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第18話 雨上がりの谷

レンフィード村は、フェルンハイムとは違う静けさを持った小さな集落だった。


「本当に、来てくださったんですね……」


出迎えた村長らしき老人が、目に涙を浮かべながら頭を下げた。


「村を拠点にしている若い冒険者が三人、薬草採取の依頼に出たまま戻らなくて……。村の者たちでも捜しましたが、渓谷は広くて、これ以上は」


「詳しい状況を、聞かせてください」


*


三人が向かったという渓谷は、数日前の大雨で地盤が緩んでいた。あちこちに、小さな土砂崩れの跡が見える。


「足元が悪い。慎重に進む」


リントが、地面を確認しながら先導する。


「ここ、滑った跡がある。……下だ」


崖の下、緩んだ斜面の途中に、三人の姿が見えた。一人は明らかに脚の様子がおかしく、もう一人がそれを支えている。三人目は、少し離れた場所で、動けずにへたり込んでいた。


「危ないっすね、この斜面」


フィンが、崖の状態を見て顔をしかめる。


「無理に近づけば、また崩れる」


ガレオンが、周囲を見回しながら言った。


「ロープを使う。俺が上でロープを支える。リント、固定場所を見ろ」


「僕が下ります。シャーロットさんも来てください」


フィンが申し出ると、ガレオンは斜面を見て頷いた。


*


慎重に斜面を下りると、脚を痛めた男が、シャーロットを見て、安堵したように息を吐いた。


「折れて、ると思う……動かせなくて」


「見せてください」


シャーロットは、腫れ上がった脚に手を当てた。骨折を確認し、それ以上悪化させないよう、痛みと炎症を抑えていく。


「固定します。動かないで」


添え木を当てながら、シャーロットは残る二人の様子も確認した。一人は疲労と軽い擦り傷程度、もう一人は恐怖でほとんど声も出ない状態だったが、外傷はなかった。


「大丈夫です。ここから、順番に上げます」


上では、ガレオンがロープを固定し、リントが引き上げの補助をしていた。まず動ける二人が先に、続いて脚を痛めた男が、フィンとシャーロットに支えられながら引き上げられていく。


崩れやすい斜面での作業は、思った以上に時間がかかった。それでも、日が沈みきる前に、全員が無事に地上へ戻ることができた。


*


村に戻ると、待ち構えていた村人たちから、歓声とも安堵ともつかない声が上がった。


「本当に、ありがとうございます……!」


村長が、震える声で何度も頭を下げる。


「こんな遠くまで、来ていただけるとは思っていませんでした」


「助けを求める冒険者がいるなら、できる限り応えたいと思っています」


シャーロットがそう答えると、村長は言葉に詰まったように、また深く頭を下げた。


*


その夜、村が用意してくれた小さな宿で、四人はようやく旅装を解いた。


「遠かったな」


リントが、ぐったりと座り込みながら言う。


「でも、来てよかったっすね。あの人たち、村の人だけじゃ絶対助けられなかった」


フィンの言葉に、シャーロットは静かに頷いた。


窓の外には、フェルンハイムでは見られない、満天の星が広がっていた。


「これだけ遠くの声にも、届くようになったんですね」


シャーロットが呟くと、ガレオンが短く答えた。


「届く場所が増えるほど、行ける手が足りなくなる。今日みたいにな」


その言葉に、誰も、異論を挟まなかった。

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