第32話 四人で、はじめて
「今日、初めて四人だけで行かせる」
リントの言葉に、ノルたちの表情が強張った。
「無所属の駆け出しが一人、ヴェルダ大森林で迷って三日目。命に別状はないはずだが、そろそろ体力が限界だ」
「俺たちも、後ろからついていく。だが、指示は出さない」
ガレオンが付け加える。バロンが、少し不安げにシャーロットを見た。
「本当に、俺たちだけで判断していいんですか」
「危ないと思ったら、いつでも呼んでください。すぐ後ろにいます」
シャーロットは、それだけ答えた。
*
森に入ると、ノルは、これまでより慎重に地面を見て歩いた。
「三日前の跡は薄いが……ここ、同じ場所を何度も通ってる。多分、迷って堂々巡りしてる」
「じゃあ、この周辺を絞って捜す?」
ケインが尋ねる。ノルは、少し考えてから頷いた。
「たぶん」
「たぶんじゃ困る。もう少し確信持てないか」
バロンが、少し強い口調で言う。ノルは、むっとした顔をしたが、すぐに息を吐いた。
「……いや、待って。折れた枝も同じ方向に続いてる。足跡だけじゃない。この範囲でいい」
「なら、動こう」
*
一時間ほど捜すと、木の根元にうずくまる若者を見つけた。顔色は悪く、ひどく疲れている様子だったが、四人の姿を見ると、ゆっくり顔を上げた。
「見つけました!」
ノルが叫ぶと、四人が駆け寄った。
「大丈夫ですか」
「……水、ありますか」
ミュリエルが様子を確かめてから、ケインを見た。
「少しずつ、お願いします」
ケインが水筒を差し出した。若者は、震える手で受け取り、少しずつ口に含んだ。
「立てそうですか」
若者は足に力を入れたが、すぐに膝が揺れた。
「無理させない方がいいです」
ミュリエルが言う。
「じゃあ、俺が運びます」
ケインがしゃがみ、バロンが乗せるのを手伝った。
「行けるか」
「はい」
*
森を出たところで、離れた場所から見守っていたガレオンたちが合流した。
「どうだった」
「見つけて、連れ帰りました」
ノルが、少し誇らしげに言う。
「ノルの判断、途中で危なかったな」
ガレオンが、素っ気なく指摘する。ノルの顔が、すっと曇った。
「……はい。バロンに言われて、もう一度考え直しました」
「それでいい。一人で気づけなくても、誰かが気づけばいい」
シャーロットが言うと、ノルは、少し複雑な顔で頷いた。
*
拠点に戻る道すがら、ミュリエルが、ぽつりと呟いた。
「今日は、ちゃんと声を出せた気がします」
「気がする、じゃなくて、出てた」
ケインが言う。
「そう、ですか」
ミュリエルが、少しだけ表情を緩めた。
リントが、四人を振り返った。
「まだ、危なっかしいところは山ほどある」
「はい」
「でも、今日は、誰も俺たちを呼ばなかった」
その一言に、四人は顔を見合わせた。誰も、何も言わなかった。ただ、少しだけ、足取りが軽くなっていた。




