第20話
男爵はフランツェスカの問いに緊張する。
「王太子殿下は、王の器ではありません」
男爵は意を決して答える。
彼の側近達が、驚きを露わにした。
「どうしてですか?」
フランツェスカは更に問う。
「あれは、女癖も悪い。政もほぼ正妃任せです」
「ええ、そうね」
フランツェスカは頷く。
「ですが、ご令嬢と正妃殿は友人だと聞いておりますが」
男爵は恐る恐る言う。
「友人は友人よ。だけれど、国の行く末となにか関係があって?」
フランツェスカはそう返した。
その言葉に、男爵は息を呑む。
「貴方様は一体、何をなさるおつもりで」
「さあ?」
フランツェスカは答えない。
別に謀反を起こす気はない。ただ、この国のために。不要なものは排除する。
「先の戦、裏切り行為があったことはご存知ですか」
彼女は問いかける。
「………王弟殿下が窮地に陥った、と噂の?」
戦が終わりかけのとき、王弟から援軍要請が来たらしいが、何があったかは詳しくは知らない男爵。
そこに援軍としてベルンハルト公爵家が真っ先に向かったことだけは知っている。
「そうです。裏切りにあい、殿下は挟み撃ちとなりました。裏切り者は、殿下が邪魔なのですよ。彼がいたら上手く事が運ばない。勘が良いため、色々気付いてしまいますからね」
フランツェスカは説明する。
「王太子殿下も王弟殿下が苦手でした、ね。側妃達も確か、王弟殿下は苦手だと」
男爵は呟く。
「ええ。ですが、王弟殿下とその3人ではどちらが必要ですか?男爵様」
フランツェスカは首を少し傾げ、尋ねた。
微笑みは優しいが、質問内容がえげつない。
「前者でしょう。正直、王太子殿下よりは王弟殿下に即位してもらった方が国のため、です」
男爵は正直に答えた。
ここで嘘をついても仕方ない。誰かに聞かれて咎められても仕方ない。
今、目の前にいるこの公爵令嬢に変な嘘はつけない。
男爵の答えに、側近と護衛達が咎めの声を上げる。何を言っているのか、と。
「あら、同じ意見で嬉しゅうございます」
フランツェスカはにこりと微笑んだ。
彼女の納得する答えを言えたようで、男爵はほっと息をつく。
「ですが、何故今なのですか」
「あからさまに王弟殿下を狙うという行動をしたからです」
フランツェスカの目が怖くなる。
「アドルフィーネ妃が嫁いで3年。待ちました。彼女は王太子を変えようと頑張りました。ですが、無理でした。王女殿下達の命も狙われました」
それを聞き、男爵は目を見張る。
王宮でのことは、彼は知らない。
「わたくしは、王弟殿下を支持します」
フランツェスカは告げた。
「む、謀反を起こす気ということですか」
「まさか。粛清、ですよ」
彼女はにこりと微笑む。
「別に皆を巻き込むつもりはございません。王族のゴタゴタは王族で始末してもらいますから。民に迷惑はかけませんよ」
「………あなたはどこまで何を…」
男爵は舌を巻く。
まだ18ではなかったか。この少女は一体、どこまで見据えているのか。
「私に出来ることがあるならば、何なりと」
男爵は思わず言う。
「その時はよろしくお願い致しますね。とりあえず、他言無用にして頂ければ嬉しく思います」
フランツェスカはにこりと微笑んだ。
「かしこまりました」
男爵は頭を下げて、立ち上がる。
「またおいでくださいませ。ベルクマン男爵様。お待ちしております」
フランツェスカは微笑みながら手を振って、彼を見送った。
そして、彼女は息を吐きながら座る。
「よろしかったのですか?」
ベルナは問う。
正体を明かしても良かったのかと。
「ええ。別に問題ないわ」
男爵家など、障害にはならない。
「お嬢様が気にしていないのならば、構いません」
