第22話
今回の漆黒の衣装、全てアレクサンダーが用意したものだった。
刺繍のハンカチのお返しとして、この衣装をくれたのだ。
それと、もう1つ。指輪も一緒に。
「それは!」
国王夫妻が声を上げる。
王弟である証の紋様が入った指輪。
フランツェスカは左の親指に嵌めていた。それは、アレクサンダーのものだという証。
「な!お前達!」
国王は驚いて声が出ない。
「私がフランツェスカ嬢に求婚致しました」
アレクサンダーは説明する。
「ですので、私はアレクサンダー殿下をお慕い申し上げております」
フランツェスカは彼に優しく微笑みかけた。
「ということで、私のフランカを信じて頂けますか」
アレクサンダーはゆっくりと壇上から下りてきて、彼女の手を取って立たせる。
ずっと膝をついたまま、彼女は話していたのだ。
「分かった。お前達がわざわざベルンヒルデ嬢を狙う理由がないな。動機が見当たらん」
国王は告げる。
「では、誰が犯人だと言うのです!」
公爵夫人が叫ぶ。
「第二妃が亡くなって喜ぶ者、ですよ」
アレクサンダーは口を開く。
「ならば、正妃か!」
公爵は言う。
「いえ、どちらかと言えば、第三妃殿下ではないでしょうか」
フランツェスカが口を挟む。
「お二人共、王子を生みました。本当は第一王子を害したい所でしょうが、先に親であるベルンヒルデ様を殺し、後ろ盾をなくそうとしたのでは?第一王子はまだ一歳。いつでも殺せますでしょう?」
彼女は推測を話す。
「確かに、第三妃は庶民だ。王子を生んだところで、その王子に王位継承権はない。だが、第一王子が死んで男児が1人になれば、話は別だ!」
公爵はフランツェスカの意見に同意する。
「第三妃を連れて来い!」
国王は命を下す。
「フランカ、外まで送ろう」
アレクサンダーにより、彼女は広間を出ることが出来た。
フランツェスカはまたベールをかけ直す。
彼女がアレクサンダーに連れられ廊下を歩いていると、第三妃とすれ違った。
「ベール姫」
第三妃は思わず声を上げる。
「これは妃殿下、ご機嫌麗しく」
フランツェスカは応える。
「私は妃よ!頭を下げなさい」
「庶民の妃がなにか?」
フランツェスカは首を傾げ、そう言った。完全に喧嘩を吹っかけている。
「あなたね!何を!」
第三妃は言う。
「たかが肉体の関係だけの妃が何の用でしょう?」
フランツェスカは更に挑発した。
「ちょっと王太子に気に入られているだけの女が」
第三妃はフランツェスカを嘲る。
「そっくりそのままお返ししますわ」
フランツェスカも嘲笑気味に返す。
「ふん!でも、今回の薬は良かったわ」
第三妃は口の端を上げる。
第ニ妃が倒れたあの状況で、王太子があり得ない行動を取っていた。あの薬の効果が素晴らしかった、と言っているのだろう。
「ああ、あなたが細工をしたやつですね」
フランツェスカは動揺せずに言う。
勝手に奪って、勝手にすり替えたくせに。
「第一、あの妙薬の噂は、王宮でしか流れていませんよ」
彼女は続けて述べた。
「は?」
第三妃は、はしたなく口を開ける。
「そんな薬など、売るわけないでしょう。誰が欲しがるかな、と私が調合した物よ。鼠を捕まえるためにね」
フランツェスカはじっと第三妃を見つめる。ベール越しに。
「薬の噂を流せば、欲しがるのは第二妃なのは想定内よ。寵愛が無いのは彼女だもの」
あの体付きだから。
「それに、彼女がたまたま身籠れたのは、媚薬を王太子に盛ったから。それくらいのことをしなければ、彼女に勝機などないでしょう。彼女の両親である公爵夫妻も共犯ではないかしら」
フランツェスカは言う。
あの醜女を王太子が好くはずない、と断言できる。
「1人生んだだけで、それからの寵愛は無い。ならば、彼女はもう一度寵愛を得るためにあらゆる手を使うでしょう。薬を使うのが、証拠隠滅出来て手っ取り早いわ」
「何で、私にそんなことを話すの!」
第三妃は言う。
「だって、今回その妙薬をすり替えたのはあなたでしょう?」
ベールの中でにやりと笑うフランツェスカ。
「何の確信があって!」
「私があなたの立場なら、第一王子を害したいもの」
「!」
「そうでしょう?第三妃」
フランツェスカは問いかける。名前を呼びもしない。
第三妃は顔を真っ赤にする。
「誰もが自分の子を王位につけたいものよ」
フランツェスカはそう言って、歩みを再開する。
第三妃は、第二妃の第一王子を孕んだ件を喋るだろう。
自分が罪を被ると知れば、今の話を口に出して減刑を言うだろう。彼女なら、恐らくそうする。
フランツェスカは振り返ることなく、王宮を出た。
アレクサンダーは、王宮を出るまで彼女達の会話に一切口を出さなかった。
「気を付けて帰れ。油断はするなよ」
アレクサンダーは馬車に彼女を乗せながら言う。
「はい」
フランツェスカは頷く。
「君はどんな衣装も似合うな」
「アレックスの見立てが良いのです。それと、指輪も」
「役に立ったなら良かった」
アレクサンダーは微笑む。
「さて、あとは裏切り者、ですね」
フランツェスカもベール越しにだが、微笑み返す。
「気を付けろ」
「ええ」
彼女は頷いて、馬車の扉を閉めた。
♢
「!」
動きが早いこと。
フランツェスカは馬車内で感心する。
ベール姫を殺しに来ている。
ベール姫がフランツェスカ・ベルンハルトと知っての所業だろう。そうでなければ、ベール姫を殺す意味がない。
ならば、先ほどの尋問の広間にいた人物からベール姫の正体を聞き及んだのか。
「はっ。面白い」
フランツェスカはベールを外し、短剣を取り出す。
「何人ですか」
彼女は手綱を曳く御者に尋ねる。
「10はいます」
御者が応える。彼は、実は、ウォルバートであった。
「いけますか?」
「やるしかないですから」
フランツェスカは答える。
「殿下が来てくれるのでしょう?」
「その手筈です。ですが、それまでもつか」
ウォルバートは答え、唇を噛む。
気配がどれも、手練れだ。
フランツェスカがやり合えるとは思えない。
「一応、いくつか武器はございます。私のことは気にせずに」
「……ですが」
「むしろ、これを機に黒幕を引っ張り出すことが重要です。私の命など捨て置きください」
フランツェスカは述べた。
「……かしこまりました」
ウォルバートは答えた。
守れ、と言わないだけ、彼女は状況をよく理解していた。
「さて、王太子派の誰かしら」
フランツェスカは暗闇を見つめた。




