第5話
「殿下」
ウォルバートが小さい声で鋭く、アレクサンダーを呼んだ。
「ああ」
彼は頷く。そして、アドルフィーネを見る。
「妃殿下、嫌かもしれないが、来た方がいい。ウォルバート、騎士達に王女達を守るよう伝えてから来い」
アレクサンダーは指示を出す。
「かしこまりました」
ウォルバートは承知すると、王女2人を安全な場所へと連れて行くため、その場を離れる。
「妃殿下」
アレクサンダーは呼びかける。
「ええ、分かっています。王太子殿下でしょう?向かいます」
彼女は怖い顔で答えた。
そう、王太子が広間から消えたのだ。アレクサンダーと会話をしつつ、剣舞も見ながらも、よく王太子の様子を見ていたな、と彼は彼女に感心する。
「ええ。行きましょう」
アレクサンダーは彼女を伴い、広間を出た。
♢
「殿下」
アレクサンダー達が廊下に出ると、1人の影が彼を呼び、こそこそとなにかを囁く。
影は、アレクサンダー直属の隠密部隊である。
「分かった。その部屋にいるのだな。私は逃げ道を確保してくる。妃殿下、そのままこの者に案内してもらって部屋へ急いでください」
アレクサンダーは言う。
影の報告では、王太子はベール姫を追い、彼女に迫ったそうだ。彼女は嫌がり、近くの部屋に逃げ込んだが、王太子に部屋の隅に追い詰められそうになっている、と。
「分かりました」
アドルフィーネは頷くと、影と共にその部屋へと急ぐ。
アレクサンダーはベール姫の逃げ道を確保するため、別のルートへと向かう。
そこにウォルバートが追いついた。
「殿下、状況は」
「ベール姫が危ない。お前は妃殿下を追い、王太子の行動を一緒に止めろ」
「はっ」
ウォルバートはすぐさまアドルフィーネを追った。
♢
部屋に入ったアドルフィーネは、ベール姫が窓際へと追い詰められているのを見て唇を引き結んだ。
「殿下!何をしてらっしゃるのです!?」
彼女は大声を上げる。
「お前!なぜここが!」
王太子は驚いた顔をして一瞬怯むが、それも束の間、負けず劣らずの大声で返す。
「私が何をしようとお前には関係ないだろう!」
王太子は叫ぶ。そして、ベール姫の手を掴もうとする。相変わらず、手篭めにしたいらしい。
彼はそうやって、第三妃を手に入れたのだ。
「関係はあります!私は正室です!素性の分からぬベール姫を娶ることなど、出来るわけないでしょう!」
彼女は叫び返す。
「妾で良いではないか。顔など関係ない。女は体だ」
王太子は気持ち悪いことを述べた。その意見に、彼女の後ろから現れたウォルバートは顔を顰める。王族の発言だと思えない。
アドルフィーネはツカツカと王太子に歩み寄り、彼の手を掴む。
「行きなさい」
彼女はベール姫に逃げろ、と促す。
「ありがとう存じます」
ベール姫は逃げようとするが、王太子が空いている手で彼女の袖を掴んだ。
王族を無碍に払うことが出来ないので、ベール姫はどうするか思案する。
「ウォルバート」
アドルフィーネは王太子を抑えるように彼に命じる。命じられた彼は、ベール姫を掴む王太子の手首を掴む。
「お前!無礼だぞ!」
王太子はウォルバートに向かって叫ぶ。
だが、そのおかげでベール姫の袖を掴む王太子の力が緩んだので、彼女はその隙に身を翻す。
「ベール姫っ!!!」
すると、窓の外から彼女を呼ぶ声が聞こえた。
ベール姫は近くの窓を開け放つ。
そして、下を見るとアレクサンダーの姿がそこにはあった。ここは3階。行けないこともない。
一瞬だけ迷い、彼女は窓枠に手をかける。
「え!何を!」
王太子は驚いて目を見開き、手を伸ばす。その手は彼女のベールをギリギリで捉えた。素顔が晒される前に、彼女はそのままそこから飛び降りた。
「殿下っ!!!」
彼女は叫びながら、アレクサンダーの胸へと飛び込む。
「っ!!!」
彼はベール姫を受け止め、胸に彼女の顔を押し当て、素顔を隠すように地面に立たせた。
3階の飛び降りた部屋から王太子達が覗いているためだ。
「ありがとう存じます」
彼女は胸に顔を埋めたまま、礼を言う。
「いや。大したことはない」
「何で下にいたのですか」
彼女は尋ねる。
「君なら飛び降りるかな、と」
アレクサンダーはにやりと笑いながら言う。
「私だと、分かったのですか」
「勿論だろう。あの柄飾り、見覚えがあった。君が剣につけていたやつだ。それに、気付いてくれ、と言わんばかりに俺を見て来たのは誰だ」
彼は少し笑って答える。ベール姫は、くすりと笑って彼を見上げた。
「剣舞、見事だった」
彼はそう言うと、自分の上着を脱いで、頭からベール姫にかける。
「お褒めにあずかり、光栄でございます」
彼女は嬉しそうな声音で答える。
「服はまたでいい。裏門に馬車を寄せてある。使え」
アレクサンダーは手短に話す。
「ありがとう存じます、アレックス」
ベール姫ことフランツェスカは、彼に微笑んだ。
そして、彼女は王宮を後にするのだった。




