第51話 心を解かすための戦い
『へえ、ひとりじゃ自信ないから、そのコと協力するってわけ? 自分より年下の、かけだしの魔法つかいに?』
「ええそうです。彼女は、私の護衛ですから」
スノーベルの挑発に乗ることなく、アルティナはあっさりきっぱりと言い切りました。
護衛と言ってもらえて、エミルもちょっぴり誇らしげです。
『護衛? 同行者じゃなくって?』
「ええ、正式に認めさせていただきました。あなたはその場にいなかったから、ごぞんじないでしょうね」
今度はアルティナが挑発を返しました。スノーベルが自分への独占欲が強いということを知っているからです。
このどこかほほえましい挑発合戦を見て、パートナー同士やっぱり似てるところがあるんだなと、エミルはおかしくなって、ちょっぴり笑ってしまいました。
案の定、スノーベルはイラだち、ギリッと歯をかみしめます。この挑発合戦、まずはアルティナの勝利のようです。
「そんな顔するくらいなら、戻ってきてもいいんですよ。いまなら、許してあげなくもありません」
アルティナは、さらにからかい半分で言いました。まるで、ふたりがパートナーだったときのように……
『うるさいって……言ってるでしょ!』
スノーベルはまたかんしゃくを起こし、怒りを爆発させるかのごとく、全身からすさまじい冷気を放ちます。
「レッディ!」
エミルはすかさず【ソルフェニックス】のレッディを呼び出しました。その炎の体をもって、冷気から自分たちの身を守ってもらおうとします。
『キィ……』
レッディは、苦しそうな声をもらしました。
冷気があまりに強すぎて、高熱の体をもってしてもこたえるようです。いくら不死鳥とはいえ、レッディはまだ生まれてまもなく、チカラはまだまだ弱いのです。
「レッディ! がんばって!」
エミルは杖をかまえ、指輪を通じて自身のマナを送り続けます。
そのかいあって、レッディはチカラをふりしぼり、なんとかエミルたちを冷気から守ることに成功するのでした。
しかし、まさにまっしろに燃え尽きたという感じで……レッディはそのままフラフラと、雪の積もった地面の上に横たわるのでした。
「ありがとうね、レッディ。きょうはもう、ゆっくり休んでね」
エミルはやさしくねぎらうと、レッディを指輪の中に戻してあげました。
『フン! ひよっこのくせに、やるじゃない!』
スノーベルは、感心とくやしさが混じったような表情で言いました。
ひよっこ……エミルを一度捕らえた水星のスーリムも使っていた言葉です。いま思えば、それもスノーベルが魔女の目として、情報を送っていたからでしょう。なにしろ、宿屋でエミルがアルティナに話したこれまでの旅のことを、彼女も指輪の中から聞いていたのですから。レッディが生まれたてだということもふくめて。
『でも……こっちの狙い通りなんだけどね』
スノーベルは、ニヤリとした不敵な笑みを浮かべます。
それを見たエミルとアルティナはハッとまわりを見渡して、気づきました。
「お姉ちゃん!? どこ!?」
「いつのまにか……まわりが氷の壁にかこまれている!?」
『そうよ。私の空間魔法の中にようこそ。これであのやっかいなエイルは、決着するまで手出しできない! さしものあのコにだって、この空間は破れっこないからね!』
スノーベルは、今度は勝ち誇ったように笑いました。
最初から彼女の狙いは、雪と氷の空間によって、エミルとアルティナを閉じこめることだったのです。これでは、無敵で最強で最高にたのもしい、エイルお姉ちゃんの力を借りることはできません……
……ですがふたりは、そろって不敵な笑みを返すのでした。
『な……なにがおかしいのよ?』
それがなんだかブキミで、スノーベルは思わずたじろぎます。
「べつに、それでもかまいませんよ」
「わたしたち、最初からお姉ちゃんをアテにするつもりなんて、ないからね!」
アルティナとエミルは、勇ましく戦いのかまえをとりました。
その目、立ちふるまいには、おそれがこれっぽっちも感じられません。ピンチになったら、お姉ちゃんが助けてくれるからだいじょうぶ……そんな甘えた期待を、最初から捨ててきたように。
『……だったら……おのぞみどおり、ふたりまとめて氷のオブジェにしてあげるっ!』
ムキになったスノーベルが、両手から冷気を放ったのを合図に、戦いが本格的にはじまりました。
エミルは少女の姿に進化変身したシロンを、アルティナはアイスペガサスを指揮して、冷気を防ぎました。さすがに三度目ともなれば、もう通用しません。
