第21話 満ちる前に
別の依頼を終え、海沿いの町で一泊していた四人のもとへ、ギルドから緊急の使いが駆け込んできた。
「海蝕洞に冒険者が一人取り残されてる。潮が満ちるまで、あと二時間ほどしかない」
四人が海沿いの断崖にたどり着いた時には、すでに波の音が高くなり始めていた。
「洞窟の入り口は、あそこだ。だが、満潮になれば完全に水没する」
案内してきた地元の漁師が、青ざめた顔で崖下を指した。
「潮の上がり方なら、ある程度読める」
リントが、崖の岩肌に残る潮の跡を見上げながら言う。
「あと一時間半。それが、限界だ」
「急ぎましょう」
シャーロットの声に、四人は迷わず崖を下り始めた。
*
洞窟の中は、すでに膝の高さまで水が来ていた。
「こっちだ! 声がする」
リントが先導し、奥へと進む。狭い通路の先、水を避けるように岩棚に座り込んでいる男の姿があった。
「足を、挟まれて……抜けない」
男の片足が、崩れた岩の隙間に挟まっていた。水位は、じわじわと上がり続けている。
「時間は?」
ガレオンが短く聞く。
「四十分もない」
リントが即答した。
シャーロットは、男の足の状態を確認した。骨は折れていないが、岩の間に完全に嵌り込んでいる。
「ガレオン、岩を」
「分かった」
ガレオンが岩に手をかけ、力を込める。だが、びくともしない。
「駄目だ。噛み合ってる。力任せじゃ動かん」
「フィン、隙間の砂と小石を飛ばせますか」
シャーロットの問いに、フィンが岩の隙間を覗き込んだ。
「それなら、いけるっす」
フィンが手をかざすと、圧縮された風が、噛み込んだ砂礫を隙間から吹き飛ばした。荷重がわずかに抜ける。
「今です!」
その瞬間、ガレオンが岩に力を込め、わずかに持ち上げる。
シャーロットが男の足を引き抜いた。悲鳴のような声が洞窟に響く。
「折れてはいません。ですが、急いで運びます」
シャーロットが手早く処置をしながら言うと、フィンがすぐに男を背負った。
「水位が!」
リントの声に、四人は洞窟の入り口へと走った。すでに水は腰の高さまで迫っていた。
*
崖の上に全員が上がりきった時、洞窟の入り口は、すでに波に飲まれようとしていた。
「間に合った、な」
リントが、荒い息のまま呟いた。
「ぎりぎりだったっすね」
フィンが、背負っていた男をそっと下ろしながら言う。
男は、しばらく声も出ないまま、崖下で渦巻く波を見つめていた。
「もう、駄目だと思ってた……」
「間に合いました」
シャーロットは、短くそう答えた。
*
その夜、宿に落ち着いた四人は、珍しく揃って安堵の息をついていた。
「今日は、フィンの風がなきゃ終わってたな」
ガレオンが、素直に言う。
「僕、意外と役に立ちますよね」
フィンが得意げに笑うと、リントが小さく肩をすくめた。
「調子に乗るな」
それでも、その声には、いつもより柔らかい響きがあった。
シャーロットは、窓の外の暗い海を見つめた。
四人それぞれの技術が、また一つ、違う形で誰かを救った。




