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ベール姫の暗躍物語  作者: 疾 弥生


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第21話




夜。

王宮の中庭にて、第二妃ベルンヒルデと王太子がお茶をしていた。

月を見ながら、お菓子を食べる。そんな何気ないひと時。


「殿下。今日は珍しいお酒が手に入ったのですよ。どうぞ、ご賞味くださいませ」

彼女は王太子に一杯の酒をすすめる。

「ああ」

2人で杯を鳴らす。


先にその酒を口にしたのは王太子だ。


「くっ。強い酒だな…」

王太子は顔を顰める。

強すぎたのか、こめかみを押さえる王太子。


それを見てから、彼女も酒を口につけた。


「っ!」

きつい。強い。

彼女も顔を顰めた。薬の匂いを抑えるために強い酒にし過ぎたか、と後悔する。


「…っ」

熱い。体が熱い。

彼女は心臓を思わず掴む。


「!?大丈夫ですか、妃殿下」

護衛についている者が、第二妃の様子を見て声をかける。


「え、ええ。だいじょ……」

大丈夫、と言いかけて、彼女は口から血を噴き出した。


「妃殿下!!!」

彼女と王太子の側近や護衛が大声を上げた。

空気が一変する。


「殿下も大丈夫ですか!?」

王太子の様子もおかしい。足がおぼつかない。

だが、意識はある。


大声を上げたことにより、色んな所から騎士が飛び出す。第三妃やアドルフィーネも駆けつけてきた。


「殿下!!」

第三妃は慌てたように王太子に駆け寄って行く。

アドルフィーネはそれを横目に事態の収拾にあたる。


「ベルンヒルデ殿下の容体を確認してちょうだい!早く!2人が口を付けた物も回収して!王太子殿下も侍医にみせてちょうだい!」

アドルフィーネは指示を出す。


王太子は駆け寄ってきたミアを見た途端、強く抱きしめて唇を貪る。


「!!殿下!」

「殿下!今は非常事態ですぞ!」

皆が驚愕し、呆れ、声を荒げる。


「ベルンヒルデ様は大丈夫なの?」

アドルフィーネは王太子を無視して、第二妃に駆け寄って容体を確かめた騎士に声をかける。


彼は、彼女の脈や息を何回も確認したが、最後の最後で首を横に振った。


「!!!」

アドルフィーネは目を見開き、思わず体を揺るがす。

「妃殿下!」

慌てて受け止めたのは、そこに駆けつけたウォルバートだった。

「大丈夫ですか」

ウォルバートは尋ねる。

「え、ええ。ありがとう、ウォルバート」

アドルフィーネは彼に支えてもらいながら、眉間を揉みつつ、もう一度きちんと立ち直す。


「殿下!ご指示を!!」

アドルフィーネは声を上げた。

だが、その声は彼に届かない。彼は、皆がいる前でミアを可愛がっていた。

彼女はこんな所ではいけません、などと宣ってはいるが、全力で拒否もしない。


アドルフィーネはまた顔を顰める。

本当に、何も出来やしない。


「何だ?何があった」

騒ぎを聞きつけて駆けつけたのは、アレクサンダーだった。

「どうした」

彼の一言で、第二妃が倒れている所までの道のりが一瞬にして割れる。


アレクサンダーは第二妃に近付き、首に指を当てて脈をはかる。

そして、口に耳を近づけ、息をしているか確認をする。


「……第二妃を運ぶ!医者にみせ、もう一度確認させる!ここにある食事は保管せよ!王太子はどうした!?」

アレクサンダーは声を上げる。

確か、第二妃とお茶をしていたのではなかったのか。


王太子の戯れを隠していた側近達が、そろりと彼のもとを離れた。

皆の前で王太子と第三妃の行動が露わになる。


「王太子殿下を捕縛せよ!この中で1番怪しいのは殿下だ!事情を確認する!薬でも盛られたのか?水をかけて目を覚ませてやれ!」

