第13話 迂回という選択
「鉄狼クランの遠征隊が、オルクス地下迷宮の深部で足止めされている。すでに自前の救助隊を送ったが、状況が悪化したらしい」
ギルドの受付から差し出された依頼票を、リントが眉をひそめて読んだ。
「悪化?」
「詳しいことは、向こうで聞いてくれと」
*
現場に着くと、地下迷宮の入り口付近には、疲れきった様子の男たちが座り込んでいた。鉄狼クランの紋章をつけた、屈強な戦士たちだ。何人かは、包帯を巻いている。
「あんたたちが、噂の救難団か」
隊長格らしき男が、苦い顔で立ち上がった。
「うちの遠征隊が、深部の崩落で三人取り残されてる。それで俺たちが救助に入ったんだが……」
男は、言葉を濁した。
「正規の通路を群れに塞がれてた。あそこを抜かないと三人のところへ行けないと思って、排除しながら進もうとしたんだが……」
「戦闘音で、さらに寄ってきた。しかも足場まで崩れ始めた」
シャーロットは、黙って続きを促した。
「今の状況は」
「深部の三人は、まだ生きてるらしい。ただ、こっちからは近づけない。戦って道を作ろうにも、これ以上暴れたら、今度こそ完全に塞がる」
リントが、地図を覗き込んだ。
「別のルートは?」
「そんなもの、あるのか」
「探す。それが仕事だ」
*
リントが見つけたのは、遠征隊が使った正規のルートとは反対側、崩落で生まれた新しい隙間だった。狭く、目立たない道だが、正面よりずっと静かに進める。
「音を立てるな。ここは、揺らせば崩れる」
四人は、慎重に進んだ。ガレオンは剣を抜かず、遭遇した数体の魔物も、戦わずに気配を殺してやり過ごした。
「厄介そうな相手ほど、避けられるなら避ける方がいい」
ガレオンが、小声で言う。
深部にたどり着くと、三人の遠征隊員が、瓦礫の隙間で身を寄せ合っていた。
「本当に、来てくれたのか……うちの救助隊でも、近づけなかったのに」
「戦う必要は、なかっただけです」
シャーロットは、そう答えながら、三人の状態を確認していく。一人は打撲、一人は脱水、もう一人は目立った外傷はないが、消耗が激しい。
「三人とも、歩けますか」
「多分、大丈夫だ」
「フィンは、いつでも一人運べるように。ガレオンは護衛を。リント、来た道を戻ります」
四人は、来た時と同じように、静かに、慎重に、脱出路を戻っていった。
*
地上に出ると、隊長格の男が、驚いた顔でこちらを見た。
「……三人とも連れて帰ってきたのか。群れは?」
「避けました」
「避けた?」
「戦う必要が、なかったので」
シャーロットが淡々と答えると、男は何か言いかけて、結局、ただ深く頭を下げた。
帰り道、リントがぽつりと呟いた。
「あの隊長、複雑そうな顔してたな」
「勝ち負けの話じゃありません」
「分かってる。でも、ああいう連中には、たまに効くんだよ」
ガレオンが、珍しく笑いを含んだ声で言った。
「戦って解決できないこともあるって、身をもって知る機会はな」
シャーロットは、それには答えず、ただ小さく息を吐いた。




