第22話 値段のつけられない仕事
ギルドの受付に、一人の老人が、深く頭を下げていた。
「孫が、ヴェルダ大森林で行方が分からなくなって……。ただ、お恥ずかしい話、依頼料を、多くは払えません」
老人は、震える手で、僅かな硬貨を差し出した。ギルドの職員が困った顔で、シャーロットたちの方を見る。
シャーロットは、老人に近づいた。
「詳しい状況を、聞かせてください」
「で、でも、これでは……」
「料金の話は、後にしましょう」
*
孫は、駆け出しの冒険者で、初めての依頼で森に入ったまま戻らなかったという。老人はその冒険者の唯一の身寄りだった。
森での捜索は、これまでの経験からすれば、決して難しいものではなかった。リントが痕跡を追い、半日ほどで、木の根元にうずくまっていた若者を発見した。足を軽く挫いていたが、命に別状はなかった。
「じいちゃん……!」
祖父の元へ帰り着いた若者を見て、老人は、その場に崩れ落ちるようにして泣いた。
「本当に、本当にありがとうございます……」
老人は、また同じ僅かな硬貨を差し出した。
「これだけしか、ありません……」
シャーロットは硬貨を見て、それから老人を見た。
「では、今回はこれを依頼料として受け取ります」
「え……でも、こんな額では」
「これ以上は必要ありません」
*
その夜、拠点に戻った四人の間には、少し複雑な空気が流れていた。
「今日の依頼料じゃ、箱にはほとんど入らないな」
リントが、素っ気なく言う。
「いいんですか?」
フィンが、シャーロットに尋ねた。
「私たちは、お金のために、この仕事をしているわけではありません」
シャーロットは、静かに答えた。
「でも、資金がなければ、続けられないというのも、本当のことです」
ガレオンが、静かに言葉を挟んだ。
「今日の判断が、間違っているとは思わない。ただ、これから先、こういう場面は増えるだろうな」
シャーロットは、しばらく黙っていた。
「……はい。だからこそ、助けを求める冒険者が、依頼料を払えないという理由だけで取り残されない仕組みが必要なんだと思います」
「今の俺たちには、まだ作れない仕組みだけどな」
リントが、皮肉っぽく付け加える。だが、その声に、否定の響きはなかった。
「いつか、です」
シャーロットは、そう繰り返した。
昼間、老人が泣きながら孫の手を握っていた姿を思い出す。
あの帰還に、いくらの値段をつければよかったのか。
今のシャーロットには、まだ答えがなかった。




