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ベール姫の暗躍物語  作者: 疾 弥生


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第5話



「殿下」

ウォルバートが小さい声で鋭く、アレクサンダーを呼んだ。

「ああ」

彼は頷く。そして、アドルフィーネを見る。

「妃殿下、嫌かもしれないが、来た方がいい。ウォルバート、騎士達に王女達を守るよう伝えてから来い」

アレクサンダーは指示を出す。

「かしこまりました」

ウォルバートは承知すると、王女2人を安全な場所へと連れて行くため、その場を離れる。


「妃殿下」

アレクサンダーは呼びかける。

「ええ、分かっています。王太子殿下でしょう?向かいます」

彼女は怖い顔で答えた。


そう、王太子が広間から消えたのだ。アレクサンダーと会話をしつつ、剣舞も見ながらも、よく王太子の様子を見ていたな、と彼は彼女に感心する。


「ええ。行きましょう」

アレクサンダーは彼女を伴い、広間を出た。







「殿下」

アレクサンダー達が廊下に出ると、1人の影が彼を呼び、こそこそとなにかを囁く。

影は、アレクサンダー直属の隠密部隊である。

「分かった。その部屋にいるのだな。私は逃げ道を確保してくる。妃殿下、そのままこの者に案内してもらって部屋へ急いでください」

アレクサンダーは言う。


影の報告では、王太子はベール姫を追い、彼女に迫ったそうだ。彼女は嫌がり、近くの部屋に逃げ込んだが、王太子に部屋の隅に追い詰められそうになっている、と。


「分かりました」

アドルフィーネは頷くと、影と共にその部屋へと急ぐ。

アレクサンダーはベール姫の逃げ道を確保するため、別のルートへと向かう。

そこにウォルバートが追いついた。


「殿下、状況は」

「ベール姫が危ない。お前は妃殿下を追い、王太子の行動を一緒に止めろ」

「はっ」

ウォルバートはすぐさまアドルフィーネを追った。







部屋に入ったアドルフィーネは、ベール姫が窓際へと追い詰められているのを見て唇を引き結んだ。


「殿下!何をしてらっしゃるのです!?」

彼女は大声を上げる。

「お前!なぜここが!」

王太子は驚いた顔をして一瞬怯むが、それも束の間、負けず劣らずの大声で返す。


「私が何をしようとお前には関係ないだろう!」

王太子は叫ぶ。そして、ベール姫の手を掴もうとする。相変わらず、手篭めにしたいらしい。

彼はそうやって、第三妃を手に入れたのだ。


「関係はあります!私は正室です!素性の分からぬベール姫を娶ることなど、出来るわけないでしょう!」

彼女は叫び返す。

「妾で良いではないか。顔など関係ない。女は体だ」

王太子は気持ち悪いことを述べた。その意見に、彼女の後ろから現れたウォルバートは顔を顰める。王族の発言だと思えない。


アドルフィーネはツカツカと王太子に歩み寄り、彼の手を掴む。


「行きなさい」

彼女はベール姫に逃げろ、と促す。

「ありがとう存じます」

ベール姫は逃げようとするが、王太子が空いている手で彼女の袖を掴んだ。


王族を無碍に払うことが出来ないので、ベール姫はどうするか思案する。


「ウォルバート」

アドルフィーネは王太子を抑えるように彼に命じる。命じられた彼は、ベール姫を掴む王太子の手首を掴む。

「お前!無礼だぞ!」

王太子はウォルバートに向かって叫ぶ。


だが、そのおかげでベール姫の袖を掴む王太子の力が緩んだので、彼女はその隙に身を翻す。


「ベール姫っ!!!」

すると、窓の外から彼女を呼ぶ声が聞こえた。

ベール姫は近くの窓を開け放つ。

そして、下を見るとアレクサンダーの姿がそこにはあった。ここは3階。行けないこともない。

一瞬だけ迷い、彼女は窓枠に手をかける。


「え!何を!」

王太子は驚いて目を見開き、手を伸ばす。その手は彼女のベールをギリギリで捉えた。素顔が晒される前に、彼女はそのままそこから飛び降りた。


「殿下っ!!!」

彼女は叫びながら、アレクサンダーの胸へと飛び込む。

「っ!!!」

彼はベール姫を受け止め、胸に彼女の顔を押し当て、素顔を隠すように地面に立たせた。

3階の飛び降りた部屋から王太子達が覗いているためだ。


「ありがとう存じます」

彼女は胸に顔を埋めたまま、礼を言う。

「いや。大したことはない」

「何で下にいたのですか」

彼女は尋ねる。

「君なら飛び降りるかな、と」

アレクサンダーはにやりと笑いながら言う。


「私だと、分かったのですか」

「勿論だろう。あの柄飾り、見覚えがあった。君が剣につけていたやつだ。それに、気付いてくれ、と言わんばかりに俺を見て来たのは誰だ」

彼は少し笑って答える。ベール姫は、くすりと笑って彼を見上げた。


「剣舞、見事だった」

彼はそう言うと、自分の上着を脱いで、頭からベール姫にかける。

「お褒めにあずかり、光栄でございます」

彼女は嬉しそうな声音で答える。


「服はまたでいい。裏門に馬車を寄せてある。使え」

アレクサンダーは手短に話す。

「ありがとう存じます、アレックス」

ベール姫ことフランツェスカは、彼に微笑んだ。


そして、彼女は王宮を後にするのだった。




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