第23話
第二妃を殺害するため、薬のすり替えを認めた第三妃。本来、打ち首なのだが、第二妃が犯した罪を暴露し、減刑を要求する。
そして、第三妃は自死することを許された。
第二妃が犯した罪は媚薬を盛り、王太子を唆したこと。それに共犯した公爵夫妻。夫妻の多額の税金の着服などあらゆる罪が暴露され、公爵という地位の剥奪。庶民に落とされ、流罪となる。
だが、第三妃は罪の暴露はそれだけでは済まなかった。
死ぬならば、と王太子も道連れにしようと口を開いた。
王太子は見境なく王宮の女官に手を付けていたと。孕んだ者までいた、と。1人2人ではない。その女達は堕胎薬を飲まされ、子供は流されたらしい、と。
あと、よく夜を共にしていた第三妃は、王太子の企みを知っていた。
アレクサンダーを恨んでいる、と言っていたと零す。
「王弟殿下のことが怖いと常日頃から!次の王位を狙っているんだと怯えておりました!」
第三妃はアレクサンダーを見つめる。
「だから、戦であなたを殺す、と」
彼女は告げた。
その言葉に広間にいた者が全員、息を呑む。
アレクサンダーが窮地に陥ったのは、王太子の手の者だということが判明。
「王太子をここへ。罪を問いただす」
国王は命じた。
王太子も召喚され、彼も断罪されることに。
王太子の地位を剥奪。幽閉。許可がない限り、外に出ることは出来ない。
「!父上!私は何も!」
王太子は悲痛に叫ぶ。まさか。まさかだった。
「父上!」
「もうお前の父ではない。なにか申し開きか、罪人の暴露があれば聞こう」
国王は言う。
青筋がいくつも浮かんでいた。
歳がいってから出来た子供だった。甘やかしたのかもしれない。国王はこめかみを揉む。頭が痛くなってきた。
「叔父上が王位を狙っていると私に吹き込んだのは、宰相です!!!」
王太子は叫んだ。
「………そやつをここへ」
国王の命にて、宰相も召喚される。
「陛下!私は陛下の忠実なる腹心!そのようなことを言うはずが!」
宰相は叫んだ。
「私もお前のことは信じたい。だが、王太子の言うことも公平に判断したい」
皆が宰相を見つめる。
「私はこやつに唆されました!叔父上が淡々と王位を狙っていると!だから、王子達の教育にも厳しく、私にも厳しいと!だから!」
王太子は言い募る。
「戦に出ている兵の中で、自分の言うことを聞く兵がいると!その兵に、油断している叔父上を襲撃すればいい!と」
「!何を馬鹿なことを!そんなことをして、私に何の得が!」
宰相も声を上げる。
捕まってたまるものか。
「貴様に得なのは、隣国に誘われているからだろう?」
アレクサンダーは静かに口を挟んだ。
その言葉に全員が目を見開き、宰相を見る。
「王弟殿下!証拠もなしにそんなことを言わないで頂きたい!」
「バルリング公爵と組んで、資金の横流し。先に隣国からもいくらか金をもらっていたんだろう?だから、兵の配置場所などが漏れていた」
アレクサンダーはとても冷静に言葉を紡ぐ。
「何だと!」
国王が怒りの声を上げる。
「アデルバート!お前、宰相が隣国と通じていたのは知っていたのか!?」
国王が王太子に向かって大声で叫ぶ。
「そ、それは知りません!」
王太子は慌てて土下座をしながら弁明する。
「ただ!ただ!こやつは私に叔父上が死ねば、王位は確実だと唆したのです!」
「そんなもの、証拠がございません」
宰相は動揺せず、言い返す。
証拠がないなら、何も問題はない。
「では、これではどうでしょう」
厳かな女性の声が響いた。
断罪の広間にアドルフィーネがゆっくりと入ってくる。
1枚の紙を持って。
「これが証拠です」
アドルフィーネはそう突きつける。
そこには、隣国の王の名前と宰相の名前が書かれており、血判が捺してあった。
金の授受の内容であった。
「な!何でそれが!」
宰相は思わず口走る。
そして、慌てて口を手で押さえた。
「捕縛せよ」
国王が静かに言い放った。
「アレクサンダー、すまなかった」
彼は弟を見て、そう言って頭を下げた。
アレクサンダーは、先代国王が歳を召してから生まれた側室との子であった。
故に、現国王とは20ほど歳が離れている。
「いえ。何事もなく収拾がついたではありませんか」