ベルナは下がる。
「ですが、計画を言ってもよろしかったのですか?」
「いいわよ。別に」
それこそ、男爵家のせいにだって出来る。謀反を考えているのは、彼らだと。
「粛清、とは上手く言いましたね」
ベルナは言う。
「まあ、実際そうだし?」
フランツェスカは苦笑する。
アレクサンダーを助けに行ったのはたまたまだが、それをきっかけに仲良くなれたのは良かった。
互いがたまたま同じ方向を目指していることも知れた。
それならば、上手く力を合わせて目的を達成できたら、と思っている。
アドルフィーネからも好きにしろ、と後押しがあった。
「ですが、バレたら謀反ですよ」
ベルナは進言する。
「これが謀反になるわけないでしょう?どちらかと言うと、王太子と側妃の方が謀反でしょう?この国を良くしようとしないのだから」
フランツェスカはそう述べる。
「大丈夫。公爵家を巻き込まないわ。死ぬなら1人で死ぬから、気にしないで」
彼女はからりと笑って、そう告げた。
♢
王宮。
第二妃ベルンヒルデは、三妃のミアと廊下ですれ違った。
「あら、踊り子妃じゃないの」
嘲るように呼びかけるベルンヒルデ。
「これはこれは」
呼びかけられたミアは足を止める。
「私は例の妙薬を手に入れたわ」
ベルンヒルデは意地悪い顔をしながら、懐から薬瓶を取り出して見せつけた。
「!」
ミアは目を見張る。
「これで、王太子殿下は私の虜よ」
ベルンヒルデは勝ち誇ったように告げる。
「……薬を使わなければ自信がないのですね」
ミアは嫌味のように言い返す。
「!あなたは庶民でしょう!あなたの子供が王位を継げるなんて思わないことね」
ベルンヒルデは少し声を荒げ、言い返した。
「それは、あなたの子供が生きていたら、の話でしょう?」
ミアは言う。
「あなた、何を!」
「子供なんて、いつ死ぬか分かりませんもの」
最もらしい答えを返すミア。
「あなたに、私の子供を殺させやしないわ!」
ベルンヒルデは叫ぶように宣言する。
「ふん。あなたのおつむじゃどうかしらね」
ミアは嘲笑し、その場を去って行った。
「何よ!あの女!寵愛があるからって!」
ベルンヒルデはヒステリックに叫ぶ。
確かに、王太子は第三妃の体が好きだった。よく寝ているのを知っている。
「だけど、今はこの薬があるもの」
にやりと笑う彼女。
この薬があれば、王太子も自分を可愛がってくれるはず。
♢
「………えぇ、私ですか」
ウォルバートはとても嫌そうな顔で言う。
「何だ?俺に監視をしろってか?」
アレクサンダーは聞き返す。
「そりゃあ殿下にしろとまでは言いませんが、私も嫌ですよ」
ウォルバートは言う。
本当に嫌そうである。
「情事を見ておけ、ってことでしょう?嫌ですよ。汚いのに」
彼はそう吐き捨てる。
美男美女なら百歩譲って良いかもしれないが、今回は美男ではあるが、美女ではない。むしろ、醜女だ。
「そこまでのことにはならんだろうさ」
アレクサンダーはウォルバートの肩に手を置く。
「どうしてそう言えるのですか」
ウォルバートは睨むように問いかける。
「第三妃が薬を入れ替えるだろう」
「!……なるほど。なにと入れ替えるのですか」
「さあな?俺なら女には毒を盛るだろう」
アレクサンダーは推測を述べた。
「………殿下、そうなるとお思いなのですね」
ウォルバートは息を吐く。
死体が出る、と。
「分かりました。はぁ……」
彼はため息をつく。
一気に事が動くかもしれないということ。仕事が増える。
「全てが終われば、休暇をやるさ」
アレクサンダーは慰めるように言う。
「約束ですよ」
ウォルバートは睨むように言うと、その場を辞した。




