第15話 扉の向こうから
拠点の扉を叩く音が、いつもより強かった。
フィンが応対に出ると、仕立ての良い外套をまとった中年の男が立っていた。胸元には、銀剣クランの紋章がある。
銀剣クラン。
「救難団の方に、お話が」
男は、硬い表情のまま言った。
「私はクランの渉外を任されている者です。……単刀直入に申し上げます。深部遠征に出た部隊が、オルクス地下迷宮の最下層付近で、消息を絶ちました。人数は八名」
拠点の空気が、一瞬で張り詰めた。
「自前の救助隊は?」
リントが尋ねると、男の表情が、わずかに歪んだ。
「すでに二度、送っています。どちらも、辿り着けずに引き返しました。三度目を送る余力は……正直、もう、ありません」
男は、そこで初めて、深く頭を下げた。
「クランとして、正式に依頼します。どうか、力を貸してください」
*
シャーロットは、その紋章を、しばらく見つめていた。
かつて、自分が身につけていたものと、同じ紋章。あの日、契約解除を告げられた執務室のことが、脳裏をよぎる。
「あなたは……」
シャーロットが尋ねると、男は少し驚いた顔をした。
「以前、後方支援でお世話になった者です。覚えていらっしゃらないと思いますが」
「いえ」
シャーロットは、静かに首を振った。
「覚えています。当時、いつも丁寧に、荷の受け渡しをしてくださっていた方ですね」
男の目に、一瞬、何か複雑な色が浮かんだ。それ以上は、何も言わなかった。
「受けます」
シャーロットは、はっきりと答えた。
「最後に確認できた場所と、二度の救助隊が引き返した地点を教えてください」
男は、もう一度、深く頭を下げた。
*
男が帰った後、拠点には短い沈黙が流れた。
「とうとう来たな」
リントが、ぽつりと言う。
「八人か。今までで一番の規模だ」
ガレオンの声に、緊張が滲んでいた。
「二回も救助隊が戻されてる場所っすよね。……僕ら四人で、行けますかね」
フィンの問いに、シャーロットは、しばらく答えなかった。
四人だけで、これまで積み重ねてきた。今日までは、それで十分だった。だが、二度も自前の救助隊が引き返した場所は、これまでのどの依頼よりも重い。
それでも、迷う理由にはならなかった。
「まず、辿り着きます」
シャーロットは装備に手を伸ばした。
「その先は、八人の状態を見て判断します」
窓の外はすでに暗くなり始めていた。
創設から、数ヶ月。四人はここまで、自分たちのやり方で救難を続けてきた。今度の相手は、かつて自分たちを切り捨てた、あの銀剣クランだった。




