第68話 自由宣言
「お集まりのみなさま、今宵は私の王族の試練達成記念パーティーにお越しいただき、まことにありがとうございます。さて、このたびみなさまにお集まりいただいたもうひとつの理由として、この場で私からある発表をさせていただきます」
アルティナのスピーチに、姉妹をふくめた来場者の全員の注目が集まりました。
「私は、正式な王族として……エイル・スターリングとエミル・スターリングの両名を、私直属の"自由騎士"に任命することを、ここに宣言します!」
次の瞬間、ホールのあかりが消え、姉妹を中心にスポットライトが当たります。そして、来場者のあいだにどよめきがひろがりました。
「自由騎士だと?」「なんだそれは?」「聞いたことないわ……」
いっぽうでランスはニヤリと笑い、ウォルターは仏頂面をゆがめていました。
「自由騎士とは、その名の通り、私の名のもとあらゆる行動の自由を与えられた騎士のことです。それはなにものにもしばられることはありません」
突然の発表でだれもかれも頭が追いついていないようですが、つまり、いまをときめく"巨獣狩りの剣星"と"雨あがりの聖女"が、アルティナ姫以外の命令を受けつけなくなるということです。それがたとえ……王様からのものだとしても。
人々がとまどう中、ウォルターはただひとり冷静に、メガネをくいと持ち上げました。
「……それは、彼女たち姉妹を、貴女が独占し私物化するという事でしょうか? 王国じゅうから求められる、二人の救世主を?」
その言葉を皮切りに、人々のどよめきが彼に同調したものに変わっていきます。むちゃくちゃなことを言っているアルティナに対する苦情へと。
(アルティナ、どういうつもり……?)
エミルも不安げなまなざしを送っています。せっかく一人前の王族になれたのに、これでは敵を増やすばかりではないですか。
「……ええ、そうですね。そう取っていただいてかまいません」
そんななかでも、アルティナは強い意思できっぱりと言い切りました。当然ですが、まわりのどよめきがいっそう大きくなります。
(え~っ! そういうこと言っちゃうのお!?)
エミルもびっくり仰天です。けれどこの開き直りとも思える堂々ぶりも、アルティナの武器のひとつなんだと、最近思うようになりました。
「アルティナ様は、なにをお考えか!」「聖女の祝福は、みなが享受すべきでしょう!」「さらに、巨獣狩りの剣星まで独占しようとなさるとは!」「いくら王女とはいえ、いえ、国王にさえそのような権利はありませぬ!」
人々は、口々に文句をはやしたてます。正論ではありますが、彼らがただエミルたち姉妹をありがたく便利な存在としか見ていないことが、言葉と態度の端々からにじみ出ていました。
ウォルターは、一歩前に出て、皆を代表するように口を開きます。
「ここにいる皆様の言う通り、魔法つかいを独占する権利は、王族にすらありません。そのような案を承認させようというなら、国王ならびにそれに次ぐ有力者数名の署名が必要のはず。試練を終え、一人前と認められたばかりの貴女様に、それが得られるとは……」
「承認ならばもちろん、ありますよ」
発言をさえぎるように、アルティナは一枚の紙切れを取り出し、見せつけました。
「おおっ! あれは……」「魔法律議会の認可状!」
来場者は色めきたちました。そして、また大きなどよめきがひろがります。
『まほーりつぎかい?? にんかじょー??』
シロンは目を丸くして、首をかしげました。ドラゴンなので、人間のまつりごとには当然うといのです。
魔法律議会というのは、この国のルールを決めるための議会です。そこで決められたことは、魔法のチカラで書かれた契約書によって、絶対のものとなるのだとか。
「ウォルター殿ほどの方ならおわかりいただけるでしょうが、この認可状は本日発行された正式なものです。国王と極星魔法つかい三名……あなたの言う有力者たちの署名を提出し、こころよく可決していただけました」
よく見ると書状の下の方には、エイルとクラウスの名前が書かれていました(エイルの字はヘタなので一発でわかるのです)。
すると、ウォルターの表情がいっそうけわしくなりました。
