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ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 王女の試練と凶星の魔女  作者: 稲葉トキオ


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第69話 あなたたちは、そのままで

「アルティナ、その……あの……」


 エミルは安心感はおぼえたものの、展開に頭が追いついておらず、しどろもどろになっていました。


 そんな彼女に対して、アルティナはおかしくなったように笑って言いました。


「言いたいことはわかります。勝手に話を進めてしまい、もうしわけありませんでした」


「いや、それはいいんだけど……どういうことか、話してもらえる?」


「ええ、まあ、端的に言えば、あなたが有力者たちのいいようにされるのを防ぐために、先に手を打ったまでです。自分の持ち物に名前をつけるようにね」


「完全に物あつかいだなあ……ウォルターって人が言ったことまんまだよ」


 エミルはあきれ笑いしました。たしかにその言い方では、完全に私物化です。


「すみません。あの場ではあのような物言いになってしまいましたが……私個人としてはあなたを私物化したり独占したりするつもりなんて、これっぽっちもありませんよ?」


 アルティナも苦笑いで返します。


「それはわかってるけど……うん、頭が落ちついてきた。要はわたしたちをアルティナの直下の魔法つかい(ウィザード)ってことにして、ほかの人が手出しできないようにしてくれたってことだよね?」


「ええ、そういうことです。早めに動いて正解でしたね。おそらくあのハーフェンリルの暴走をしずめた映像が配信された後であれば、却下されていたことでしょう……実を言うと、けっこうギリギリだったんですよ。"雨あがりの聖女"……いい二つ名ではないですか」


 アルティナはちょっぴりからかうように言いました。


「……なんか、ちょっとバカにしてない?」


「いえいえまさか、そんなことは!」


 ぶんぶん手を振るアルティナに、エミルはむっとしますが、


「そうだよ。私もすっごくいいと思うな。エミルのこと、すごくよくあらわしてると思う」


 ずっと口をつぐんでいたエイルお姉ちゃんがそう言ったので、


「そ……そう?」


 一転して、まんざらでもなさそうに照れ笑いするのでした。


『そーいえばおねえちゃん。さっきはどうしてなにもしなかったの? エミルもシロンも、すっごくこまってたんだよ?』


 シロンがぶーぶー抗議します。たしかに大勢にかこまれ詰められてこまっていたのに、めずらしくエイルはおとなしかったのです。エミルも、それがヘンだと思っていたのです。


 その疑問に答えたのは、アルティナでした。


「……それは、私が頼んでいたのです。私からの発表があるまで、けっして暴れたりしないようにと」


「え、そうだったんだ?」


「ヘタに騒げば、人々の心証を悪くしかねませんからね。あのウォルターなら、そのスキをここぞとばかりに突いてくるでしょう」


 エミルは、たしかにお姉ちゃんならそうなりかねないと思いました。でもあらかじめ、"エミルのためだ"とクギを刺しておけば、ぜったいに言いつけを守ってくれるのです。同時にそれをうれしくも思いました。


『あのメガネのひとのこと、よくしってるんだね』


「極星魔法つかい(マスターウィザード)です、当然でしょう。……彼は油断ならない人です。国を思う気持ちは本物なのですが、その秩序を守るためには手段を選ばないのです」


「たしかにちょっと会って話した感じでは、そんな感じだったね……」


『シロン、ちょっとニガテ……』


「私もあんま好きじゃないな。いっつもクスリのニオイさせてるしさ」


 姉妹は三者三様、ウォルターに苦手意識を抱いているみたいです。まさに、水と油の関係といったところでしょうか。


「まあ、彼については今後も気をつけておきましょう。あなたたちを私の直下に置いたとはいえ、スキあらばなんとか引き離そうと考えているでしょうし」


「うん……そういえばアルティナはどうして、わたしたちのためにそこまでしてくれるの? 今回のことで、国の人たちからのアルティナの印象、悪くなるかもしれないのに……」


 すると、アルティナは大きく胸を張りました。


「そんなの、決まっているではないですか。あなたたち姉妹には大きな恩があるからです。だから、それを返したかったまでのこと。エミル、あなたの言う私だけの強さ……王女という立場を最大限利用してね」


「でも、なにもそこまで……」


「そこまでしたかったんですよ。もうしわけなく感じる必要はありません。エミルの言葉で気づいたんです。大事なのは血筋でも立場でも、ましてやどんなチカラを持っているかでもない。どう行動したかなのだということを」


「アルティナ……」


「エミルも、エイルも、それだけのことをしたのです。私や、父や、極星魔法つかい(マスターウィザード)たちの心を動かした。だからこうして、ちょっとムチャをしてでも、あなたたちの愛する自由を守りたいと思ったのですよ」


「わたしたちの、行動の結果ってこと?」


「そうです。それに、ランス殿も言っていたでしょう? エイルの剣も、エミルの浄化も、自由の中でこそ輝くもの。ひっぱりだこのがんじがらめにしてしまっては、その輝きもくすんでいくでしょう。私はともに試練に挑む中で、それを実際に見てきましたしね。すべては、この国のための最善の判断ですよ」


