第48話 金の剣、銀の剣
「……!」
気がつくとアルティナは、際限なく冷気を放ち続ける聖剣グレイセスを、エイルに向かって放り投げていました。
自分でも、どうしてそうしたのかわかりません。ただ反射的に、そうしてしまったのです。
エイルの表情と声の迫力に圧倒されたのか、それとも……
投げられたもう一振りの聖剣を、エイルは差し出した左手でキャッチします。
そして受け取った剣を、ぐっと力をこめてにぎりしめると……
ふわぁっ……
「あ……冷気が……?」
エミルとアルティナはハッとして、まわりを見渡しました。
山ごと凍らせるいきおいだった強烈な冷気が、ウソのようにおさまってしまったのです。
いえ、正確には……
『お姉ちゃん……?』
シロンも身ぶるいを止めて、声をもらします。
冷気は、おさまったわけではありませんでした。エイルのまわりで、うずを巻いて吹き荒れているのです。
それはまるで、聖剣グレイセスが、エイルを持ち主として認めたかのようでした。
そう理解したアルティナは、ほんの少しうれしさと、悲しさとくやしさが混じったように、表情をくもらせるのでした。
さらに……エイルににぎられた聖剣は光につつまれ、みるみるその形を変えていきます。
それは長くひろがる白銀の髪に、青い瞳、銀の軽鎧の下に、青と白を基調としたドレスをまとった……剣の精霊エクシリアとうりふたつの姿の、美少女へと変化したのです。
『エクスにそっくり!』
「双子の剣だから、見た目もふたごみたいなんだ!」
シロンとエミルも、びっくり仰天。
アルティナは、それ以上の驚きを感じていました。
聖剣を従えただけでなく、こんなすぐに精霊化させてしまえるなんて。
東洋の国では"ツクモガミ"の名で伝わる――物の精霊は、長年大事に使われたりして、持ち主のマナにさらされ続けることで、命と意思を宿すといわれています。
それをたった一度にぎっただけで発現させてしまう、エイルの生命力のすさまじさ、同時に魔法つかいとしての次元のへだたりがはっきりと感じられて、アルティナは驚愕と絶望を通り越して、もはやあこがれにも似た感情をおぼえるのでした。
『我がご主人様。なんなりとご命令を』
人の姿となった――【聖王剣精グレイセス】は長いスカートをつまんで、エイルに一礼しました。
「よし、合体だ!」
『了解しました』
生まれたてにもかかわらず、エイルからのムチャぶりともいえるいきなりの命令に、グレイセスもいきなり即答してみせました。こんなふうに波長が合うからこそ、彼女を主と認めたのかもしれません。
グレイセスの全身はまた銀色の光につつまれ、エイルの右手ににぎられる、エクシリアが合体して生まれた黄金の大剣と、さらに合体します。
カッ――!
「きゃあっ!」
白い岩壁にかこまれた広場が、まばゆいばかりの光につつまれました。
エミルもシロンもアルティナも、対戦している【アストロキメラ】でさえ、まぶしさで目をおおい、身をよじります。
やがて光がやわらぐと……エイルの右手には黄金の剣、左手には白銀の剣がにぎられていました。
「やっぱり二本のほうが、しっくりくるな!」
エイルは実にうれしそうににかっと笑い、目の前で金と銀の剣を交差させます。
その先に立っている、アストロキメラに照準を定めるように。
「お姉ちゃん……」『かっこいい……』
エミルとシロンは、そのうしろ姿に見とれていました。
ただでさえかっこいいお姉ちゃんが、いつにもましてかっこよく見えたのです。ぽーっとして、もう戦うどころではありません。
エイルはダッと地面を踏みこむと、キメラに向かって突撃していきました。
腰をひねって右手の剣を振り下ろし、続けて左手の剣で振り上げる、《クロススラッシュ》!
しかし……やっぱりキメラには効きません。
エイルも金と銀の二刀流に興奮するあまり、そのことを忘れていたのでしょうか?
「へえ、お前もいい剣だね、気に入った!」
と思っていたら、試し斬りと準備運動を兼ねた攻撃だったようです。
それに、まったく効いていない、というわけではありませんでした。キメラの体をよく見ると、左の剣――グレイセスで斬った部分が、わずかに凍りついています。
「これなら、お前をやっつけられる!」
エイルは勝利を確信して、二本の剣を構え直しました。
エミルとシロン、アルティナの視線にも期待がこもっていきます。とくに妹たちのまなざしは、まるで星空のようにキラめいていました。
アストロキメラも、聖剣グレイセスに脅威を感じ取ったのか、飛びすさってエイルから距離を取りました。
そして、ライオンの口をぱかっと開きます。その中には白い光が集まっていくのが見えました。
『あれ……やばいよ!』
シロンが叫びました。自分もふだん息吹や光線を吐くとき、そうしているからわかるのです。キメラがあの口に溜めた、強力なエネルギーを発射しようとしていることが。
それはあっというまにチャージされていき、距離を取られたこともあって、エイルが踏みこむより先に放たれることはあきらかでした。
「なら……シロン!」
『オーライ!』
杖をつきつけたエミルの指示で、シロンは両手をひろげてエイルの前に立ちます。
自分に近い身長へと変化しているその背中を見て、エイルはその意図を言われずとも察知しました。かわいい妹たちを信じて、こちらもチカラをためることに専念します。
『ガアアッ!』
そして、キメラの口から、白色の極大光線が放たれました!
その大きさは、シロンとエイルもろとも、うしろのエミルとアルティナもまとめて飲みこむいきおいです。なんとかして防がなければ、全滅はまぬがれないでしょう。
エミルは、指輪にありったけのマナをシロンに注ぎこみます。
シロンは両手を前に突き出して、与えられたエミルのマナと自分のマナを混ぜ合わせました。
そして生まれた強大なエネルギーを、両手から解き放ちます!
「『《ドラゴンブラスター》!』」
それは、太陽のようなオレンジをまとった、虹色の極大光線。
二つの光線がぶつかり合い、すさまじいスパークが起きます。力は互角のように見えますが……
「ううん、まだまだ!」
『私とエミルのチカラが、たった一体のワンダーに負けるもんか!』
エミルとシロンは熱い思いを叫び、杖をにぎる右手と光線を放つ両手に、さらに力をこめます。
すると、虹色の光線が、みるみる白色の光線を押し返していくではないですか。
『ムウッ……!』
アストロキメラも、負けじと四本の脚をふんばり、全身全霊の力をこめました。こうなったら、根くらべです。
やがて二つの光線は耐えきれなくなったのか、対消滅を起こして霧散していきました。
すべてを出し切ったエミルとシロンはひざをつき、キメラもつらそうに息を吐きます。
「ナイス、ふたりとも、よくやった」
そんなつぶやきとともに、一陣の風がシロンの横を吹き抜けていきました。
妹たちが作ってくれた絶好のチャンスを見逃さず、エイルが一気に飛びこんでいったのです。
キメラがそれに気づいたときには、もう手遅れ。
おもいきり振るわれたエイルの左手の剣――聖剣グレイセスの放つすさまじい冷気で、その雄々しき白い巨体は、あっというまにおごそかな氷の像へと変わってしまったのでした。
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