第67話 パーティー
その夜、王宮の大ホールにて、アルティナの試練達成記念パーティーが催されました。
招かれたのは、貴族や上流階級の人たち、王国の有力魔法つかいなどなど、VIPぞろい。
もちろん、アルティナの護衛をつとめたエイルとエミル姉妹も参加しています。けれどみんな一様にきらびやかなドレスやスーツで着かざっているなか、姉妹はマントにローブの普段着姿。極星魔法つかいとその付き人だからこそ、許される服装です。
「うおー! エミルすごいよ! 見たことない料理がいっぱい! しかもめちゃくちゃおいしい!」
エイルはリスみたいに、口いっぱい料理をほおばっていました。お昼ごはんの量をセーブしていたぶん、食欲はふだんよりマシマシのようです。しかしなんとまあ、はしたないこと。
パーティーの食事は、会場に並べられた料理を自由に食べるビュッフェ形式。しかし王族主催のパーティーだけあって、その豪華さはケタちがいです。見たことないどころか、聞いてもおぼえられそうにない長ったらしくてややこしい名前の高級料理のオンパレード。
エミルもシロンも、ついつい無我夢中でぱくぱくしていました。なんと言えばいいのでしょう、いままでに食べてきた料理もどれもおいしいものでしたが、このパーティーに並ぶ料理の数々は、おいしさの質というものがまるで異なる感じです。目指しているところがちがう……とでもいうのでしょうか。
「よう! 楽しんでるな、キラキラ姉妹!」
そんな姉妹に、気やすい感じで話しかけてくる一人の男性がいました。
黄色い髪を後ろで束ね、これまた黄色いスーツの上に、ファー付きのハデなコートを着た、ひとことで言えばチャラチャラした美形男性です。
彼は極星魔法つかいの一人、"地上最速の光星"ランス・グランシャリオ。同じ称号を持つエイルはもちろん、エミルとも数日前、べつの町で面識があります。
「ランスさん、おひさしぶり……でも、ないですね」
「ハハハハ、そーだな。ちょっと前にファーブリアの町で会ったばかりだ。だが君は、その短いあいだでずいぶん出世したようだな」
ランスはパチンとウインクをキメました。
「あはは……まあ、なりゆきで……」『えっへん!』
エミルは照れ笑い、シロンはえらそうに胸を張ります。なんとも対照的なコンビです。
「あの……そういえば、彼……どうしてますか?」
エミルは顔を赤らめたまま、もじもじしながらたずねました。後ろに回した右手で、左手薬指の指輪をいじったりなんてしています。
「おやおや、もう恋しくなったのかい?」
「恋の段階はとっくに越えて、もう愛し合ってますけどね。……まあ、そんなところです」
エミルには、数日前に離ればなれになった、同い年の恋人がいます。いつか彼と再会できる日を待つというのも、いまのエミルの夢のひとつなのです。
彼はエミルと別れた直後、ランスのはからいで、アルティナも通っていた魔法アカデミーに編入することになったと聞いていました。
「これはこれは、ご馳走様。……彼ならつい先日、アカデミーに無事入寮した。まあ入って早々、ちょっとしたトラブルがあったみたいだが……」
「ぜんぜん無事じゃないじゃないですか!」
エミルは顔をあげて、くわっとツッコミました。どうも彼のことになると、つい熱くなってしまいがちです。
「ハハハハ! 問題なく切り抜けたそうだから、問題ないだろう?」
「そういう問題じゃありません!」
「彼も君と結ばれたことで、君のトラブル体質がうつったのかもな……」
「ええ~……」
まったく自覚のないことですが、思い返して旅立ってからきょうまで、たしかに息つくヒマもないくらいにトラブル続きだったので、もしかしたらわたしってそうなのかもしれない、と思いはじめたエミルなのでした。
「だが、それはつまり、そんなトラブルすらも君のように切り抜けて、すべて我が身の糧にできるってことでもある。……信じてやろうぜ」
「……そう、ですね」
エミルはやわらかくほほえみました。なんだかいい感じに言いくるめられたような気がしなくはありませんけれど。
「ねー、なんの話してるのー? それよりエミル、あっちのも食べてごらんよ、おいしいよー」
そこに、お皿を料理で山盛りにしているエイルが割って入ってきました。どうやら、いつのまにかひとりで会場をうろうろしていたようです。
「え? ほんとに? いくいく!」『シロンもー!』
エミルとシロンは目をキラキラさせて、そっちを振り向きます。
「おいおい、花よりダンゴかい?」
ランスはやれやれとあきれ笑いを浮かべて言いました。
「彼のこと、教えてくれてありがとう。元気でいるなら、それでいいです!」
エミルはうれしそうにそう言うと、お姉さんのところに駆けていきました。
「通じ合ってるってことか。それもまた、ビューティフルだな」
ランスは前髪をかきあげながら、キザったらしく笑うのでした。
彼との話をそこそこに、姉妹とシロンがまた食事を楽しんでいたときです。
「おお! あれに見えるは、"雨あがりの聖女"ではありませんかッ!」
パーティーに参加していた男性の一人が、エミルを指さして叫んだのです。わざと、まわりに聞こえるくらいの声の大きさで。
「あら、本当だわ!」「王都の救世主!」「写真や映像で見るより、可憐だ……」「あの凶星の魔女をこらしめたという……」
まわりの人たちも、姉妹の存在に気づいて、さわぎはじめます。
ヘタに目立たないように、エミルがおぼえたての隠ぺい魔法をかけていたのに、こう存在感があらわになってしまっては、台無しです。
(あの人……!)
