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ベール姫の暗躍物語  作者: 疾 弥生


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第25話




「ん…」

昨日は飲むスピードが速すぎたかもしれない。

フランツェスカはそう思いながら、寝返りを打った。


「っ!ぐっ!え!いっ…!」

隣にアレクサンダーが寝ていて、驚いた拍子にベッドから転がり落ちたフランツェスカ。

「……大丈夫か?」

アレクサンダーは寝転んだまま、床に尻餅をついているフランツェスカを覗き込む。


「え、あ、えっと、おは、ようございます」

フランツェスカは打ったところをさすりながら、立ち上がった。

「ああ。まだ早い。もう少し寝よう」

アレクサンダーは彼女の手を引っ張り、自分の上に覆い被さるように抱きしめる。


「ぅえっ!?アレックス!?」

フランツェスカは両手をついて、距離を取る。

「何で、一緒に、寝て!」

「覚えてないのか?」

アレクサンダーは彼女の背中に手を回し、位置を入れ替わる。


アレクサンダーが彼女に覆い被さるようになり、片手で彼女の両手首を掴み、身動きが取れないようにする。


「っ!」

フランツェスカは驚いたが、それでもニヤリと笑った。

「この話にお色気展開は要らないんです」

彼女はそう言って、手首を掴まれたまま足でアレクサンダーの腹を蹴ろうとした。

金的をしないだけマシだと思ってほしい所だ、と思いつつ、彼女は攻撃を仕掛ける。


「っ!」

アレクサンダーは彼女の足の軌道を変えに、手首を掴んだままで彼女の体の向きを変えた。


フランツェスカはいとも簡単にひっくり返され、アレクサンダーに背中を向ける形になる。

彼は、彼女の耳元で囁く。


「フランカと俺は婚約したぞ」

「っ!」

フランツェスカは驚き、振り向けるだけ振り向いて、アレクサンダーを見る。


「まさか。私と、ですか?」

フランツェスカは聞き返す。


やはり、誓約書をつくっておいて良かった、とアレクサンダーはつくづく思った。


「まあ、それは置いといて」

フランツェスカは何とまだ抵抗する気で、後ろ頭突きをかます。

「ぐっ!!!」

アレクサンダーは額に後ろ頭突きを喰らい、思わず手を離す。


「隙あり!」

フランツェスカはするりと彼の腕から抜けて、ベッドから降りる。

「俺から逃げられるとでも?」

アレクサンダーは半分涙目になりながらも、彼女の腕を掴んだ。


フランツェスカは膝蹴りをかまそうとするが、それは掴まれている腕で自分の腕を使って防御される。


「ちぃっ」

彼女は今度は足払いを仕掛けようとし、そこで部屋の扉が開いた。


アレクサンダーが彼女の両手首を掴んだまま、そしてフランツェスカは彼のふくらはぎを蹴った所で動きが止まる。


「何やら部屋で暴れる音が聞こえたので何かと思いましたが………、痴話喧嘩でしたか」

部屋に入ってきたウォルバートは呆れたように言う。

そして、扉を閉めようとしたウォルバートをフランツェスカは慌てて止めた。


「お待ちを!ウォルバート様、説明を!」

彼女は叫ぶ。

「何のでしょう?今の状況の、ですか?」

「違います!婚約の話です!」

フランツェスカはギリギリと歯を食いしばりながら、アレクサンダーの力に反抗していた。


「ああ、婚約の件ですか。何をお聞きしたいのでしょうか?日取りですか?」

ウォルバートは問いかける。

「っ!昨日、各々の処遇は聞きました」

フランツェスカは答える。

確かに、結婚がどうのこうのと話はしたようなしてないような。

彼女は「うーん」と考える。


フランツェスカの抵抗が弱まったことにより、アレクサンダーはあれよと彼女を肩に担いだ。


「っ!ちょ!アレックス!」

フランツェスカは逃げようと、彼の背中を叩く。

「とりあえず、風呂に入るか」

「え、あ、待って!」

フランツェスカは叫ぶ。

ウォルバートは非情にも部屋を出て行ったからだ。


「………分かりました。とりあえず、話を聞かせてくださいませ」

フランツェスカは諦めて、アレクサンダーに全体重を任せ、もたれかかる。

「先に食事にするか?」

「何でもいいです。言うこと聞きますんで」

フランツェスカは息を吐き、体勢を直すと、彼の首に手を回す。


「昨日は助けて頂き、ありがとうございました」

フランツェスカは彼の首元で、そう礼を言う。

「フランカもよく戦った。生きててくれて、良かった」

アレクサンダーは答える。


そう言ってもらえたのが嬉しかったのか、フランツェスカは、ふふと笑って、彼の顔を見た。


お互いが少し見つめ合う。

そして、自然と顔を傾けた。







「嘘だろ」

「あのベルンハルト公爵令嬢が結婚だって?」

「しかも、王弟殿下?」

「いやいや、なにかの間違いじゃ?」


王宮ではそんな噂が飛び交う。


その噂が飛び交うのが、なんと結婚式当日だった。

結婚式自体が嘘ではないかと思われているくらいだ。

何故なら、嫁ぐ側のフランツェスカが王宮に来て打ち合わせを行うものなのに、姿を現さないからだ。

ほとんど、アレクサンダーの方が出向いているから、相手はフランツェスカではないのではないかと疑われている。


そして、式が始まってからもおかしかった。

新婦が来ないのだ。


しかも、新婦不在でベール姫からの祝いの剣舞が始まったのだ。

彼女は「宜しければ」と、剣舞の途中にアレクサンダーを誘うという行動を取った。

それがまた前代未聞の行動だったため、招待客達は唖然とする。


「お、おいおい。あの王弟殿下がするわけが」

「ええええっ」


アレクサンダーが剣舞の相手を務めるのを了承したため、客達から驚きの声が上がる。

そんな皆の反応を見聞きしながら、ベールの中で笑っているフランツェスカ。


彼女が面白楽しんでいる様子がベール越しから分かり、アレクサンダーは思わず微笑む。


その彼の微笑みを見た客達が悲鳴を上げた。


「おおおい、見たか!」

「王弟殿下が笑ったぞ!」

「嘘だろ!」

「まさかベール姫と結婚するんじゃ」

「んなわけあるか」

悲鳴が出たり、おどろおどろしい声も出たりとちょっと面白い反応になる。


そのため、フランツェスカはまたベールの中で笑ってしまう。


「にしても流石、王弟殿下だ」

「剣舞まで出来るなんて」

「王弟殿下に合わせられるベール姫が凄いんじゃないのか」

「それはそうかもしれないな!」


色んな憶測が飛び交う中、剣舞が最後ゆっくりと終了した。

拍手の中、アレクサンダーはベール姫の手をゆっくり取る。


彼女はアレクサンダーのエスコートのもと、そのまま誓いの壇上まで上がった。


「え?」

皆の顔がきょとんとする。

何故、ベール姫が、という無言の問いが聞こえてくる。


「さて」

アレクサンダーはニヤリと笑って、ベール姫のベールをゆっくりと外した。


「っ!!!」

「なっ」

「いやいやいやいや」

「嘘でしょう!?」

「まさか」

「えーーーっ!!!」


それこそ阿鼻叫喚のような声が広間に響き渡った。




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