第33話 呼ぶという判断
「今回は、少し難易度が上がる」
リントが、依頼票を四人に見せた。
「オルクス地下迷宮、中層。パーティーの一人が崖から落ちて負傷。周辺に魔物の反応もある」
「俺たちだけで、大丈夫でしょうか」
ノルが尋ねる。
「まず行ってみろ。手に負えないと思ったら、すぐ俺たちを呼べ」
ガレオンが、腰の信号笛を四人に渡した。
「これを鳴らせば、すぐ向かう」
*
現場に着くと、崖下で動けなくなっている冒険者がいた。脚の骨折に加え、近くで魔物の唸り声が響いている。
「一体だけじゃない。複数いる」
ノルが、痕跡を確認しながら言う。
「数は?」
「分からない。三、四体はいるかもしれない」
バロンが、剣の柄に手をかけた。
「俺なら、いける。足止めできる」
「待って」
ミュリエルが、崖下の負傷者を見ながら言う。
「今、動かせる状態じゃありません。処置に時間がかかります。その間、四体を相手にするのは」
「時間を稼げばいい」
バロンの声が、わずかに強くなった。
「今なら、勝てる」
その言葉に、ノルとケインが、思わず顔を見合わせた。
*
「バロン」
ミュリエルが、静かに言った。
「勝てるかどうかじゃ、なかったはずです」
バロンは、一瞬、言葉に詰まった。
剣の柄にかけた手が、そのまま止まる。
「……そうだ、な」
バロンは、小さく息を吐いた。
「悪い。今の、忘れてくれ」
「呼びましょう」
ノルが、信号笛を取り出した。
「一人でも欠けたら、意味がない」
*
笛の音から、それほど時間はかからなかった。シャーロットたち四人が到着すると、状況はすぐに動いた。
「囲まれる前に、退路を作る」
ガレオンが短く言い、フィンが崖下へ風を送りながら降りていく。シャーロットも続き、負傷者の処置に取りかかった。
魔物の群れとは、結局、一度も交戦しなかった。ガレオンとリントが退路を確保し、静かに現場を離れることができた。
*
拠点に戻ると、バロンが、真っ先に頭を下げた。
「すみませんでした。一瞬、昔の癖が出ました」
「気づいて、止まれた。それはいい」
「でも」
「でも、じゃない」
ガレオンが、バロンの言葉を遮った。
「次は、剣に手をかける前に考えろ」
バロンは、何も言い返せず、ただ頷いた。
*
その夜、ミュリエルが、少し疲れた声で言った。
「今日、私、バロンに強く言いすぎたでしょうか」
「いや」
ノルが、即座に答えた。
「あの時、誰かが言わなきゃいけなかった」
「そう、ですか」
「うん」
ケインが、水を一口飲んでから続けた。
「それに、呼んだのは正解だった。俺たち、まだ、無理する必要ない」
四人は、しばらく黙って座っていた。誰も、それ以上は続けなかった。




