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ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 王女の試練と凶星の魔女  作者: 稲葉トキオ


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60/70

第60話 憎しみの裏返し

『ぶへえ~……』


 魔術の発動を終えたシロンはチカラを使い果たし、もとのチビドラゴンのすがたに戻って落っこちてきました。


「おつかれさま、シロン」


 エミルはそれを受け止め、ねぎらいの言葉をかけてあげました。自分もマナをほとんど使って疲れているはずなのに、それをおくびにも出しません。


 なぜなら、まだすべてが終わったわけではないのですから。


「……気分は、どう?」


 エミルは、床の上に倒れた戦塵の魔女ベネットにたずねます。


『……いいような、悪いような……解き放たれはしたが、よくわからぬ気分だ……』


 魔女は寝返りを打つように、あおむけに体勢を変えて言いました。


「なんだそりゃ。いいに決まってるだろ」


 エイルはあきれたように言いました。せっかくかわいい妹たちががんばって浄化の魔術をかけてあげたというのに、魔女が満足していないようなので、お姉ちゃんとしてはご不満のようです。


『……しかたがないのだ……私はもともと、怨念から生まれた存在なのだからな……』


「それは……どういうことですか……?」


 魔女のつぶやきに、アルティナがまっさきに反応しました。


『"ベネット城塞跡"……おぼえているでしょう?』


 スノーベルが重々しく口を開きました。


 もちろん一行(エイル除く)はおぼえています。エミルがスーリムに人質にされた際、交渉の場として指定された場所です。


「そういえば、ベネット……あなたとおなじ名前……もしかしてあなたは、あそこで生まれたっていうの……?」


 エミルが気づいたように言いました。


『そうだ……私はあの地の怨念が集まって生まれた精霊……いや悪霊というのが正しいか。元はそのような存在だったのだ……』


 これはあとで知ったことですが、エミルにかけられた起爆の呪いは完全なものではなく、それを安定して発動させるために、魔女が生まれた地に集まるマナが必要だったようです。だからこそ魔女はスーリムに命じて、城塞跡を交渉の場に指定させた、ということでした。


「それがどうして、お父さまのパートナーに……?」


 アルティナの質問に、たしかにそれは気になると、エミルとシロンは息を飲みました。


『あいつの少年時代のやんちゃぶりは、娘のお前も知っているだろう』


「ええ……もっともやんちゃなのは、現在進行形で、ですけど」


 エミルとシロンも、謁見のときにたしかにそんな印象を抱いたと、うんうんうなずきました。


『もう、25年ほど前になるか。当時私は、城塞の悪霊として王都近辺で恐れられる存在だった。それを知ったあいつは、興味本位でノコノコやってきおったのだ。あろうことか、護衛の目を盗んでまでな』


『なんか、おねえちゃんみたい』


 シロンが半目でつぶやくと、エミルはあははと苦笑いしました。エイルお姉ちゃんも幼いころから、村のオトナたちの目を盗んで、立ち入り禁止区域に入りまくっていましたから。


 でも……そんなお姉ちゃんにくっついていったからこそ、エミルとシロンは出会えたのです。そう思うと、魔女に共感をおぼえました。


『それが、私とあいつの出会いだった。あまりにもふざけていたので、よっぽど殺してやろうかと思ったよ。だが、いざ襲いかかろうとしたとき、こう言いおった。"おまえは美しいな。俺の嫁にしてやる!"……とな』


 一行(エイル除く)は、ぽかーんとしました。


 いくらなんでも、当時10歳の少年が、いきなり悪霊にプロポーズなんて。確かに魔女の容姿は美しく、そう思うのもわかるような気はしますけれど……肝がすわっているとか心臓に毛が生えているとか、そういうレベルの話ではありません。


「それで……まさか、その言葉を受けて……?」


 エミルはおそるおそるたずねました。まさか悪霊と恐れられるような存在が、たかだか小僧のたったひとことで落ちるはずが……


『……う、うむ。口にするのも恥ずかしいことだが、不覚にも、惚れてしまった』


 ――ウソだろ!


 この場の全員(エイル以外)が、同じ心の叫びをあげたことでしょう。


(なによこれ! まるでのろけ話じゃない!)


 エミルは顔をまっかにして、心の中でツッコミを入れました。さっきまでのシリアスな空気は、いったいなんだったんでしょう。


『その気持ち、わかります!』


 意外にも、ダークエルフの姫シルヴィアが、前のめりになって話にノッてきました。


『私(わたくし)も、エミル様に甘い言葉をかけられてから、もう夢中ですからっ!』


(おいおい、わたしはそんな言葉をかけたおぼえないぞ!)


