄せる二つの人影が見えた。
「た、助けが……本当に、来た……」
震える声で、片方が言う。全身ずぶ濡れで、唇が青紫に変色しかけていた。怪我はないようだが、長時間濡れたまま夜を越そうとしていたのは明らかだった。
「大丈夫です」
シャーロットは二人の間に膝をつき、両手を彼らの背に添えた。冷えきった体を一気に温めるのではなく、呼吸と循環の様子を確かめながら、少しずつ体温を戻していく。急に熱を入れれば、逆に体への負担になる。
「毛布を」
ガレオンがすでに用意していた防水の毛布を、二人にかける。
「来た道は使わない。沢から離れて戻る」
リントはすでに、水を避けられる帰路を探し始めていた。
「歩けそうか」
「もう少し温めてからにします。フィン、どちらかが歩けなくなったらお願いします」
「了解っす」
*
町へ戻った頃には、雨はさらに強くなっていた。それでも、二人は自分の足で治療院までたどり着くことができた。
「ありがとう、ございました……」
若者の一人が、震える声で頭を下げる。
「無茶はしないでください。天候が崩れそうな時は、早めに引き返してください」
シャーロットがそう言うと、若者は苦笑いのような、泣き笑いのような顔をした。
*
その帰り道、雨に濡れながら歩く四人の後ろで、通りすがりの冒険者らしき二人組が話しているのが聞こえた。
「聞いたか。帰ってこない奴がいたら、あの四人に頼めって話だぜ」
「討伐でも護衛でもないのに、妙な連中だよな」
リントが、ちらとそちらを見やった。
「……そういう風に、言われ始めたか」
「悪くないっすね」
フィンが笑う。ガレオンは何も言わず、ただ小さく口の端を上げただけだった。
シャーロットは、雨に濡れた前髪をそのままに、小さく息を吐いた。
まだ名前もない。組織と呼べる形もない。それでも、確かに何かが積み重なり始めていた。




