第4話 誰かの帰り道
森の中は、思ったより静かだった。
「痕跡はこっちだ。踏み荒らし方から見て、まだ動けてる。ただし、足取りが乱れてる場所が多い」
先頭を行くリントが、時折しゃがみ込みながら短く報告する。ガレオンは音もなく周囲を警戒し、フィンは荷を背負ったまま、誰よりも軽い足取りで木々の間を進んでいた。
日が完全に落ちる前に、見つけなければならない。
「――こっちだ」
リントが足を止めたのは、崩れかけた岩場の陰だった。
「トーマ、さん……?」
シャーロットが呼びかけると、岩の隙間から、微かな呻き声が返ってきた。
覗き込むと、若い男が膝を抱えるようにして座り込んでいた。足首が不自然な方向に腫れ、唇はひび割れている。水も食料も、とうに尽きているのだろう。
「だ、誰か……本当に、来てくれたのか」
トーマの目に、涙が滲んだ。
「動けなくて、ずっとここに……もう、誰も探してくれないと思ってた」
「遅くなりました。すみません」
シャーロットは膝をつき、まず水筒を取り出した。意識がはっきりしていることを確かめ、少量ずつ水を飲ませる。それから両手をトーマの体に添えた。
魔力を通し、衰弱で乱れていた呼吸と循環を少しずつ整えていく。
「足首は折れています。今は痛みだけ抑えます。歩かせません、運びます」
「あんな、依頼を、受けて……こんなことになって……」
「今は、それを考えなくていい」
シャーロットが処置を続けていると、ガレオンが低く声を上げた。
「気配が増えた。弱った人間の匂いを拾ったらしい」
木々の向こうで、複数の唸り声が重なった。狼型の魔物の群れだ。数はまだ分からないが、囲まれつつあるのは間違いなかった。
「戦うか」
リントが剣の柄に手をかけながら聞く。ガレオンは、一瞬だけ森の奥に目をやり、それから首を横に振った。
「気配が多い。ここで削り合う理由がない――退路を作る方が早い」
「フィン」
シャーロットが呼ぶと、フィンはすでに背負い縄を構えていた。
「いつでもいけます」
「トーマさんを、お願いします」
慎重に、それでいて素早く、フィンがトーマを背に負う。処置を終えたばかりの体に負担がかからないよう、シャーロットが最後にもう一度、魔力で呼吸と心拍を整えた。
「持ちます。あとは走るだけです」
唸り声が、さらに近づいてくる。木々の隙間に、赤く光る目がいくつも見えた。




