最終話 巨獣狩りの剣星と雨あがりの聖女
さて、王女の試練と凶星の魔女の一件は無事解決しましたが、その後、事件に関わった者たちはいったいどうなったのでしょうか。
まず、生き残った魔女の手足、ギルド"エレメタル"のカリンガとスーリム。彼女たちは逮捕され投獄されました。……が、アルティナの嘆願と魔女に命令される立場だったことを考慮され、裁判の結果王立ギルドに入団し、更生するということになりました。
スーリムは国の下につくなんてめんどくさいとぶーたれていましたが、カリンガのほうは晴れやかだったそうです。ですが二人とも変わらないのは、自分たちにかけられた呪いを解き、命の恩人の魔女も救ってくれた、エミルへの感謝の気持ちでした。いつか、その大きな借りを返したいとまわりにもらしているとか、いないとか。
凶星の魔女あらため、爛星の魔女に生まれ変わったベネットは、アルティナのパートナーとなることを選びました。スノーベルもそれをよろこび、いっしょに犯した罪をつぐなおうとはりきっています。
王様の記憶は結局戻らずじまいでしたが、それが逆に彼女が再出発するためのいいきっかけになったようです。愛を失った心の傷も、新たな絆が時間をかけていやしていってくれることでしょう。
王様も、この一件以来ヤンチャさはすっかりなりをひそめ、いっそうまじめにふるまうようになったそうです。ベネットと恋人関係にあったことを知っても、記憶が戻ることはなかったので、一生モヤモヤした気持ちをかかえて生きていくことになるでしょう。本人は、これも現実から逃避した罰だと甘んじて受け入れているようです。
正式な王族となったアルティナは、しばらくは次期国王になるための訓練や教育にいそがしく、姉妹と気軽に会う機会もなくなるでしょう。ですが、次にふたりとあったとき、よりりっぱになった姿を見せようと、公務にも気合が入っているようです。
そして、エイルとエミルの姉妹はというと……
「よしよし、もうだいじょうぶだからね」
『グアッ!』
エミルが頭をそっとひとなですると、大きな鳥がお礼のような声をあげて、大空へと羽ばたいていきました。
「これで、暴走させられてたコはぜんぶかな?」
「うん。そのはずだよ。もうベネットの波長は感じないから」
『じゃあこれで、にんむかんりょーだね!』
「任務じゃないけどね、わたしたちが自発的にやってることだから。というか、言い出したのはわたしだけだし。ごめんねお姉ちゃん、つきあわせちゃって」
「いいよいいよ。かわいい妹のたのみだもん。どこでもなんでも、つきあっちゃうよ」
『私も、こまっている魔法生物たちを救うことには賛成ですし、問題ありません』
「ありがとう」
ここは、王都の近くにある大草原。
エミルがやりたかったこと……それは凶星の魔女の残した、彼女が暴走させた魔法生物たちの浄化でした。
魔女が浄化されても、"くるわせの粉"の影響は消えないということは、ハーフェンリルの様子を見てわかっていたので。どうやら王国を荒らすためだけでなく、実験のためにこの数か月間、あちこちにばらまいていたとベネット、スーリム、スノーベルも証言していましたし。
粉をばらまいたおおよその地点も聞きだし、あとは魔女の呪いを受けたことでそのマナを感知できるようになったエミルの感覚をたよりに、シロの足でかたっぱしから浄化しに回って行ったのです。
そしてさっきの大きな鳥が、その最後の一体だったというわけなのでした。
『でもエミル、どうしてシロンたちでワンダーたちを、もとにもどしにいこうとおもったの?』
『そうですね。例のハーフェンリルのような強大なチカラを持つものならともかく、今回のようなレベルのものたちであれば、聖職者を入れた通常のパーティでもじゅうぶん対応可能だったはず。わざわざ妹さんが行って回ることもなかったのでは?』
シロンとエクシリアが、もっともな疑問を口にしました。
エミルは、鳥が去って行った空をあおぎながらこたえます。
「んー、たしかにそうなんだけど、なんというか、この件は最後までわたしたちがやらなきゃな、って思ったの」
『一度事件にかかわったケジメ、というわけでしょうか?』
「そうだね。たぶんそうだと思う。このまま暴走しっぱなしの魔法生物たちをほったらかしてたら、気分悪かったしね」
『……うん! シロンもそうおもう!』
「私も同じ気持ちだよ。だからエミルのおかげで、スッキリした!」
エイルお姉ちゃんも、ほがらかに笑い飛ばしてくれました。
エミルは三人の顔を見ながらやわらかくほほえみます。
「……アルティナのおかげで、自由は保障されたけど……わたし、これからもこまってる人たちや魔法生物たちのために働きたい。わたし自身ののぞみをかなえるために」
『世界じゅうの魔法生物たちをしあわせにする、ですよね』
『シロンも、がんばるよ! エミルののぞみは、シロンののぞみだもん!』
「そうだね、それでいこう!」
三人もこころよく賛成してくれました。
エイルは草原に吹く風に長い髪を遊ばせながら、おだやかな表情で言います。
「ねえエミル。私ね、この4年でひとつおぼえたことがあるんだよ」
「なあに?」
「冒険ってさ、"危険を冒す"って書くんだってこと」
『いばって言うことじゃないですね……』
『ここは、だまってきいてあげようよ』
パートナーたちがあきれているなか、エイルは気にせずつづけます。
「だからねえ、気づいたんだよ。冒険っていうのは、知らない森とか山とかダンジョンとかに行くだけじゃない、だれかのために命がけでがんばることも、りっぱな冒険なんだよね、って」
「あ……!」
エミルは、シロンも、そしてエクシリアも不覚にも、目からウロコが落ちた思いでした。ふだんおバカなエイルお姉ちゃんが言うからこそ、そういう言葉はよけいに深く刺さるのです。
「だから、エミルのかかげる目標も、りっぱな冒険なんだよ。だから、私たちの冒険なんだよ。私たちのやることは、なんにも変わってない!」
沈みゆく夕陽をバックに輝くお姉ちゃんの笑顔を見て、エミルの青い瞳からひとすじの涙がこぼれました。
――ああ、やっぱりお姉ちゃんは変わってない。変わってないけど、変わらないまま、たしかに大きくなってる……!
大好きなお姉ちゃんが、さらに大好きな存在になった感激で、胸がいっぱいになったのです。
『おねえちゃん、なんかかっこいい!』
シロンは金色の瞳をキラキラさせながら、おしみない称賛の言葉を贈りました。
『そうですね、それだけはすなおに認めるところです』
エクシリアも照れくさそうに言いました。
「さあ! そろそろおうちに帰って、ごはんにしよう! あしたの冒険のために! な、シロ!」
『ワンッ!』
大オオカミのシロは、元気よく返事をしました。
こうして姉妹はシロの背にまたがって、王都にかまえた新しい自分たちの家へと帰っていくのでした。
その翌日、今回のはたらきもあっというまに拡散されて、"巨獣狩りの剣星"と"雨あがりの聖女"の姉妹の名は王国じゅうに、さらに大きくとどろくことになるのですが……
姉妹のやることは、いつだって変わりません。
風の向くまま、気の向くままに、世のため人のため、なにより自分たちのために大冒険。
変わらないけれど新しい日々が、ここから幕を開けるのです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
このおはなしはこれにて完結となります。
約二ヶ月の連載、長いようで短いものでしたが、お楽しみいただけたでしょうか。
続編はこちらから
https://ncode.syosetu.com/n9804ml/
姉妹の新たな冒険にご期待ください。
それでは、このおはなしをおもしろかったと思ってくださったら
ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。




