第7話
「それで、護衛って?」
フランツェスカは尋ねる。
「私じゃなくて、王女達の護衛をお願いしたいの。女性のあなたなら風呂場でも何処でもついていけるでしょう?」
基本、教育は乳母や王宮の教師と決まっているため、アドルフィーネはついていられない。
「………何があったの?」
フランツェスカは怖い顔で、一言そう尋ねる。
「最近で言えば、池に落とされたりとかがあったわ」
「……誰から?」
フランツェスカは単刀直入に尋ねた。
「まだ、分からないわ」
まだ。彼女は「まだ」と言った。
でもおおよそは検討がついているはず。フランツェスカは彼女を見つめる。
「守ればいい?それとも尻尾まで掴みたい?」
「そりゃあ、尻尾まで掴めたら嬉しいわ」
「分かった。この件、受けるわ。明日からでも構わない?」
フランツェスカは確認する。
「あなたの仕事がないなら、明日からお願いしようかしら」
「当分、ベール姫として邸に行くのはお休みしてるから大丈夫」
フランツェスカはウィンクする。
つい先日、王宮で舞ったところだ。なので、本音はベール姫業は休みたいだけ。
「なら、お願いするわ」
「寝所も王女殿下達と同じ所で用意していてちょうだい」
「分かったわ。助かる」
アドルフィーネは、ふぅと息を吐く。
「さあ、そんな辛気臭い話は終わりにして、お菓子を楽しみましょう」
アドルフィーネは話題を変え、ベール姫の話を振ってみる。
今まで会話に参加しなかったアレクサンダーに喋ってもらうために。
「ベルンハルト公爵も知っているのだろう?」
アレクサンダーはフランツェスカに尋ねる。
「勿論です。あまり良くは思ってないかもしれませんが」
彼女は苦笑いで答える。
だって、嫁き遅れているのだから。体裁は良くないだろう。
ベルンハルト公爵家として顔を出すときは、この中性的な顔と長身を生かし、凛々しく見えるような化粧と髪型、衣装にて出向き、他を寄せ付けないオーラを出す。
それ故に、男性よりは女性の方が寄り付く。男性達は彼女のことを可愛くないとさえ思っている。
フランツェスカはそう説明すると、アレクサンダーはにやりとする。
「?」
「好都合だな」
彼は呟く。
「何がですか」
フランツェスカは思わず尋ねる。
「男性は寄り付かないのだろう?なら、俺が色々と誘ったりしても文句は言われないわけだ」
アレクサンダーは答える。
「何に誘ってくれるのですか」
フランツェスカはどこか面白がっている顔で尋ねた。
「手合わせだろう?あと、食事もしたいしな」
「積極的ですね」
聞いていたウォルバートが少し呆れたように口を挟んだ。
女嫌いというか他人が嫌いなアレクサンダーがこうも1人の女性に構うなど。
「いやまあ、せっかく帰ってきたのだから、自由に過ごさせて欲しい」
アレクサンダーは理由をこじ付けるように答える。
「でも、ベール姫となるとかなり人気者なのよね」
アドルフィーネは言う。
ベルンハルト公爵令嬢とは反対な評価を持つのが「ベール姫」。淑女、可憐、華麗などと噂されているため、男性達は彼女と仲が良くなりたいと思っている。
「正体不明故に素性を知りたい輩が多いだけだろう」
「中身はこれですのに、ね。私だと知ったら、逃げていく癖に」
フランツェスカはおかしそうに言う。
「確かにそうだろうな。男性陣が苦手なベルンハルト公爵令嬢が中身だと知れば、大方卒倒するんだろうさ」
アレクサンダーは意地悪い顔で同意する。
「正体は明かさないの?」
アドルフィーネは問う。
「んー、どうだろう?今のところはその予定はないけれど」
フランツェスカは答える。
「私も自由に生きれたらそれでいいの」
「似た者同士のお二人ですね」
ウォルバートは思わず発言する。
その言葉にフランツェスカはアレクサンダーを見た。
彼は片方の口角を上げて、少しだけ微笑んだ。
その笑みがアドルフィーネにはとても新鮮で、驚いてしまった。
アレクサンダーがそんな笑みを漏らすなんて。
ウォルバートはというと、呆れた顔をしている。
「フランカ」
アレクサンダーは彼女を呼ぶ。
「何でしょう、殿下」
「護衛は男装するのか?」
「一応。そちらの方が動きやすいですから」
「そうか。フラン姿を見れるということか」
アレクサンダーは楽しそうな顔をして言う。
「じゃあ、騎士団の方にも王女殿下達とお邪魔しても?」
フランツェスカは尋ねる。
「構わん」
「では、是非」
彼女は嬉しそうに微笑んだ。




