第23話 守れなかった記憶
依頼は、オルクス地下迷宮の中層で足止めされたパーティーの救出だった。
現場に着くと、その場に残されていたのは若い剣士一人だった。仲間二人を庇って深傷を負い、動けなくなっていたという。
「俺がもっと早く退いてれば……あいつは死ななかった」
若者は、譫言のように繰り返していた。仲間の一人はすでに力尽き、もう一人は自力で先に脱出していたことが、後の聞き取りで分かった。
処置をしながら、シャーロットはふと、隣にいるガレオンの様子がいつもと違うことに気づいた。表情は変わらない。それでも、若者を見る目に、何か硬いものが混じっていた。
*
帰り道、いつもは口数の少ないガレオンが、ぽつりと話し始めた。
「昔の話だ」
シャーロットは、何も言わずに続きを待った。
「まだ駆け出しの頃、パーティーを組んでた仲間がいた。ある時、深追いしすぎた。俺が『まだ行ける』って判断したせいで、退路を断たれた」
ガレオンの声は、いつもと変わらず低く、静かだった。
「一人、死んだ。俺の判断のせいだ」
「……それで」
「それでも、剣は捨てなかった。捨てられなかった、が正しいかもな」
ガレオンは、少し先を歩くリントとフィンの背中を見た。
「代わりに、決めたことがある。倒せるかどうかじゃなく、退くべきかどうかを、先に考える。当たり前のことだが、あの頃の俺には、それができてなかった」
「今日の彼を見て、思い出したんですか」
「ああ」
ガレオンは、短く頷いた。
「あいつは、俺と同じ間違いはしてない。仲間を守ろうとして、負傷しただけだ。それでも、自分を責める顔が、昔の俺に似てた」
*
治療院に運ばれた若者は、治療を受け、しばらく休んでいた。シャーロットが様子を見に行くと、若者は、ぽつりと呟いた。
「俺、これから、どうすればいいんでしょうか」
「それは、あなたが決めることです」
シャーロットは少しだけ言葉を置いた。
「でも、今日のことだけで、今すぐ全部を決めなくてもいいと思います」
若者は、少しの間、シャーロットを見つめていた。
*
拠点に戻ると、ガレオンが、いつも通りの様子で剣の手入れをしていた。
「珍しく、喋りましたね」
シャーロットが声をかけると、ガレオンは手を止めずに答えた。
「たまにはな」
それ以上は、何も語らなかった。ただ、剣を拭う手は、いつもより少しだけゆっくりだった。




