第14話
王宮の中庭。
そこの東屋にて、フランツェスカとアレクサンダーは腰を下ろし、酒を飲んでいた。
いや、飲むフリをしていた。
近くにはウォルバートも控えている。他にも何人か陰に潜んでいる気配がする。が、フランツェスカには人数までは分からない。
「さっきは気をつかわせたな」
アレクサンダーは言う。
「いえ。あれくらいしか出来ませんが」
フランツェスカは苦笑する。
流石に目の前であんなに行儀の悪い食べ方をされたら、気分良くないだろう。
「フランカはどう思った?」
アレクサンダーは頬杖をつき、彼女の方を向く。
「アレックスと同じ気持ちです」
フランツェスカは答える。
「気持ち悪いと?」
「まあ、ええ」
「汚すぎると?」
「まあ、それは、はい」
「排除してやろうかと?」
「……それは答えにくいですね」
彼女は少し不貞腐れた顔をしてみせる。
「ふ。本音は?」
意地悪い顔で尋ねるアレクサンダー。
フランツェスカは少し彼に体を寄せて近付く。今から言うことは、不敬にあたるため他の者に聞かせられない。
彼女はアレクサンダーの耳に顔を寄せて、こう言った。
「教育がなってないな、と」
「くく。そうだな」
アレクサンダーは笑い、彼女をそのまま抱きしめるようにして、腰を引き寄せる。
「………動くなよ」
彼はフランツェスカの耳元で囁く。
「はい」
彼女は小さく頷く。
何故なら、少し上で人の気配がしたから。
今彼女達がいる中庭は、王女2人の寝所の真下に位置する。
「向かいますか」
「まだだ。合図の音があるまで待て」
アレクサンダーは彼女を抱きしめたまま、会話を続ける。
そして、彼女の首に唇を落とす。
「っ!!」
フランツェスカは体を跳ねらせ、驚いた。
「このまま」
アレクサンダーは彼女を離すことなく、色んな所にキスをする。
首や頬、額、目尻とひとつひとつゆっくりと。
フランツェスカは何も出来ず、頬を染めるだけ。こんな女性のように大事に扱ってもらえるのは初めてだった。勘違いしてしまうほど。
そんな甘い時間も束の間、真上でガラスが割れる音が響く。そのガラスがフランツェスカ達の近くに落ちてきた。
「行け!!!」
アレクサンダーはフランツェスカが怪我をしないように抱きしめ、影達に命令する。
一斉に人が動くのが分かった。
「………行かなくていいんですか」
フランツェスカは彼の胸の中から、彼を見上げて尋ねる。
「構わん。そのための部下だ」
アレクサンダーは答える。
「それに」
彼は彼女の顎を持ち上げる。
「フランカと2人きりでいれる時間は貴重だ」
「!」
フランツェスカは驚いて目を見張り、一気に赤面する。
「ア、アレックス。流石に、勘違いしてしまいます」
彼女は逃げようとする。
だが、アレクサンダーは彼女の顎を持って離さない。
「俺になにかあったら、俺を養ってくれるか」
「……」
フランツェスカは目をぱちくりさせる。
そして、ぷ、と笑う。
すると、アレクサンダーは少し怒った顔をする。
「何故笑う」
「何故って、あの冷酷無比な王弟殿下がそんな弱気なことを言うとは思わず」
くすくすとフランツェスカは笑った。
今、非常事態なのに何故こうも緊張感がないのか。
「アレックスがそんなことになるわけないじゃないですか。私もお手伝いしますし」
フランツェスカはにこりと微笑む。
だから、今こうして2人で中庭にいるのではなかろうか。
王女達の護衛を離れたら、どうなるのか。それを今夜試してみたら、まんまと罠に嵌ってくれたところなのだ。
「私の意図を読み取り、誘いに乗ってくれたのはアレックスでしょう?アレックスと私の向かう先は同じだと勝手に思っているのですが、ちがうのですか」
「……恐らく一緒だとは思う」
彼は恐る恐る答えた。
その時、ドシャッと変な音を立てて何かが落ちてきた。その後に影達が何人も飛び降りてくる。
変な音がした正体は人間で、手足が何本かあらぬ方向に曲がってしまっている。
「死んだか」
アレクサンダーはフランツェスカを腕の中から離さずに影達に問いかけた。
振り返ることもせずに。
「まだ息はあります」
「では拷問部屋へ」
アレクサンダーの指示に、影達は素早く従う。
「フランカ」
「何でしょうか」
「俺の未来が妃殿下達を排すことだとしても、ついて来るか」
それは仲の良い第一妃アドルフィーネのことも入っているということ。
「私の目指す未来に彼女は妃としては君臨していません」
フランツェスカはまっすぐ彼を見て答えた。
その答えを聞き、アレクサンダーはにやりとする。
「それを聞きたかった」
彼は嬉しそうな顔で、そして愛しそうな顔で見る。
優しく、それは優しく彼女の頬を撫でる。
「俺はお前をも利用するぞ」
「分かっております」
フランツェスカは頷いた。
彼は今のままの王太子だと廃嫡させるつもりでいるだろう。
そして、この王宮に不要な者は排除する。彼自身が王位を望んでいるのかは分からないが、王太子以外に誰もいない時は自分が立つつもりでいるだろう。
この王宮は今ドロドロに腐りかけている。それでも保っているのは、国王夫妻が存命であることと王太子の第一妃アドルフィーネのおかげである。
王太子が廃嫡されれば、彼女の処遇はどうなるか不明だが、彼女自身、妃という立場は望まないであろう。
そして、彼女の子供達が狙われた。だから、フランツェスカは護衛についた。黒幕も分かれば万々歳。
そう、アドルフィーネもこのままでは駄目だと思って動き始めたのだ。要らないものを排除するために。
「ベール姫をも利用するぞ」
「百も承知ですよ」
フランツェスカは、ふ、と笑う。
戦で援軍として駆けつけて、知り合ったのが運命だ。色々と隠す必要もない。ベルンハルト公爵家は、今の国を憂えている。ならば、憂いを取り除く。
「……お戯れのお時間は終わりましたか」
ウォルバートが静かに姿を現した。
「ああ。フランカ、部屋まで送ろう」
アレクサンダーは彼女の手を取る。
今日は罠を張っており、王女達は別の部屋で就寝していた。
「今から徹夜ですか」
部屋まで送ってもらいながら、フランツェスカは尋ねる。
「あっち次第だな」
アレクサンダーは答える。
「進展ありましたら、よろしくお願い致します」
「ああ。そっちも重々気を付けろ。相手はどう出るか分からんぞ」
「それはアレックスの方ですよ」
フランツェスカは告げる。
「俺はいいさ」
「いえ、アレックスの方が大事ですから」
フランツェスカはそう答え、アレクサンダーを見た。
「より良い国を」
彼女は頭を下げながら、そう言って、部屋に入って行った。
遅れてすいません!( ; ; )




