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冷酷公爵との新婚生活を未来視したら、なぜか溺愛されていました  作者: 岸根しき


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4/7

4話 不器用な夫との新婚生活

 暖かな陽光がカーテンの隙間から差し込み、私はまどろみの中で目を覚ました。


(……ん……?)


 身体中が、痛い。


 昨夜の出来事を思い出し、ぼんやりしていた意識が一気に覚醒する。


(ま、待って……昨夜のあれ……初夜……だったわよね!?)


 クラウス様の寝たふりを見破って、ほんの少しいたずらするつもりが――未来が、変わってしまった。


 私は布団をぎゅっと引き寄せ、隣に視線を向ける。


 クラウス様は、背を向けたまま静かに横たわっている。


(まだ寝てるのかしら……)


 ――が、よくよく見ると、耳が真っ赤だった。


(え、かわいい)


 これは、確実に寝たふりだ。


 昨夜もそうだったけれど、どうやらクラウス様は「寝たふりでやり過ごす」という選択をしがちらしい。


(うん、間違いない。これ、絶対動揺してる)


 私の視線に気づいたのか、クラウス様がゆっくりとこちらを向く。


 灰色の瞳がこちらを捉えた瞬間、私は軽く微笑んだ。


「おはようございます、クラウス様」


「……ああ」


 一拍遅れて返ってきた声は、いつも通りの低く落ち着いたもの。


 すぐにまた背を向けられてしまったけれど、照れているだけだとわかった今は、むしろ愛おしい。


 不器用なクラウス様が可愛く見えて、同時に、いたずら心がむくむくと湧いてしまう。


 私はそっと、彼の背中に頭を寄せて囁いた。


「昨日は……嬉しかったです」


 ドッドッドッドッドッ!


(……え?)


 ドッドッドッドッドッ ドッドッドッドッドッ ドッドッドッドッドッ……。


 鼓膜に直接響くような心臓の音が、耳元で鳴っている。


(ええええ!? 何この爆音!?)


 どうやら、クラウス様の心臓が大変なことになっているらしい。


「クラウス様?」


 呼びかけると、彼はゆっくりとこちらを向き、眉をひそめながら小さく息をついた。


 ――そして、私の額に、そっと唇を落とす。


(……えっ)


 思わず、心臓が跳ねる。


 彼はいつもの冷静な顔のまま、私の頬に手を添え、低く囁いた。


「……からかうな」


 その言葉とは裏腹に、指先は優しく、そっと私の髪を梳いていく。


(た、大変だ……)


 もしかしたら今度は、私の心臓の音が、クラウス様に聞こえているかもしれない。



 無事(?)に初夜を終え、私とクラウス様の新婚生活が始まった。


 とはいえ――クラウス様は、相変わらずの無表情。


 初日の朝は照れ隠しなのか背を向けたままだったし、その後も、妙に距離を取ろうとする。


 朝食を共にできるかと思えば、すでに執務室へ。


 話しかければ返事はするけれど、短い単語で終わらせようとする。


 でも、私は知っている。


(クラウス様は、ただ不器用なだけ!!)


 未来視が見せた、初夜のことで悩む彼の姿。


 あれを見た以上、私はもう、彼のそっけなさに惑わされたりしない。


 夕食を終えたあと、私はさりげなくクラウス様を誘ってみた。


「クラウス様、一緒にお庭を散歩しませんか?」


 彼は一瞬だけこちらを見て、ほんの少し考える素振りを見せた後――


「……ああ」


 端的な返事。


(ふふ、やっぱり)


 すっかり彼の性格を把握しつつある今となっては、この反応も想定済み。


 食事中も無駄な会話を挟まないし、感情を大きく表に出すこともない。


 私が何かを提案すれば、必要か不要かだけを判断して、最小限の言葉で返してくる。


 でも――


(だからこそ、「ああ」と言った時点で、もう答えは決まっているということ)


 表情にほとんど変化はなくても、彼は私の誘いを断るつもりはなかったのだ。


 私は何も気にしていない顔で微笑み、クラウス様と並んで庭へ向かった。


 夜の空気は少しひんやりとしていて、秋の気配を感じる。静かな庭には、ほのかに花の香りが漂っていた。


 頭上には星々が広がり、風がそっと肌を撫でる。


 クラウス様は一言も話さず、ただ静かに私の横を歩いていた。


 私が話しかけなければ、きっと何も話さないまま散歩は終わるだろう。


(別に、気の利いた会話を期待しているわけじゃないもの)


 会話がなくても、同じ空間で、同じ時間を共有すること。


 それが今は、何より大切なのだ。


 彼の歩幅に合わせて歩きながら、ふと気づく。


 クラウス様の歩幅が大きいせいで、私が少しずつ遅れ気味になっていることに。


 だから、何も言わずに――すっと、彼の手を取った。


「……!」


 ぴたり、と動きが止まる。


 驚いたように私を見下ろすクラウス様。けれど、手を振り払うことはしない。


 むしろ――指先に、ほんの少し力が込められる。


(……やった)


 私は何事もなかったかのように微笑み、そのまま歩き出す。


 クラウス様も黙ったまま、手を離そうとはせず、歩き続けた。


 ちらりと横顔を見上げると――耳が、また赤い。


 もちろん、ここで「クラウス様、耳が赤いですよ?」なんて言ったら逃げられてしまう。


 だから私は、あえて気づかないフリをして、当たり前のように手を繋ぎ続けた。



お読みいただき、ありがとうございます!

言葉は少なくても、少しずつ距離を縮めていくリディアとクラウス。

耳を赤くしながらも手を離さないクラウス様でした。

次回、リディアはこれまでとは違う未来を視ることになります。

毎日更新全7話です。

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