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ベール姫の暗躍物語  作者: 疾 弥生


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第9話




王女2人の好きなものを並べ、フランツェスカと3人で座って食事を取る。

侍女達は少し後ろで控えている。


「これも好きでしょう?たくさん食べてくださいね」

フランツェスカは王女2人にたくさん食事を取り分ける。


「んー。美味しい」

アナリーゼが幸せそうな顔をする。

「今日は何のお勉強をしていたのですか」

フランツェスカは話を振る。


「んーと、歴史?っていうやつ?」

アロイシスが首を傾げながら返す。

「なるほど。王様達のお名前とかですかね」

フランツェスカは言う。

「そうそう。1番目の王様の名前、とか」

「覚えにくいでしょう」

フランツェスカは苦笑いで言う。

「同じような名前ばかりじゃない?」

アナリーゼはぶす、と少し不貞腐れた顔で言う。


「そうですよね。同感です。今日は他に何の授業があるんですか」

フランツェスカは問いかける。

「えーっと、楽器の演奏かな」

「なるほど。それはもう地道にやっていくものですからね」

「フランカは得意でしょう?」

「まあ一応、世間では得意な部類に入っているのではないでしょうか」

フランツェスカはこれまた苦笑する。


別に好きで歌や踊り、楽器をやっている訳ではない。

たまたま他の人より出来て、お金も稼げるからやっているだけだ。


「何だ、その答えは」

怪訝な声が背後から突っ込んできた。

「殿下」

フランツェスカは微笑み、席を譲る。

「構わん。椅子が足りなくなるだろう」

「いえ、大丈夫ですよ」

フランツェスカはそう答え、アロイシスを抱き上げ、彼女を自分の膝に乗せて座った。


「良いのか」

アレクサンダーは問う。

「むしろ、アレクサンダー殿下を立たせておくことの方がそちらのウォルバート様から叱られます」

フランツェスカは肩をすくめながら言った。

ウォルバートはひとつ頷く。


「殿下がお好きな物はございますか」

彼女は問いかけ、取り分けようとする。

「構わん。自分のことは自分でする故、気にするな」

アレクサンダーはそう答え、むしろ王女達に食事を取り分ける。


そんな様子を遠巻きで見ている皆が、驚いた。そう、皆である。

騎士団練習場の近くなので、騎士団達が遠巻きに様子を伺っている。

かなり、遠巻きだが。


そんな皆の熱い視線があるが、アレクサンダーは気にせず食事を口にしようとする。


「お待ちくださいませ。毒見は」

フランツェスカは慌てて止める。ウォルバートも動こうとしたが、先に彼女が口にした。

「構わん。王女殿下達が口にしているのだから、大丈夫だろう」

アレクサンダーはそう答え、パンをかじろうとしたが静かに皿に戻し、パンをちぎる。


「……ふふ」

フランツェスカは少しだけ笑う。

王女達の手前、一応貴族らしく食べようと思い至ったようだ。

「フランカも食べろ」

アレクサンダーはちぎったパンを彼女に渡す。


「ありがとうございます。殿下にはこちらの冷製スープがおすすめです」

フランツェスカはスープを差し出す。彼が来るのが分かっていたので、自分のを手を付けずに待っていたのだ。


「君のは?」

「大丈夫です。殿下は騎士団との練習でお疲れでしょう?」

フランツェスカは言う。

「美味しいの、これ」

アロイシスが口を挟んだ。


「……そうか。では食べるとしよう」

アレクサンダーはアロイシスに話しかけられたことに少し驚いたものの、すぐに優しく返事した。

それが嬉しかったのか、アロイシスは笑顔になる。


アレクサンダーは冷製スープを口に運び、よく味わったあと、「美味い」と呟いた。


「アレクサンダー殿下はお時間大丈夫なのですか」

アロイシスとアナリーゼが上手に食事をしているのを見ながら、フランツェスカは尋ねる。

「陛下に呼ばれているが、陛下も陛下で忙しい故、あちらの都合がついたら王太子が呼びに来るはずだ」

