第30話 待った側から
拠点に現れたのは、日に焼けた、実直そうな青年だった。
「覚えて、いらっしゃいますか。俺、オルクス地下迷宮で、魔力切れで動けなくなってたところを、助けてもらいました」
シャーロットは、記憶を辿った。あの、同時依頼の日。安全区画で、一人きり夜を待っていた駆け出し。
「覚えています。あの時は、待たせてしまって」
「いえ」
青年は、首を振った。
「ケインといいます。あの日、一人で待ってる間、ずっと考えてたんです。もし、迎えが来るのがもっと早かったら。もし、あの時、誰かがすぐ来てくれる仕組みがあったら」
ケインは、少し照れくさそうに続けた。
「俺にできることがあるなら、力になりたいと思って」
*
「風魔法は、使えるんですか」
フィンが尋ねると、ケインは、少し肩をすくめた。
「多少は。でも、フィンさんほどの速さは、たぶん、ないです」
「じゃあ、ちょっと運んでみてもらえます?」
フィンは、砂袋を担いでくると、無造作にケインへ渡した。
「これ背負って、あの丘の向こうまで。悪路っす。急がなくていいんで、魔力を切らさないように運んでみてください」
ケインは、少し戸惑いながらも、砂袋を背負い、荒れた地面へと踏み出した。風の魔力を纏いながら、決して速くはない、だが乱れのない足取りで進んでいく。時折、魔力の流れを確かめるように、速度をわずかに落とす場面もあった。
戻ってきたケインは、息を切らしながらも、魔力はまだ半分近く残っているようだった。
「魔力、ずいぶん効率よく使ってますね」
フィンが、少し驚いたように言う。
「昔から、魔力量には自信がなくて。だから、少ない魔力で、どう長く保たせるかを、考えるようになりました」
「なるほど」
*
「一つ、聞かせてください」
シャーロットが、静かに切り出した。
「もし、あなたの魔力が尽きかけている時、まだ運ばなければならない人がいたら、どうしますか」
ケインは、少し考えてから答えた。
「無理に速度を出さず、歩けるくらいまで落とします。魔力が切れて動けなくなったら、それこそ、二人とも助からなくなるので」
「速さより、確実に届けることを、選ぶんですね」
「はい。俺は、フィンさんみたいに、圧倒的な速さでは救えません。だから、切らさないことで、最後まで運びたいんです」
シャーロットは、フィンと目を合わせた。フィンは、小さく頷いた。
*
その日から、ケインも、見習いとして加わることになった。彼の訓練は、フィンが見ることになった。
「速さは、俺の方が上っすよ、たぶん」
フィンが、からかうように言う。
「分かってます」
「でも、魔力の使い方は、見習うところありそうっすね」
ケインは、少し驚いた顔をした。
*
その夜、拠点には、四人だけだった頃にはなかった賑わいがあった。
「ずいぶん、狭くなったな」
リントが、椅子を数えながら呟いた。四つしかない椅子に対して、人数はすでに八人になっている。
「今度、椅子を増やさないと駄目っすね」
フィンが、笑いながら言った。




