第26話 迎えに来てくれた人へ
拠点の扉を開けると、そこに立っていたのは、まだ若い男だった。緊張した面持ちで、何度も指を組み直している。
「あの時の……」
シャーロットが口を開くと、男は、勢いよく頭を下げた。
「ノルといいます。半年前、増水したヴェルダ大森林で、助けていただきました」
「覚えています。もう一人の方は、お元気ですか」
「はい。今も、冒険者を続けています。俺は……あの日から、ずっと考えていて」
ノルは、言葉を選ぶように、一度息を吸った。
「俺も、救難団に加えてもらえないでしょうか」
拠点に、静かな沈黙が落ちた。
*
「なぜ、そう思ったんですか」
シャーロットが尋ねると、ノルは、俯きながら答えた。
「あの時、もう駄目だと思ってました。水が増えて、どこにも逃げられなくて。それでも、あなたたちは来てくれた」
「それだけで、決めたんですか」
リントが、静かに問う。
「……いえ」
ノルは、首を振った。
「帰ってから、あの場所のことを何度も思い出してました。どこで水が溜まりやすいか、どこが崩れやすいか。気になって、森に入る時も地形や足跡を見るようになって……前よりずっと、周りを見るようになりました」
「それを、活かしたい、と」
「はい。俺は、リントさんほどの技術はありません。でも、もっと覚えたいんです。自分が帰してもらったみたいに、今度は誰かを見つける側になりたい」
シャーロットは、ガレオンと目を合わせた。ガレオンは、小さく頷いた。
「一つ、聞かせてください」
シャーロットが、静かに切り出した。
「もし、目の前に、倒せる敵がいたとします。でも、倒すより撤退した方が、救助対象の安全につながる。そういう時、あなたは、どう判断しますか」
ノルは、しばらく考え込んだ。
「……分かりません。正直、まだ、そういう判断をしたことがないので」
シャーロットは、小さく頷いた。
「分からないなら、それでいいんです。これから覚えてください」
*
その日から、ノルは正式な団員ではなく、見習いとして訓練に加わることになった。現場への同行は、四人が安全だと判断した依頼に限る。
「見習い期間中は、判断は私たちに従ってもらいます。自分の判断で勝手に動かないでください」
「はい」
ノルは、緊張した面持ちで頷いた。
「一つずつ、覚えていってください。あなたが本当に、この仕事に向いているかどうかは、これから分かることです」
リントが、ノルの肩を軽く叩いた。
「最初から全部できる奴はいない。覚えりゃいい」
フィンが、明るく笑いかける。
ガレオンは、何も言わず、ただ小さく頷いただけだった。
窓の外には、夕暮れの光が差し込んでいた。