「行って!」
エミルが杖をつきつけると同時に、シロンは背中の翼をひろげ、アルティナはペガサスの背にまたがり、スノーベルへと突っこんでいきます。
『フン!』
スノーベルはあざ笑うように、ふたりの拳と剣をひらりと軽やかにかわしました。
『ぬるい攻撃だこと。当てる気あるの?』
「くっ……」
図星を突かれ、アルティナは歯をかみます。
覚悟していたこととはいえ、いざ実際にパートナーだった存在に斬りかかるとなると、ためらいが生まれてしまったのです。
『少なくとも、私はあるよ!』
シロンもまた、ムキになって反論しますが、
『じゃあ、なおさらダメじゃない。やる気があっても、当たらないんじゃねえ』
『むきーっ!』
スノーベルのからかいまじりの挑発を真に受けて、シロンは地団駄を踏むのでした。
「シロン! おちついて! だいじょうぶ、わたしが指揮するから!」
後方からエミルが、シロンに激励を送りました。
その様子を見て、スノーベルがいまいましげな表情を浮かべます。
『アナタはある意味、姉以上の危険人物だからね……!』
そして右手をかざし、氷の弾丸をエミルめがけて発射しました。
たしかに、エミルがいなければ、スノーベルが魔女の目であると暴かれることもなかったでしょう。浄化の魔術やエイルの姉妹愛による成長もなければ、魔女の計画だって、順調に進行していたはずです。だからこそ、もう手遅れかもしれないけれど、その芽をつんでおかなければと思ったのです。
エイルの強さはバケモノじみていますが、妹のエミルはそれほどじゃないこともわかっています。だからこれでイチコロ……
「甘く……見ないでっ!」
ドゴォーン!
そんなスノーベルの予想とは裏腹に、エミルは華麗な横っ飛びで氷をかわしました。
たしかにエミルの身体能力は、姉のエイルにははるか遠くおよびません。
ですがそれでも、同年代の子どもとくらべても頭ひとつふたつ抜けており、なによりパートナー契約した五体の魔法生物たちが惜しみなくチカラを与えてくれているのです。これくらいの攻撃をかわすなんて、わけありません。
そう、エイルがあまりにもケタはずれなばかりに、スノーベルはエミルの能力をはかりそこなってしまったのでした。正確な情報をつかめないようでは、魔女の目失格です。
『……ほんっと、目ざわり!』
スノーベルは本気でイラ立ちました。白い髪と背中の氷の羽が、ピンと逆立ちます。
「シロン! アルティナ様! こっちは気にしないで、ガンガン攻めちゃえ!」
エミルがとくいげな笑顔で叫ぶと、シロンとアルティナはふたたびアタックをかけます。
スノーベルは、エミルへの攻撃とそれをかわされたことに気を取られて、わずかにスキができていました。
『うっ……!』
ふたりの攻撃がヒットし、スノーベルは後ずさります。
受け止めた両腕がじんじん痛み、しびれ、大きなダメージを受けました。
妖精はチカラこそ強いですが、反面、力は弱く、打たれ弱い種族なのです。それはたとえヒトと同じサイズになったところで変わりません。
さらにそのスキを逃さず、アルティナとシロンは攻撃をたたみかけます。
ふたりとも、体があたたまってきたのか、最初よりも動きが速く、するどくなっていました。完全に苦手な接近戦に持ちこまれたことで、一気にスノーベルは劣勢に追いこまれるのでした。
『この姉妹は、ほんとうに……!』
スノーベルはなおもイラだちをつのらせます。
シロンはともかく、アルティナがここまで肉薄してくるなんて、完全に予想外です。自分がもうパートナーについていないのにもかかわらず。だからこそ、よけいにはがゆく、腹立たしいのかもしれません。
しかし……この展開自体は、スノーベルと、魔女の予想通りでした。アルティナとエミルの善戦によって、多少前倒しになっただけにすぎないのです。
キィン!
アルティナの突きが胸のブローチに当たり、スノーベルは衝撃で地面の上にどさっと倒れました。
「……勝負ありです、ベル」
アルティナが剣をつきつけ、宣言しました。けれどその表情に、よろこびの感情はかけらもありません。
あおむけに倒れたスノーベルは、空をあおぎながらニヤリと笑います。
「!」
アルティナ、シロン、後方のエミルがハッとしたその瞬間……
スノーベルの左胸に、赤い逆星の紋章が浮かび上がりました!
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