アレクサンダーは兄を見て、緩く微笑む。
「私もこうして生きていますし、問題ないですよ」
彼はそう答え、頷いた。
「では、先に下がります」
アレクサンダーは頭を下げた。
歩く速度はいつも通りだが、心は急いていた。
廊下に出た瞬間、影を呼び、指示を出し、自分も走る。
そして、馬に素早く跨り、王宮を後にした。
♢
「っ」
どこの手練れだ、これは。
フランツェスカは唇を噛む。
「大丈夫ですか」
背中合わせに問うてくるのは、ウォルバート。
「んなわけないですけど、やるしかないんでね」
フランツェスカは短剣を構える。
「あちらは収拾ついたのでしょうか」
彼女はウォルバートに尋ねる。
「一網打尽だと思いますよ」
ウォルバートは飛んできた短剣を弾く。
それなら良い。
後は、ここを凌ぐだけ。
フランツェスカは踏み込み、相手の間合いに入っていく。
ギリギリで相手の刃物を避ける。
衣装に何回も掠るが、とりあえず肌は傷ついていない。
間合いを取るために、鳩尾めがけて蹴り上げる。
「!」
相手が後ろに跳んだ隙に、フランツェスカはまたウォルバートと背中を合わせる。
息を整える。
残りは6人。厳しい。
フランツェスカは歯を食いしばる。
「フランツェスカ嬢」
ウォルバートは声をかける。
「足は速いですか」
「……あなたを置いて逃げるわけ、ないでしょう」
フランツェスカはそう答えた。
ウォルバートは自分を逃がそうとしてくれているのだと感じる。
「馬鹿ですか」
ウォルバートは言う。
「私も逃げるに決まってるでしょう」
彼はにやりと笑いながら言った。
その言葉を聞き、フランツェスカは思わず「ぷ」と笑う。
この危険な状況で笑かしてくるとは、流石である。
「合図をしたら、耳を塞いでください」
「?あ、はい」
フランツェスカは頷く。
耳を塞ぐって何だ、と思いながら。
「北に逃げますからね」
「分かりました」
そう彼女が返事するのと同時に、ウォルバートは動く。
フランツェスカも逃走する方向の敵を蹴散らしに行く。
何合か打ち合いをしたあと、ウォルバートが叫んだ。
「塞いで!!!」
フランツェスカは慌てて耳を手で押さえる。
「〜〜〜っ!!!」
何だこれは。
耳を塞いでいても、頭が揺れるような音が響いてきた。
ウォルバートが笛のようなものを吹いたのだ。
彼は素早くフランツェスカの腕を掴み、引っ張って走る。
彼女も慌てて足を動かす。
どれくらい走ったかは分からない。
けれど、敵は頭を押さえ、あの場で転げ回っていたのは見えた。
「っ」
足がもつれそうになる。
「もう少し、です」
ウォルバートは彼女の腕を引っ張る。
後ろから足音が聞こえてきた。
蹄の音も聞こえる。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
フランツェスカの呼吸が荒くなる。
「フランカ!フランカ!」
彼女を呼ぶ声が聞こえるが、フランツェスカには今きちんと音が届かない。
さっきの笛の音で、聴覚がまだ戻っていない。
逃げなければ、という思考にだけ陥っていた。
「フランカ!!」
フランツェスカは腰をすくわれ、馬に乗せられる。
「!!!」
彼女は驚いて短剣で反撃をしようとしたら、馬が止まり、相手の胸に顔をぶつけた。
「いった…」
鼻を打った。
すると、顎を持ち上げられる。
「!アレックス!」
フランツェスカは声を上げる。
あれ。いつの間に。
「フランカ」
アレクサンダーは強く彼女を抱きしめた。
「?」
名前を呼ばれた気がするが、あまりちゃんと聞こえない。
「良かった」
アレクサンダーは彼女の耳元で呟く。
「??」
それでも、フランツェスカにはちゃんと聞こえていない。
「帰ろう」
「ん???」
フランツェスカは聞き返す。
だが、アレクサンダーは手綱を握り、馬を進めるだけ。何も喋ってこない。
フランツェスカは辺りを見回し、ウォルバートも馬に乗っていることを確認すると、ほっと息を吐いた。
良かった、無事だった。
フランツェスカは少しだけ、アレクサンダーにもたれかかる。
「……」
彼は無言で彼女のお腹に手を回し、支えるだけ。
会話が無いまま、2人は王宮へと帰還した。