エミルは気がつきました。最初に声をあげた男性は、服装こそちがいますが、グランドシーカー拠点の地下室で見かけた人です。マスターのウォルターに次ぐ強いオーラをまとっていたので、印象に残っていたのです。隠ぺい魔法を見やぶれるのも、納得です。
でも、どうしてわざと自分に注目を集めさせるようなことを……
「エミル様!」「聖女様!」
「わ、わ、わわっ!?」
考えていると、いつのまにか姉妹のまわりにはたくさんの人が集まっていました。これでは、食事どころではありません。
「むむむむ……!」
エイルは口を結んで、うなり声をあげるばかり。こういうときは率先して妹につく悪い虫を追い払うはずなのに、どういうわけかただ耐えるようにわなわなと震えています。けれどエミルは困惑のあまり、それをおかしく思う余裕はありません。
『もーっ! みんな、どいてよーっ!』
シロンもぷんすか抗議しますが、なにしろちっちゃいので、効き目はありません。
「あ……!」
エミルは来場者たちの包囲にあえぎながら、遠巻きにこちらに視線を向ける一人の男性に気づきました。
お昼前に知り合った、"難攻不落の地星"ウォルターが、意味深にメガネを持ち上げていたのです。
(まさか……!)
その瞬間、エミルは察しました。彼らが狙って自分を英雄や救世主にまつりあげようとしているということを。"雨あがりの聖女"というたいそうな二つ名も、そのためにつけられたのです。
おそらくは昼間の【ハーフェンリル】の暴走をしずめた場面も、エミルのチカラのアピールのために、映像としてパーティー来場者のもとへ配信されていたのでしょう。あの地下室には、カメラやモニターをふくめた機械でいっぱいでしたし。
そして、その先の展開も予想できました。ここまで国のおえらいさんたちに勇名がひろまってしまっては、強さと浄化のチカラをたよりに、多方面からあれやこれやと無理難題をされまくるにちがいありません。それこそ、休むヒマもないくらいに。
エミルとしても、世のため人のために働くことはやぶさかではありませんが……問題は自分の自由がうばわれるであろう、ということです。
エミルの夢は、世界じゅうの魔法生物をしあわせにすることと、もうひとつ、大好きなお姉ちゃん――エイルと、世界じゅうのいろんな場所を冒険することなのです。
このままえらい人たちに使われるようになっては、きっとそれらに取り組む時間はなくなってしまうでしょう。場合によっては、せっかく再会できたエイルとまた引き離されることもあるかもしれません。そんなのは……ぜったいにイヤです。
自分がやりたいことが、自由にできなくなる……そんな絶望的な未来を想像して、エミルがぎゅっと目をつぶってしまった、そのときです。
「ご来場の方々、静粛に!」
堂々と、凛とした声がホールに響き渡りました。
その迫力に、人々は一様にびくっとして、さわぎを止めます。
エミルがゆっくりと目を開き、エイルとシロンといっしょに声のしたほうを見ると……
「アル……ティナ……?」
ホールの奥に、ポニーテールだった金髪をおろし、ティアラと白と青のきらびやかなドレスを身にまとったアルティナ姫が立っていたのでした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
完結まであと3話となります。
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