第63話 王宮の夜
エイルとエミル姉妹は、友だちとなったアルティナ姫のはからいで、今晩は王宮の客室に泊めてもらえることになりました。
『このベッド、すっごいふかふか~!』
シロンはベッドの上でゴロゴロしていました。
「そうだね。さすが王宮、前に泊まった領主屋敷より豪華で、快適だわ。……ちょっと解放感がありする気がするけど……」
エミルもまた、ベッドの上であおむけになっています。そのまま部屋を見渡すと、天井はびっくりするほど高いですし、広さも故郷の自室や、いままで泊ってきた宿屋の何倍もあります。パートナーの魔法生物すべてを指輪から呼び出してもじゅうぶんすぎるくらいのスペースで、なんだったら戦わせても問題なさそうなくらいです。もちろん、やりませんけどね。
そういうわけなので、3メートル級大オオカミのシロもふくめて、姉妹のパートナーたちも部屋の中で思い思いにすごしていました。
『エミル様、こういう部屋で暮らせるようになったら、ステキですね』
「うん、そうだね……」
エミルのそばにつくダークエルフのシルヴィアは、うっとりした様子でつぶやきました。彼女の頭の中ではきっと、エミルとふたりきりのしあわせな生活の想像が展開されているのでしょう。エミル自身それもなんとなくわかっているので、苦笑いを浮かべます。
「いやー、今回の冒険はひさしぶりに楽しかったなあ。行ったことないところもいっぱい行けたし、見たことない魔法生物も、いっぱい見れた!」
エイルもベッドの上で大の字になって、満足げに笑い飛ばしました。
「……うん、わたしも。大変なこといっぱいあったけど、楽しかった!」
エミルも同じように笑顔になります。
「でも、やっぱりエミルといっしょだったっていうのが、いちばんよかった!」
「……うん。わたしも、お姉ちゃんといっしょに冒険できたってことが、いちばんうれしい!」
姉妹はベッドの上で転がり、なかよく笑顔を向け合いました。
『シロンも! おねえちゃんとシロといっしょのぼうけん、サイコーだった!』
『ワン!』
シロンも、カーベットの上で座りこんでいるシロの頭の上にパタパタと乗っかって、なかよく声をあげました。
「ふう。……やっぱりさ、私、エミルがいっしょだと、いつもより力出せるんだよね」
「え?」
エミルはきょとんとします。
「だってさ、エミルが生まれた日、わかっちゃったんだもん。ああ、私はきっと、この子を守るために生まれてきたんだ……って」
「お姉ちゃん……?」
エミルは意外そうに目を見開きました。だってそんな話、はじめて聞きましたから。エイルが自分のことを大事にしてくれているのはわかっていましたが、まさか、その根本には、そんな思いがあったなんて。
「ただそのときは、単にお姉ちゃんになるからって自覚からのものだと思ってた。けど、いまはちがう。エミルを守ることはエミルのためでもあるけど、みんなのためでもあって、私のためでもあるんだって、思うんだよ」
あいかわらずお姉ちゃんの言うことはふわふわしていて、よくわかりませんけれど、エミルにはわかります。
エイルはきっと、浄化のチカラを持つエミルを守ることは世界のためになることにつながる、ということを、彼女が生まれた瞬間に直感していたのでしょう。天啓とか、神さまのおぼしめしとか、そういうたぐいのものを感じたのだと思われます。
けれど、そんなことはエミルにとってはどうでもいいことですし、エイルもきっとどうでもいいことだとも思っているでしょう。ただ姉妹にとっては、おたがいのことが大事で、大切で、大好きだということ。それだけでじゅうぶんなのですから。
それをたしかめ合うように、姉妹は寝転んだまま、ぎゅっと手をにぎり合います。
「……お姉ちゃん、だいすき」
「私もだいすきだよ、エミル」
姉妹とパートナーたちは、心地よく眠りに落ちました。たまりにたまった冒険の疲れを、いやすために……
☆ ☆ ☆
チリンチリン。
客室の大きなドアに備え付けられている呼び鈴の音で、エミルは目を覚ましました。自分を抱きしめたまましあわせそうに眠るシルヴィアの腕を、そっとはがします。
かたわらのエイルとシロンはまだまだぐっすり。きっとごはんの時間じゃないと起きないでしょう。
エミルはブーツをはいて、ベッドから降りて、寝ぼけまなこのままドアへ向かいました。
(アルティナかな?)
そう思いながら、ドアを開くと……
目の前には、知らない男性が立っていました。
なのでエミルは警戒し、一瞬、ドアを閉めようと思いましたが……すぐに気が変わりました。
男性はちょっぴりいぶかしげな表情からして、こちらに懐疑心のような感情を向けていますが、敵意や悪意は感じられず、なにより、有無を言わさぬ強い威圧感を放っていたからです。
背はそれほど高くはありません。スーツの上に茶色いコートを羽織り、フチなしメガネをかけたクールそうな人です。全身にまとうオーラはおだやかですが、エイルやクラウスに近い強さが秘められているように見えました。
「君が、エミル・スターリングで間違いないな?」
「え、ええ、そうですけど……」
エミルは反射的に、正直にうなずきました。いまはトレードマークのベレー帽とローブを外しているので、あるいはごまかしようがあったかもしれないのにもかかわらず。
「私は極星魔法つかいが一人、"難攻不落の地星"ウォルター・ザントブルグ。お疲れのところ申し訳ないが、君にある重要任務を依頼したい」
「じゅうようにんむ……」
エミルは息をのみました。
極星魔法つかい……どうりでお姉ちゃんたちに似た威圧感があると思いました。しかも、そんな人から大事な任務をおおせつかるなんて。おかげで、眠気が完全にふっとんでしまいました。
「わかりました。少し待ってください。したくして、お姉ちゃんも起こさなきゃ……」
エミルが振り返って、いったんベッドまで戻ろうとすると、
「待ちたまえ。依頼したいのは、あくまで君一人だ。エイル・スターリングは必要ない」
ウォルターがメガネをくいと持ち上げて、止めました。
「え?」
「とにかく、連れて行くなら、君のパートナーたちだけにしてもらいたい」
「? わ、わかりました……」
エミルは釈然としない様子ですが、相手は極星魔法つかい。逆らうわけにもいかないので、言う通り部屋の中のパートナーたちを指輪に戻し、したくをすませ、エイルに簡単な書き置きを残して、ウォルターについていくのでした……
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
完結まであと7話となります。
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