第12話
フランツェスカは体に重みを感じて、身じろぎをする。
誰かが乗っている気がする。
「……じゃあな、フランカ」
フランツェスカの耳にそう誰かの声が聞こえてきた。
「ん…」と、彼女は目を開けようとする。だが、目に手の平を当てられ、見えないようにされる。
それも束の間、目を開けた時には部屋には王女と自分以外誰もいなかった。
何が重たかったのかと思えば、彼女の上にアロイシスが乗っかっていたからだった。
ゆっくりアロイシスを下ろし、そろりとベッドから降りるフランツェスカ。
昨日アレクサンダーと飲み交わした所のソファに座ってみる。
「……!」
驚いた。温かい。
先程の声はアレクサンダーだったと気付き、本当に自分が起きるまでここに居てくれたのだと理解する。
彼女は慌てて上着を引っ掴み、羽織りながら部屋の扉を開け、廊下を見た。
だが、もうそこには誰もいなかった。
「………」
フランツェスカは部屋に大人しく引っ込む。
「何が冷酷なんだか…」
彼女は呟く。
口数が少ないだけで遠回しな厚意も感じる。
「優しすぎるでしょ」
自分を寝かせるためだけに来てくれるなんて。名目はあくまで違うもので。
「これはなにか返してあげないと」
フランツェスカは呟く。
「探りますか」
計画を進めていこう。
♢
王宮に来てから3日。
王女2人の授業中がフランツェスカが唯一動ける時間。
彼女が護衛についてから襲撃という襲撃は無い。が、通りすがる第二妃、第三妃の視線は怖い。
「ねぇ」
フランツェスカは近くに居た侍女に声をかける。
「フランツェスカ様!」
ぽ、と少し頬を染めながら嬉しそうな声を上げる侍女2人。
「その荷物は何処へ?」
「書庫へ運ぶのです」
「手伝います」
フランツェスカは侍女達が持つ荷物を半分ほど奪う。
「え、いえ、そんな!フランツェスカ様のお手を煩わすなど」
「いいのいいの」
フランツェスカはからりと笑って流す。
そうして、歩きながら会話を始める。
「最近の王太子殿下はどう?少し、大人しくなった?」
「フランツェスカ様が手合わせで勝ったと聞きました。それからは大人しいようです。本当に勝ったのですか!?」
侍女は興奮したように尋ねる。
「たまたまね、たまたま」
フランツェスカは苦笑しながら答える。
「それでも凄いですわ!流石、フランツェスカ様!男性ならば良かったのに!」
「ありがとう。じゃあ、大人しくなった王太子殿下は今は女遊びもマシになったのかな」
フランツェスカは苦笑しながら尋ねる。
男装をしていると、勝手にこういう口調になる。
「王弟殿下の騎士達が監視しているので、今は大人しいかもしれません」
「なるほど。流石、王弟殿下」
フランツェスカは微笑む。
「きゃ」
男装姿の彼女の微笑みは脅威的である。
書庫に着いたので、3人は立ち止まった。
「妃殿下達はどう?」
「妃殿下はそうですね……んー、まあ、何も変わらないと言いますか」
侍女は苦い顔になる。
第二妃はもう一つの公爵家、バルリング家のご令嬢だ。我がベルンハルト公爵家は近衛を歴任しているが、そのバルリング家は大臣職を任されている。
が、そのバルリング家の先代は良かったが、今代は能無しだとフランツェスカは思っている。
王族と姻戚関係を結びたくて、1人娘を王太子に嫁がせた。しかも、王太子はあのタイプの女性は嫌いなはずなのに娶ったことから、一服盛ったのではないかと言われている。それは何故かと言うと、そのご令嬢がふくよかだから。いや、ふくよかという表現は大分優しい言い方だが。
書庫の扉を開け、3人は中に入ると荷物を指定された場所に置く。
「第二妃のベルンヒルデ様は元気そう?」
「あの方は相変わらずです。第一王子のアドルフ様とつい先程も通られましたよ」
「あら、そう?どっちに?」
フランツェスカは辺りを見回す。
「ええと、あちらの方向ですね」
侍女は指を差す。
「ありがとう。後で挨拶に行ってみる。第三妃はどう?元気にしてる?」
「そうですねぇ」
侍女は言いにくそうに顔を見合わせる。
そして、フランツェスカに小声で話すため、彼女の耳に顔を近づけた。
「王太子殿下とほぼ一緒にいます。彼女はほら、体付きがあれなので」
侍女は言いにくそうにそう言った。
「…ああ、殿下は張りのある体が好きだから」
フランツェスカは苦笑する。
第三妃のミラは、以前は行商の踊り子だった。胸と尻はデカく、お腹はよく引き締まっていて、まさに王太子の好む体付きであることには違いない。セクシーさもあり、この国にはいない少し黒めの肌も王太子の興味をひいたのだ。
「話を聞かせてくれてありがとう」
フランツェスカは侍女達の手を取り、甲に唇を落とす。
彼女達は頬を赤く染め、フランツェスカを見上げる。
フランツェスカはウィンクをして、その場を去って行った。
「さて」
フランツェスカは息を吐く。
まずは、王女達のお迎えが先だ。そろそろ授業が終わるはず。
「行きますか」
フランツェスカは一瞬目を閉じてから、また開く。
王宮って本当に自分とは合わない場所だとつくづく思いながら、歩き出すのだった。




