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冷酷公爵との新婚生活を未来視したら、なぜか溺愛されていました  作者: 岸根しき


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3/7

3話 氷の公爵様、実はウブでした

 結婚式が終わり、新居となるベルンハルト公爵邸へ。


 案内された寝室で、私とクラウス様は同じ部屋を使うことになっていた。


 そう――今夜は、初夜である。


 この状況、さすがに何かしらの進展があるはず。


(少なくともキスくらいは……いえ、もしかして抱きしめられたり……!?)


(いやいや……初夜よ!? 「氷の公爵様はベッドの中では野獣でした」なんて可能性もあるじゃない)


(……あ、どうしよう。緊張してきた)


 期待と不安で心臓が跳ねる中、クラウス様が静かに寝室へ入ってくる。


 ベッドの上に座る私を一瞥するクラウス様。その冷たい瞳が熱を帯び……クラウス様のクラウス様が――……。


 ――なんて展開は、なかった。


 クラウス様は無言でベッドに入り、私に背を向けた。


(……え?)


 言葉もなく、背を向けたまま、すぐに寝息が聞こえてくる。


(えっ、ちょっと待って!? 初夜なのに!?)


 まるで何もなかったかのように、すんなり寝られてしまった。


(新婚の夫婦ですよ!?)


(まさか、私のこと、本当にどうでもいいとか……!?)


 そんな不安がよぎった瞬間――


 視界が、揺れた。


 瞼の裏に光の粒がちらつき、未来の断片が意識に流れ込んでくる。


 ――そこは、朝日の差し込む公爵邸の執務室。


 机に向かうクラウス様が、無表情……のようでいて、どこか困惑した様子で書類に目を落としている。


 相変わらず座っているだけで麗しいけれど、手にした羽ペンの動きが、明らかに鈍い。


 ふと、彼はこめかみを押さえ、小さく呟いた。


『……昨夜、どうするべきだったのか……』


(え? 昨夜……?)


 傍らで書類を整理していた侍従のオスカーが、呆れたように言う。


『初夜に奥方様を放置してお休みになるとは。さすが氷の公爵様ですね』


 皮肉まじりの軽口から、気安い主従関係が伝わってくる。


『……やはり、リディアは怒っているだろうか』


(えええ!? まさか、初夜のことを後悔してるの!?)


 クラウス様は僅かに眉間に皺を寄せ、自分の出した結論を持て余している。


『だが、まだ……顔合わせと結婚式の二回しか会っていないのに、その……』


 そして、顔を伏せた瞬間――耳が、赤い。


(……え?)


(まさか、まさか……)


 その瞬間、視界がふっと元に戻った。


(今のは、本当にクラウス様……?)


 あの端正な顔立ちは、間違いなく私の夫、クラウス・ベルンハルト公爵。


 けれど未来視で見た彼は、これまでの印象とはまるで別人だった。


 氷の公爵――いいえ、違う。


 あの未来視が本当なら、彼は氷の公爵どころか、ただの“ウブ公爵様”ではないか。


(か、かわいい――!!)


 そう思った瞬間、今までの彼の行動がすべて、ただの不器用さゆえのものにしか思えなくなった。


 婚約期間中、一度も会ってくれなかったのも。


 結婚式でほとんど言葉を交わさなかったのも。


 初夜に、無言で寝てしまったのも。


 ――ぜんぶ、ただの不器用だったから!?


 私は、すぐ隣で背を向けているクラウス様を見つめる。


 彼はいつも通りの無表情のまま、何事もなかったかのように寝息を立てている。


 けれど、昨夜のことで悩む未来があるというのなら――。


(絶対、寝たふりしてるでしょ!)


 私はそっと指を伸ばし、彼の背筋をゆっくりとなぞった。


 クラウス様の身体が、びくりと震える。


(やっぱり!!)


 けれど、どうやら寝たふりは続行の方針らしい。


 無言のまま微かに硬直している広い背中に、私はますますいたずら心をくすぐられた。


(どうせ今日は、初夜なんてないんだし……)


 だったら、少しくらい意地悪をしてもバチは当たらないはず。


 だって、婚約期間中、一度も会ってくれなかったんだから!


 私はそっと顔を寄せ、クラウス様の耳元に柔らかく息を吹きかけながら――


「クラウス様。大好きです」


 そう、甘く囁いた。


 ――瞬間。


「っ……!」


 気づけば、私はベッドに押し倒されていた。


 銀色の髪がさらりと揺れ、頬をかすめる。


 至近距離にある、クラウス様の顔。


 いつも冷静な灰色の瞳が、熱を帯びて揺れている。


「……リディア」


 低く、けれどどこか戸惑いを滲ませた声。


(えっ、待って待って!? 私、ちょっとからかおうとしただけなのに!?)


 彼の体温が、驚くほど近い。触れる吐息が熱を持ち、心臓が跳ねる。


 ――そうだった。未来視って、変わるんだった。


(これ、絶対、未来変わったわよね!?)


 氷の公爵様、もとい氷壁の公爵様、もとい、ウブ公爵様が――


 “野獣公爵様”になった瞬間だった。

お読みいただき、ありがとうございます!

冷たいのではなく、実はとんでもなく不器用で初心だったクラウス様。

少しからかうだけのつもりが、未来まで変わってしまいました。

次回から、二人の不器用な新婚生活が始まります。


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