第13話
何だかんだ王宮での生活に馴染み、襲撃には遭わないまま、2週間が過ぎた。
今日は午前の授業が終わった王女2人を迎えに行ったあと、昼食をとる。
だが、今日の昼食は、まさかの王族達ととることになったため、フランツェスカは慌てて女物の衣装を借りる羽目になった。
王女が呼ばれているため、同じ席で食事をとるのは憚られるフランツェスカは、壁の花と化するつもりだったのだが。
「公爵令嬢を立たせておくわけにはいかないでしょう」
そう国王に進言したのは、アレクサンダーだった。
「優しいではないか、アレックス」
国王はからからと笑い、フランツェスカに椅子に座って同じように食事をとることを許可した。
長方形の机にて、短辺に国王1人。
長辺に王太子と彼の妃達と子供達。その彼らが座る末席にフランツェスカは腰を下ろした。
向かい側の長辺には、王妃とアレクサンダーが座っている。
「……陛下、アレクサンダー殿下、誠にありがとう存じます」
フランツェスカは礼を言う。
そして、王族達の話は聞き流しつつ、第二妃と第三妃、そしてそれぞれの王子達の様子を見やる。
第二妃、バルリング公爵家令嬢ベルンヒルデを久々に見たが、相変わらずふくよかだった。いや、ふくよかさが増しているかもしれない。ドレスがはち切れそうである。
そして、彼女の息子、一歳になるアドルフ王子は王太子の次に継承権がある者になる。一歳にしては、これまたふくよかだが。しかも、行儀が良くない。カトラリーを上手く使いこなせないのは百歩譲って我慢するが、手掴みやら口で食べ物を迎えに行く行動やら、よろしくない。
じっとも出来ないし、口ごたえもする。母親の言うことですら、聞けない。
フランツェスカはやれやれ、と内心でため息をつく。
あれが即位するとなったら、この国も終わりだろうな、と。
アレクサンダーはというと、表情には出さないようにはしているが、オーラには出ていた。早くあの目障りなものを排除したいかのような、怖い目つきである。
因みに、控えている侍女や側近達もあまりいい顔はしていない。
「王太子殿下!王弟殿下の目が怖すぎますぅ!あのような目で第一王子を見るなんて」
第二妃ベルンヒルデは王太子に言う。
そのすがるような声が気持ち悪い、と思ったフランツェスカだった。
「……」
王太子はアレクサンダーを見て、どうしたものかと思考する。
あまり下手なことは言えないし、逆らうのもあまりしたくない雰囲気が読み取れる。
先日、怒られたばかりなのだ。
「お、叔父上」
王太子は恐る恐るアレクサンダーを呼ぶ。
「何だ?」
アレクサンダーは睨むように彼を見る。
「アドルフの何を見ているのですか」
王太子は尋ねる。
「理由が分からんのか」
アレクサンダーは吐き捨てるように尋ねる。
「……っ、た、食べ方ですか」
王太子は聞き返す。
「それだけだと思うのか」
アレクサンダーは王太子を睨みつけた。
「ま、まだ一歳です。おおおお大目に見ても」
王太子は言い返すが、上手く喋れない。
その言葉を聞いて、アレクサンダーは大きいため息をついた。
「私が注意せねばならないくらい、お前は何も分からないのか」
アレクサンダーの低い声音が響く。
この食事の場が一気に冷え込んだ。
「……っ」
王太子は、ぐっと唇を噛む。
「第二妃殿下、あなたもです」
アレクサンダーは彼女にも視線を向ける。彼女は「ひぃっ」と声を漏らす。
彼の目つきが怖いのは分かる。分かるが、そんなあからさまな態度は不敬である。
「口を挟んでも、構いませんか」
フランツェスカはゆっくりと言葉を紡いだ。
「何だ。どうした」
国王は簡潔に問う。
「アレクサンダー殿下」
フランツェスカは彼を呼ぶ。
「私のお隣、陛下の向かいにはなるのですが、こちらに移動してきませんか」
それならば、第一王子が視界に入りにくくなる。
「なるほど。それはいい」
彼女の意図が分かったようで、アレクサンダーはにやりとする。
「陛下、構いませんか」
彼は国王に許可をとる。
「ああ、別に良いぞ」
許可が出れば、アレクサンダーは素早く移動した。移動の際、汚物を見るような目でアドルフ含めベルンヒルデを見ていたが。
食事はウォルバートが移動させる。
「アレクサンダー殿下。改めて戦の勝利を祝させてください」
フランツェスカは話しかけ、杯を持つ。
「ああ、ありがとう。ベルンハルト公爵家の尽力のおかげだ」
アレクサンダーは微笑んで答える。
その様子に国王と王妃は目を瞬き、顔を見合わせた。
「このお酒、美味しゅうございますね。流石、王宮の物は違います」
フランツェスカは言う。
「ここの物が口に合うならば良かった。遠慮せず、食べるといい」
「ありがとう存じます」
彼女は微笑んで答えた。
こうして他愛のない会話をすることで、とりあえず空気を和ませるフランツェスカ。
極寒な食事の雰囲気など、自分がしんどい。ならば、少しでも和ませるべきだと判断した。そして、先程の会話で改めようとしない王太子側の意見を聞いて、会話するだけ無駄だと見極めた。
「王宮での生活はどうだ」
今度はアレクサンダーが話を振る。
「毎日楽しいです。騎士達の手合わせも見せてもらえて、勉強になっております」
「そうか。それならば良いが。今度は私と手合わせをしよう」
アレクサンダーの誘いに国王夫妻は驚く。
「私で良ければ。殿下の胸を借りたく存じます」
フランツェスカは微笑んで答えた。
「ああ。また暇が出来れば誘いに行こう」
「ありがとう存じます」
そんな会話を聞いた国王は思わず口を挟んだ。
「お前達、いつの間にそんなに仲良くなった」
その問いにフランツェスカは首を傾げながら、アレクサンダーを見た。
「兄上には秘密です」
アレクサンダーはにやりと答える。
「何だそれは」
国王は呆れた顔をするが、アレクサンダーにも春が来たと思い、どこか嬉しそうだった。
「殿下、このあと月見酒は如何ですか」
フランツェスカは尋ねる。
「……」
アレクサンダーは少しだけ彼女を見つめた。皆が認めるほど長い間ではない。ほんの少し、いつもより長めに。
彼女の真意を探るように。
「いいでしょう。何処でしましょうか」
アレクサンダーは問いかける。
「庭でもどうですか」
「いいでしょう。後ほど、王女殿下達の部屋まで迎えに行きます」
「殿下のお手を煩わすわけには」
「構わない」
アレクサンダーは、ふ、と笑う。
そんな笑顔を見たことがない人の方が多いため、部屋の中はぎょっと驚いた者がほとんどだったのは言うまでもない。