アレクサンダーは答える。


「だから、平和な時間ももうすぐだ」

彼は無表情でフランツェスカを見ながら、そう述べた。

「ぷ」

彼女は思わず笑ってしまい、慌てて口を押さえる。

冷酷無比な王弟がそんな冗談じみたことを言うなんて。


「いえ、申し訳ありません」

フランツェスカは謝るが、肩は震えている。

「良い」

「では、アナリーゼ様、アロイシス様。食べて次の勉強に向かいましょうか」

彼女は王女達に話しかける。

「はーい」


そうして4人で平和に食事し、2人の王女が食べ終わろうとしていた頃に、運悪く王太子が姿を現した。


「アナリーゼ様、アロイシス様、お勉強に向かいましょう」

フランツェスカは2人の背中を押す。話しかけられる前にさっさと退散する魂胆だ。


「ウォルバート。部屋まで送ってやれ」

アレクサンダーは自分の側近に命じる。

「かしこまりました」

ウォルバートは嫌な顔をせず、承知する。


退散しようとしていたフランツェスカを視界に捉えた王太子は、早足でやって来た。


「叔父上!!」と、彼はすごい剣幕で叫ぶ。その声に、周囲の騎士達も何事か、という目で王太子を見る。


「何だ。うるさいぞ」

アレクサンダーは嫌な顔をして、王太子を睨んだ。

その顔が物凄く怖い。

王太子も少し怯んだものの、気を取り直して声を上げる。


「叔父上!そんな野蛮なおとこ女と食事を共にするなんて!」

王太子は言う。

「馬鹿な甥だな」

アレクサンダーは一言簡潔にそう呟き、「馳走になった」とフランツェスカに言う。


「これくらいでしたらいつでも」

フランツェスカは、男性のように片腕を前にして腰を折り、頭を下げた。

「叔父上!あいつは女なのに男の格好をするんですよ!?おかしいでしょう!?アドルフィーネの友人だからと許してやっているだけで、貴族令嬢としてはあるまじき行動でしょう!?」

王太子は唾を撒き散らす勢いで言う。


「……」

アレクサンダーは侮蔑のこもった目で王太子を見た。

無言でじっと見るだけ。


「な、何か?」

王太子は睨みに耐えきれず、少し狼狽える。

「……いや」

アレクサンダーはそれだけ言って、一瞬だけフランツェスカを見て、それから王太子に視線を戻す。


フランツェスカは苦笑しただけ。

ベール姫のことを知ったら腰を抜かすであろうことが容易に想像出来る。


「ウォルバート。至急、送ってやれ」

アレクサンダーはそう命じ、早くここから去れ、と無言で示す。

「叔父上!あのおとこ女と仲良くすべきではありません!」

王太子は言う。


「そう言うならば、お前があのベルンハルト公爵令嬢よりも優れている所を我に示してみせろ」

「は!何を!」

王太子はバカにしたように言う。

「どう考えても私の方が何もかも優れているでしょう!?地位もそうですし」

地位を引き合いに出すなんてバカバカしい、とアレクサンダーはまた侮蔑の顔を向ける。


「ならば、剣で勝負してみろ」

アレクサンダーは提案した。

「いいですよ!やってやりましょう!あいつは男装してるだけですからね!」

王太子は嘲りの顔をフランツェスカに向けた。


フランツェスカは仕方なくウォルバートに王女達を託す。

アレクサンダーに言われたのなら従うしかあるまい。

彼女は王女達に手を振り、静かに王太子の前に立った。


身長はほぼ同じ。指3本分くらい、フランツェスカが低いだけ。


「木剣で良いな」

アレクサンダーはそう言って、2人に騎士団の練習場に来るよう促す。

木剣を渡された2人の真ん中に立つアレクサンダー。

そして、騎士達はこれもまた遠巻きに観戦する。


「おい、ベルンハルト公爵令嬢って強いのか」

「剣も嗜んでいるのは知っている。が、どこまでの腕なのか知らないな」

騎士達は色々と話し始める。

「所詮ご令嬢だしな。そこまでだろう」

彼らの憶測が飛び交う。


そんな意見を聞いた王太子はにやりと笑うのだった。




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