↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/27

第21話 満ちる前に

別の依頼を終え、海沿いの町で一泊していた四人のもとへ、ギルドから緊急の使いが駆け込んできた。


「海蝕洞に冒険者が一人取り残されてる。潮が満ちるまで、あと二時間ほどしかない」


四人が海沿いの断崖にたどり着いた時には、すでに波の音が高くなり始めていた。


「洞窟の入り口は、あそこだ。だが、満潮になれば完全に水没する」


案内してきた地元の漁師が、青ざめた顔で崖下を指した。


「潮の上がり方なら、ある程度読める」


リントが、崖の岩肌に残る潮の跡を見上げながら言う。


「あと一時間半。それが、限界だ」


「急ぎましょう」


シャーロットの声に、四人は迷わず崖を下り始めた。


*


洞窟の中は、すでに膝の高さまで水が来ていた。


「こっちだ! 声がする」


リントが先導し、奥へと進む。狭い通路の先、水を避けるように岩棚に座り込んでいる男の姿があった。


「足を、挟まれて……抜けない」


男の片足が、崩れた岩の隙間に挟まっていた。水位は、じわじわと上がり続けている。


「時間は?」


ガレオンが短く聞く。


「四十分もない」


リントが即答した。


シャーロットは、男の足の状態を確認した。骨は折れていないが、岩の間に完全に嵌り込んでいる。


「ガレオン、岩を」


「分かった」


ガレオンが岩に手をかけ、力を込める。だが、びくともしない。


「駄目だ。噛み合ってる。力任せじゃ動かん」


「フィン、隙間の砂と小石を飛ばせますか」


シャーロットの問いに、フィンが岩の隙間を覗き込んだ。


「それなら、いけるっす」


フィンが手をかざすと、圧縮された風が、噛み込んだ砂礫を隙間から吹き飛ばした。荷重がわずかに抜ける。


「今です!」


その瞬間、ガレオンが岩に力を込め、わずかに持ち上げる。


シャーロットが男の足を引き抜いた。悲鳴のような声が洞窟に響く。


「折れてはいません。ですが、急いで運びます」


シャーロットが手早く処置をしながら言うと、フィンがすぐに男を背負った。


「水位が!」


リントの声に、四人は洞窟の入り口へと走った。すでに水は腰の高さまで迫っていた。


*


崖の上に全員が上がりきった時、洞窟の入り口は、すでに波に飲まれようとしていた。


「間に合った、な」


リントが、荒い息のまま呟いた。


「ぎりぎりだったっすね」


フィンが、背負っていた男をそっと下ろしながら言う。


男は、しばらく声も出ないまま、崖下で渦巻く波を見つめていた。


「もう、駄目だと思ってた……」


「間に合いました」


シャーロットは、短くそう答えた。


*


その夜、宿に落ち着いた四人は、珍しく揃って安堵の息をついていた。


「今日は、フィンの風がなきゃ終わってたな」


ガレオンが、素直に言う。


「僕、意外と役に立ちますよね」


フィンが得意げに笑うと、リントが小さく肩をすくめた。


「調子に乗るな」


それでも、その声には、いつもより柔らかい響きがあった。


シャーロットは、窓の外の暗い海を見つめた。


四人それぞれの技術が、また一つ、違う形で誰かを救った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。