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ベール姫の暗躍物語  作者: 疾 弥生


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第11話



夜。

アナリーゼとアロイシスが就寝したのを確認し、フランツェスカも寝巻に着替える。

同じ部屋で寝るが、いつでも動けるようにソファで寝る予定のフランツェスカ。

ベッドに入ってしまうと、眠りが深くなる可能性が高いからだ。


ソファに薄い布団を持ってきて、さあ寝ようとしたところに、部屋の扉を優しく小さく叩く音が聞こえてきた。


「起きてるか」

と小さい声が聞こえる。


「殿下!」

フランツェスカは驚き、慌てて彼を部屋に招き入れる。

扉を開けると、そこにはアレクサンダーがいた。

しかも、酒を持って。


「え、殿下、何を」

彼女は小声で抗議する。

「飲まないか」

「一応護衛中なのですが」

フランツェスカは苦い顔で彼を見上げる。

だが、彼がそんなことを分かっていないわけがない。なにか理由があって来たに違いない。


「昼の詫びだ」

護衛中だと分かって詫びに酒を持ってくるなんて。

フランツェスカは考え込む。


「まあ中に入れてくれ」

アレクサンダーはそう言って、中に入る。

そして、ソファにある布団を見てフランツェスカがここで寝る予定だったと推測する。


フランツェスカは慌てて布団をベッドに戻し、机を整える。


「つまみはないんだが、許してくれるか」

アレクサンダーは机に酒瓶を置きながら尋ねた。

「構いません。今日は何だか、殿下とお食事する機会が多いですね」

フランツェスカはそう答え、ソファじゃない椅子を持って来ようとする。


「君もソファに座るといい」

アレクサンダーはソファに腰を下ろしたのち、隣を叩く。

「流石に殿下のお隣は恐れ多すぎます」

フランツェスカは怖い顔をして、やんわりと拒否をする。


「俺の看病をするために隣で寝ていただろう」

アレクサンダーはそう言って、彼女の腕を引っ張り座らせる。

だが、少し距離を空けるフランツェスカ。


「それとこれとは話が別ですよ」

彼女はそう答えながら、酒を杯に注ぐ。

ぐい、と2人で飲み干すとフランツェスカは顔を顰めた。


「殿下、このお酒強すぎます」

彼女は体の中から火照るのを感じる。続けて飲むと酔うかもしれない。あまりにも強すぎる。


「……!」

フランツェスカは何かに気付いたように目を見開いた。

そして、アレクサンダーを見る。

彼はソファの肘掛けに肘をつき、彼女を見てにやりとした。


「………殿下は寝ないのですか」

フランツェスカは尋ねる。

「俺は元々睡眠が浅い。気にするな」

彼は言う。

「………何故、私にここまでしてくれるのですか」

フランツェスカは彼を見つめた。

「昼のことといい、今といい」

王太子より実力があるんだと見せつけることで、彼女の印象を騎士の中で良くした。そして、今は彼女の代わりに護衛を務めようとしてくれている。


「俺の方がこういう所で寝るのは向いている」

アレクサンダーは言う。

護衛を務める、とは言わずにそう彼は言う。


「……ウォルバート様に叱られませんか」

フランツェスカは尋ねる。

「もう十分に小言を食らった」

彼はからからと笑いながら答えた。


「………では、お酒を飲みながら語らいましょうか」

フランツェスカはくすりと笑って、酒を注ぐ。

「それで、どうしてあんな手合わせを?」

彼女はちびり、と酒を口に含み尋ねた。


「君の印象をがらりと変えるには打ってつけかと思ったのだが」

アレクサンダーはまたにやりとする。

「……あの後の王太子殿下の対応は大変だったのでは?」

フランツェスカは問いかける。


「そんなことはない。あのバカは単細胞だから分かりやすい」

さらりと悪口を言う。

「陛下にご報告されたのですか」

「まあな。おかげで、あいつも鍛錬し直しだ」

アレクサンダーは意地悪い顔で言った。


「そうですか。それでしたら、次の手合わせの時にはもう敵わないでしょうね」

フランツェスカは息を吐く。

鍛え直すのならば、王太子の方が強くなるだろう。

「まさか」

アレクサンダーは嘲る。


「そんな短期間で強くなるわけないだろう。あいつはそんなに根性ない」

「それは言いすぎでしょう?王太子殿下は学院に入る前、とてもお強かったですよ」

フランツェスカはそう言って、酒を飲む。


「まだその時は、俺が鍛えていたからな」

「……どうりで」

フランツェスカは納得してしまった。


「私も殿下に鍛えて欲しいです」

「アレックス」

アレクサンダーは呟く。

殿下呼びは、やはり距離がある。それが嫌で、彼は思わずそう口にした。


「……アレックスと手合わせ出来たら嬉しいです」

フランツェスカは微笑みながら言い直した。


「ああ。だから、今日はゆっくり寝てろ」

アレクサンダーは彼女の視界を手で塞ぐ。そろそろ顔も真っ赤である。手も赤い。

「………」

フランツェスカは彼とは反対側にゆっくりソファにもたれる。

彼にもたれるなんてことはしない。


そのまま視界を塞いで、フランツェスカが眠るのを静かに待つ。

それがどれくらい経ったのかは分からないが、規則正しい寝息が聞こえてきて、アレクサンダーはゆっくりと手を離した。


「………何故、こんなにも彼女に気を遣うのですか」

すると、ウォルバートが音もなく、姿を現した。

「お前は恩を感じないのか」

「感じていますよ。あなたを助け出したことは、かなりの功績です」

「それだけか」

「ええ。今、この国に必要なのはあなたですから。アレクサンダー殿下」

ウォルバートは頭を下げる。


「ならば、俺がすることに口を出すな」

アレクサンダーは彼をギロリと睨む。

「いえ。女性関係には口を出します」

「はっ。何も手は出していないだろう」

「ですが、気に入ってらっしゃるでしょう」

ウォルバートは眠るフランツェスカを見る。


こうして女性の寝巻を着て眠る彼女を見れば、とても女性のように、いや、女性なのだが、可愛いと言うよりは美しく見える。

中性的な顔立ちがお酒で赤くなり、一層綺麗さが際立っている。


見目が良いので惚れるのも分かる。が、どれだけ美人を見てもなびかなかったアレクサンダーが彼女にはどうして。

ウォルバートは疑問に思っていた。


「何処に運びましょうか」

彼は、彼女が眠る場所をどうするか部屋を見回す。

王女達と寝所を共にするから自分の寝床も同じ所に用意しておいてくれ、と言っていたはずなのに、彼女のベッドが無い。


「俺が運ぶから手を出すな」

アレクサンダーはウォルバートの手を払い、フランツェスカを横抱きにする。

「彼女を娶るつもりですか」

「………出来るわけがなかろう」

アレクサンダーは、彼女を王女2人が眠るベッドに寝かせた。

すると、隣にいたアロイシスがフランツェスカの方に寝返り、彼女に抱きつく。


アレクサンダーはアロイシスとアナリーゼの頭を優しく撫で、皆に布団をそっとかける。

フランツェスカの顔にかかる髪の毛をのけるアレクサンダー。


そんな優しい手付きにウォルバートは、内心息を吐く。

アレクサンダーは絶対に彼女に惚れている。

ウォルバートは彼を見つめる。

すると、アレクサンダーが徐に口を開いた。


「……どちらかと言うと、俺を娶ってもらわないといけなくなるかもな」

アレクサンダーのその呟きは、自嘲気味ていた。





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