「馬鹿な……いくら極星魔法つかいの口添えがあったとしても、このようなムチャな案、序列の低い者たちの署名で、議会が動くはずがない……」
現在、このアストライト王国には、エイルをふくめ極星魔法つかいの称号を持つ者は10人います。
ただし、その全員が同格というわけではなく、国への貢献度に合わせた序列……ランキングが存在するのです。
数週間前に認定されたばかりのエイルは、当然最下位の10位。去年認定されたばかりのクラウスは9位です。さらに、彼ら二人はまだ16歳と17歳の若者。いくら最高位の称号を持っていても、ウォルターの言う通り、"国の救世主ふたりをお姫さまがひとりじめすることを認めてあげてよ"なんて後押しを聞いてもらえるほどの発言力はないのです。しかし……
「よくごらんなさい。国王の名の下に書かれているサインを」
ウォルターはうながされるまま、王様とエイルの名前のあいだに書かれた文字列に目を通しました。
いえ、正確には、それは文字列ではありませんでした。ムダにハデでやたらきらびやかな……ひとことで言えば、有名人が色紙に書くタイプのサインだったのです。この国で、こんな名前の書き方をする人間は、一人しかいません。
「そう、俺様のサインさ。序列1位の俺様が白と言えば白くなる。それは世の理というもの。納得してくれたかい、序列3位のウォルター君?」
"地上最速の光星"ランス・グランシャリオでした。極星魔法つかいナンバー1の功績を持つ彼の発言力は、王様に次ぐ……いえ、世間的にはそれ以上といっても過言ではないのです。
その瞬間、ここまでずっとだまっていたエイルはにやりと勝ち誇った笑みを浮かべました。このときを待ってましたと言わんばかりに。
「まさか、貴方が彼女たちを推すとは……」
ウォルターはいまいましげにまゆをひそめました。自由奔放でけっして権力になびくことはないと有名なランスが、王女の議案に署名するだなんて、完全に予想外だったようです。
「"雨あがりの聖女"……いい名をつけたじゃないか。彼女のことは、ファーブリアのときから目をかけていた。実にファンタスティックなガールだ。そしてその光は、自由の中でこそまばゆく輝く……そう思ったからこそ、署名させてもらったのさ」
「王女は彼女たちを私物化すると、はっきりおっしゃったのですよ」
「そんなもん口実だってこと、お前ならわかってるだろ?」
ランスが不敵に笑ってみせると、ウォルターはメガネをくいと動かし、レンズを光らせました。その下でどんな目をしているのか、読み取れません。
アルティナはつづけます。
「ちなみに、正式な発表はまだですが、今回の護衛任務での論功行賞でエイルは序列7位、協力してくれたクラウスは8位に上がりました。序列1位のランスもふくめて、議会を動かす力はじゅうぶんにあったというわけです。納得していただけましたか?」
ウォルターは、またメガネを動かすと、顔をあげてこたえました。
「……いいでしょう。議会の決定が正式なものであれば、私からなにも言うことはありません。このたびは試練の達成、おめでとうございます。アルティナ殿下」
そして、うやうやしく一礼して、引き下がっていくのです。
最後の祝福のひとことにふくみがあることは、だれの耳にもあきらかでしたが、アルティナはクールな表情で返すのでした。
「さて、私の都合で中断させて、もうしわけありません。皆さまがた。パーティーを再開したしましょう!」
アルティナのしめくくりの言葉とともに、姉妹に群がっていた人々は散り散りになっていきました。
来場者はみな思うところはあるでしょうが、エミルはさまざまなことから解放された安心でいっぱいで、そんなことを考える余裕はありませんでした。
「エミル」
そんなエミルたち姉妹のもとに、やわらかな笑顔をたたえたアルティナが歩み寄ってくるのでした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
完結まであと2話となります。
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