アレクサンダーはそう言い、彼の部下達が王太子に向かって水をかける。

「きゃーっ!」

それは勿論、第三妃にもかかる。


「第三妃は部屋へ収容せよ」

アレクサンダーは次々と指示を出す。

「女癖の悪い王太子でも、今の状況なら流石にそのような行動をするまい。誰かに薬でも盛られたのだろう?今この場でそれを喜んでいるのは第三妃だけだ。監視しておけ」


「申し訳ありません、アレクサンダー殿下」

アドルフィーネは顔を顰めながら、そう口にする。

「構わない。妃殿下は部屋へ。事情は後ほど伺います」

アレクサンダーは頷く。

「バルリング公爵夫妻も呼べ。私が対応する」







様々な人の事情聴取が行なわれた。

そして、妙薬とは何か、という話が出た。


ベール姫も王宮に召集がかかる。

国王夫妻、アレクサンダー、バルリング公爵夫妻がいて、そしてそこにベール姫が参内した。


「お前が!お前の渡したあの薬が原因だろう!!」

バルリング公爵は声を荒げ、ベール姫にそう当たる。

「そうよ!お前が!」

公爵夫人も怒っていた。


「何故、私が第二妃殿下に毒を盛らねばならないのですか」

ベール姫は尋ね返す。

今日は全身真っ黒な衣装で、手袋まで黒く、ところどころにある金色の刺繍の装飾がよく映えており、高貴で存在感を示すような雰囲気を持っていた。


「あなたは前から王太子に迫られていたでしょう!?だから、私の娘を邪魔だと思ったのよ!!」

夫人は叫ぶ。

一人娘を亡くしたのだ。涙は溢れ、息も咽せていた。


「まさか。私は王太子殿下など、好いてはおりません」

ベール姫は淡々と答える。

「そんな訳ないだろう!口ではそう言っていても、王太子殿下を慕っていたに違いない!」

公爵も叫ぶように言う。

「庶民なぞ、皆そうだ!権力のある者に群がるだけの能無しが!!」

彼は軽蔑したように叫ぶ。


「あまりにも酷いお言葉ですね」

ベール姫は息を吐く。

庶民を馬鹿にしているとしか思えない。

「ならば、何故、妃殿下だけが亡くなったのですか?王太子にも薬の症状が出ていたと聞きましたが」

ベール姫は述べる。

きちんと、王太子の方には効果が出ていたと確認した。


「私は店にいましたのに。そんな遠い所から妃殿下だけを狙って毒を仕込むなど、出来るわけがないでしょう」

ベール姫は冷静に述べる。

が、そんなもの公爵夫妻には届かない。


「店にいたという証拠があるとでも?店員達の証言はあなたのアリバイにはならないわよ!」

公爵夫人は叫ぶ。

「お前など、死ねばいい!詐欺師め!!」

公爵は近くの騎士から剣を奪い、抜く。


「バルリング公爵!」

国王は止めるために叫ぶ。

「アレックス!」

国王はアレクサンダーの名を呼ぶ。

彼は、公爵の手を持って、動きを止めさせる。

「あやつが犯人だ!絶対に!」

公爵はアレクサンダーに喚き散らす。


「……私が妃殿下に毒を盛ったのは、王太子に取り入るため。それでよろしいですか」

ベール姫は静かに尋ねる。

「王太子殿下が私のことを好いていない。私も王太子殿下のことを好いていない。と言っても?」

彼女は重ねて尋ねる。


「ああ!お前が!犯人だ!」

公爵は叫ぶ。

「分かりました」

ベール姫は呆れたように息を吐く。


「私の正体を明かしましょう」

彼女はベールに手をかける。

その行動に、その場にいた皆が彼女を注視する。

「後悔しないでくださいね」

それだけ言うと、フランツェスカはベールを外し、跪拝した。


「陛下、王妃殿下。このような形で拝謁することになり、申し訳ございません」

フランツェスカは頭を下げ、挨拶する。

きちんとした、貴族の礼だった。

「顔を見せろ!詐欺師め!!」

公爵は叫ぶ。


フランツェスカはゆっくりと面を上げた。


「っ!!!!!」

国王夫妻、公爵夫妻、広間にいた護衛や側近達が目を見張る。