 アルティナはいたずらっぽくウインクして言いました。


 エミルはぷっと吹き出し、エイルはにししと笑います。


「ありがとう、アルティナ。この恩に報いるためにも、がんばるね」


『シロンも、はりきっちゃうよ!』


「そういうふうに言われると、また恩返しをしなくてはならないではありませんか」


「いいっていいって。いいことされちゃったら、返さなきゃ」


 エイルがなれなれしく肩を抱いてきます。


「あなたにそう言われると、なんだか調子がくるいますねえ」


『おねえちゃん、たまにしかいいこといわないもんね』


「なんだとー、こいつー」


「あはははっ!」


 姉妹とアルティナは、笑顔でパーティーを楽しむのでした。


 そして、夜が明けて……新しい朝がやってくるのです。



 ☆ ☆ ☆



「……ほんとうにこのおうち、もらっちゃっていいの?」


 王都南地区の住宅街にて、エミルは一軒の空き家をながめて言いました。


 朝ごはんのあと、姉妹はアルティナの案内で、王都での住まいをあてがってもらうことになったのです。


 なにしろエミルは王都に来たばかりで、エイルも宿屋を転々とした根無し草のような暮らしをしているので、定住する家があったほうがなにかと便利だと、気をきかせてくれたのでした。


「もっと大きな家にしようと思ったんですけれど……パートナーたちもいっしょとはいえ、ふたり暮らしでは管理も面倒でしょうし、なにより、あなたたちにはこのようなこじんまりしたおうちのほうが、気分が楽かと思いまして」


「悪かったね、こじんまりした暮らししか知らないイナカ者で」


 エミルはいじわるっぽく返しました。


 もちろん口ではそうは言っても、アルティナの言う通りこういう小さな家のほうが姉妹にとっては好ましいです。


「うん、私も気に入ったよ。なんだか、村にいたころを思い出すなあ」『シロンもー!』


 エイルとシロンも、満足のようです。特にエイルはもう村に帰ることが許されない身なので、よろこびもひとしおでしょう。


「では、私は王宮に戻ります。またなにかあれば、すぐに呼び出しますから」


「うん。……しばらく、おわかれなんだね」


 エミルはものうげな表情を浮かべました。


 アルティナはきょうから正式な王族です。公務や次の王様になるための勉強や訓練でいそがしくなり、おいそれと外を出歩くことはできないでしょう。


「……そうですね。ここ数日ずっといっしょでしたから、いざとなると、なんだかさびしいものですね」


「なに言ってんだよ。お城なんて近所じゃん。毎日でも会いに行ってやるよ」


 エイルがどーんと胸を張って言いました。


「たしかにあなたにはその権限がありますけれど……王宮は毎日会いにいくような場所でもないんですけどね……」


「あはは……そうだね。こんなおわかれなんて、おわかれのうちに入らないよね」


 エミルは力なく笑ってみせました。


「ですね。……でしたら、形式だけ、やっておきましょうか」


『けーしき?』


 シロンが首をかしげると、アルティナは左胸の前に手を置いて、凛々しく言いました。


「……極星魔法つかい(マスターウィザード)、エイル・スターリング、ならびにその付き人、エミル・スターリング。父に代わり現時刻を持って、あなたたちの護衛任務を解きます。……ほんとうに、おつかれさまでした」


「おつかれさまでした!」「うん、おつかれ」『おつかれー!』


 そして、アルティナ、スノーベル、エミル、エイル、シロンの5人は、こぶしを合わせました。それは彼女たちにとって、誓いの儀式のようでした。


『……最初はただのお子さまと思ってたけど、アナタたちにはほんとうに感謝してる。ありがとう』


『うん! ベルももう、うらぎったりしちゃダメだよ!』


『ええ、二度とやらない。じゃあね……シロン』


『うん、バイバイ!』


 アルティナとスノーベルはアイスペガサスの背にまたがり、王宮へと飛び去っていきました。


 彼女たちを見送った姉妹は……


「……これから、どうする?」


「うーん、アルティナの子分になって、マスターウィザードの任務もなくなっちゃったからなあ。ヒマになっちゃった」


『え!? シロンたち、おひめさまのこぶんになっちゃったの!?』


「厳密にはちがうけど、まあ肩書き的には、そんなふうなものじゃない?」


 エミルが説明してあげます。


『えー! なんかやだー!』


「文句言わない。おかげでわたしたち、有名になっても自由にやらせてもらえるようになったんだから」


『むー……』


「そうだねえ。だったらこのまま、次の冒険に行っちゃおうか!」


「賛成! ……と言いたいところだけど、お姉ちゃん、その前にわたし、やっておきたいことがあるの」


「ん? なになに?」


「あのね……」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

いよいよ次回で完結となります。

このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、

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