 エミルもさすがに、目をむいて引きつったような笑いを浮かべました。


 たしかに出会ってすぐ、重傷を負ったシルヴィアを助けるために、意識のない彼女に薬を飲ませようとちょっと人に言いづらいようなことをしましたが、プロポーズや愛の告白なんて、ほんとうに身に覚えがないのですから。


 魔女も、自分に共感してくれた者がいることがうれしいのか、フッと口角をあげて、話を続けます。


『……まあ、それはともかく、だ。経緯はどうあれ、私とあいつはパートナーとなった。国民の誰もがおどろいていたな。王子があの"戦塵の魔女"をパートナーにした、とな』


『それ、じぶんでいっててはずかしくない?』


「しっ、だまってなさい」


 なんだかんだで、戦塵の魔女って二つ名を気に入っているのかな、なんて思ったエミルでした。


『それから私たちは、5年の時を過ごした。あいつの言葉にいつわりはなかったよ。あいつは私を愛し続けてくれた。ほんのわずかな時間だったが、あれだけ満たされた日々はない……』


(王様って、年上が趣味だったんですか?)


(おそらくは。私を産んだお母さまも、10歳ほど上だったようですし)


 エミルとアルティナは、ひそひそ話をしていました。


 これもあとで知ったことですが、アルティナのお母さん……つまり王妃さまは、アルティナを産んですぐに亡くなったらしく、彼女に関する思い出はほとんどないそうです。


『そして……運命の日。王族の試練の達成間近というところで、ヤツに襲われた。【星竜アストルム】……アストライトの地に災いをもたらすものを許さぬ、執行者にな。ふだん、試練のときには現れることがないといわれているヤツだが、どうやら怨念の集合体である私を"災い"だと目をつけたらしい』


 魔女は苦々しい口調で語り、どこか軽い雰囲気になっていた一行も、一転して重い空気に戻りました。


『【星獣アストラ】をもしのぐという正義の執行者、極星魔法つかい(マスターウィザード)をも瞬殺する相手、ましてひよっこのあいつに勝ち目などあるはずはなかった。それに……』


「それに?」


『……星竜の言い放った、"災いをもたらすもの"という言葉が、私の頭から離れなかった。もしこの試練で生き残ることがあっても、私がいるかぎり、あいつにいつか本当の災いをもたらしてしまうかもしれない……そのような考えがよぎったのだ。なにしろ私は……人に近い姿をとろうと、所詮は怨念の塊なのだからな』


『……!』


 シルヴィアはたまらず口をおおいました。


『そこで私は、思い至ってしまった。いまここで、星竜とともに消え去ることが、あいつにとって一番いいということにな』


「それで……相打つ道を選んだのですね……」


『ああ。ともに散ったと思っていたが、ごらんの通り、私はこうして、おめおめと生きているというわけだがな』


『もしかして、あんたがドラゴンにへんしんしたのって、アストルムといっしょにきえるつもりだったから?』


『おそらくは、そうだろう。対消滅の際に、星竜の因子が私の身体と融け合ってしまっていたのかもしれない』


『なるほどー』


 シロンは納得がいったようです。正直言葉がむずかしくてよくわかりませんでしたが、言わんとしてることはなんとなく理解できたようでした。


『あとの経緯は、お前たちも知っての通りだ。スノーベルを通じて、あいつの記憶から私の存在が消え、私以外の者と結ばれ、その愛の結晶を産んだと知った私は、まんまと王国への復讐に走ったというわけだ。災いをもたらすもの……星竜の判断は正しかったのだよ』


 魔女は、まるで自分をあざ笑うかのように言い捨てました。


 エミルは、いえ、エイル以外の全員は、魔女がこうなってしまった気持ちがわかった気がしました。


 20年もの長い年月(寿命の長い精霊にとっては短いですが)、ひとりきりで異空間に閉じこめられて、あげく愛する人に存在を忘れられてしまったとなったら、怒りと憎しみに支配されるのもムリはありません。


 シルヴィアも、故郷の森をおびやかした大樹の精霊のことを思い出していました。彼もまた、ひとりきりで結界に長いあいだ隔離されて、心を病み、ダークエルフたちに復讐心をいだくようになってしまったのですから。


「ひとりぼっちはつらいから、みんな絆をもとめるんだ……」


 エミルはふと、ぽつりとそうつぶやくのでした。


 自分でも、どうしてそんなことを言ったのかわからない、そんな様子で。


『さあ、私の話は終わりだ。アルティナ姫、煮るなり焼くなり、好きにするといい』


 魔女はつきものが落ちたような晴れやかな顔で言いました。


 たしかに魔女のいきさつには、大いに同情できるところはあります。


 けれど、だからといって、彼女は罪のない魔法生物(ワンダー)たちを暴走させ、国民を苦しめ、アルティナの学友たちの死の原因を作ったのです。その罪は、けっして消えません。


『アルティナ……』


 スノーベルは不安げな顔でパートナーを見つめます。


 魔女に恩のある彼女としては、温情をかけてほしいという気持ちはあるでしょう。


 でも、長年アルティナのパートナーだったものとして、その仲間たちを殺したことを許せないという気持ちも理解していました。だから、名前を呼ぶ以外、なにも言えないのです。


 アルティナは無言のまま一歩前に出て、観念した表情の魔女を見下ろしました。


 彼女のくだす審判はいかに――決着のときがせまります。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

このおはなしは全70話、あと10話で完結になります。

おもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、

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