「ベルンハルト公爵令嬢!?」

誰かが叫んだ。

驚いていないのは、アレクサンダーだけ。


「此度の訃報、私としても驚いております」

フランツェスカは口を開く。

「バルリング公爵、ご夫人。お悔やみ申し上げます」

頭を下げるフランツェスカ。


「な、ベルンハルト公爵令嬢、だと」

公爵は開いた口が塞がらない。

「そんな馬鹿な」


「いやでも、公爵令嬢なら、あれほどの実力があっても疑わない」

側近の1人が呟いた。

「確か、バルリング公爵夫人の誕生パーティーで難曲の歌と楽器を披露したのでは?」

「確かに、それは噂で聞いたぞ」

誰かも同意する。


「その噂、私も聞きました」

王妃も同意を示した。

「確かに、ベルンハルト公爵令嬢なら出来ますね」

彼女は頷く。

「そして、王太子があなたのことを好いていないのは、私が証明しましょう」

「ありがとう存じます、王妃殿下」

フランツェスカは苦笑いで頭を下げる。

王太子が彼女のことを嫌いなのは周知の事実だ。


「それについては私も証言出来ます」

アレクサンダーも口を挟む。

「前に私と王女殿下、フランツェスカ嬢と食事をしていたら、王太子が『そんなおとこ女と仲良くしない方がいい』と宣っておりました」

彼は証言する。


「だが、ベール姫のことは好いておりましたぞ!」

公爵は叫ぶ。

「それは私がフランツェスカと知らないからでしょう?秘密にしているのは、ベルンハルト公爵家の名を借りないように仕事しているからです」

「ならば、何故、王太子にベルンハルト公爵令嬢だと名乗らない!?」


「そんなもの、面倒くさいからに決まってるではないですか」

フランツェスカは吐き捨てる。

「彼は口が固いわけではありませんもの」

その言葉に、国王夫妻は苦笑した。


「それに、別に皆に秘密にしているわけではありません。父は勿論知っておりますし、ベルクマン男爵も知っております。そちらのアレクサンダー殿下もベール姫が私だとご存知ですよ?」

フランツェスカはアレクサンダーに視線を向ける。


「ええ。知っております」

アレクサンダーは頷く。

「どうやって知った?暴いたのか?」

国王は気になったのか、尋ねる。


そういう所が気になるのは、男の性なのか。


「先の戦で、ベルンハルト公爵家が援軍を寄越してくれました。それを率いていたのは、彼女です」

アレクサンダーは答える。

「え!ほら!やっぱりだ!」

1人の騎士が叫んだ。そののち、慌てて口を噤む。


「何だ、言ってみろ」

国王の命令で、その騎士は恐る恐る口を開く。

「その戦に確かに彼女と似た騎士がいました。流石に女性がいるとは思わず、疑いもしなかったです」

「だろうな」

アレクサンダーは苦笑する。


「彼女はその際、私を庇うために傷を負いました。その時に女性と知った次第です」

「!」

そのことにフランツェスカは目を瞬いた。

怪我を負ったときから知っていたとは。

アレクサンダーは、すまない、と口パクで言う。


「ですが、その時は男装をしていると知っただけで、ベルンハルト公爵令嬢だとは思っておりませんでした。そして、帰り道に公爵家に寄ったときにフランツェスカ嬢を見て、同一人物だと分かった次第です」

アレクサンダーは説明する。

「ふむ。なるほど」

国王は納得がいったようだった。


「私の正体など、どうでも良いのです。とりあえず、私は王太子殿下のことは好いておりません。故に妃殿下の地位などを欲しません」

「口では何とでも言えるだろう!」

何故こうも信じてくれないのか。

フランツェスカは息を吐く。


「では、これで信じて頂けますか」

彼女は左手の手袋をゆっくりと外した。





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