第46話 白色の獣たち
『はあーっ!』
麗しきダークエルフの姫、シルヴィアの炎のキックが、怪鳥【アストロバード】の首筋に突き刺さりました。
しかし、急所に強烈な一撃を与えたものの、しとめるまではいきません。この怪鳥もまた、【アストロゴーレム】には劣るものの、頑丈なのです。
怒ったアストロバードは、ギロリとシルヴィアをにらみつけます。
そして、隕石の硬度を誇る白い翼で、彼女をはたき落としました!
『あああっ!』
シルヴィアはゴツゴツした岩場に背中を打ちつけ、大ダメージ。美しい銀髪が、あざやかな血で赤く染まりました。
「シルヴィア!」
エミルが彼女に駆け寄ろうとしたところに、アストロバードが急降下!
そのするどいカギヅメで、シルヴィアもろともにぎりつぶそうとしてきます!
ドガァーン!
しかしその寸前で、エイルの黄金の大剣によるフルスイング!
シルヴィアがやられたしかえしとばかりに、アストロバードを岩壁までふっとばしてやりました。
後頭部を強く打った怪鳥は、そのままドッと倒れ、戦闘は終了しました。
「ありがとう、お姉ちゃん! ……シルヴィア!」
エミルは姉への感謝の言葉をかけて、倒れたシルヴィアを抱き寄せました。
『エ……エミル……様……』
致命傷ではないようですが、美しい顔を苦しげにゆがめ、しゃべるのもつらそうです。
涙でうるんだオレンジの瞳は、戦いに勝てなかったくやしさ、エミルの役に立てなかったもうしわけなさでにじんでいました。体の痛み以上に、心を大きく痛めているようです。
エミルはだいじょうぶ、わかってるよと言わんばかりに、そっと彼女の褐色の肌をなでてあげます。
「おつかれさま。指輪の中で、ゆっくり休んでね」
やさしい言葉にほんの少し救われたのか、シルヴィアは安心したように目をつむり、光の粒子となってエミルの指輪の中に戻っていきました。
「だいじょうぶですか、彼女……」
アルティナも心配そうに見下ろしてきます。
「だいじょうぶですよ。シルヴィアは箱入り娘で、泣き虫で、精神的にもろいところはあるけど……芯はとっても強いですから。きっとこの敗北から学んで、またひとつたのもしくなってくれます」
エミルはすっと立ち上がって、晴れやかな顔で言い切りました。その青い瞳の輝きは、パートナーたちへの強い信頼があらわれているようでした。
「アカデミーにも、パートナーに戦闘をまかせる指揮魔術の使い手は多くいました。けれどあなたのように、それほどパートナーと深く接している魔法つかいは、そうはいませんでしたよ」
アルティナはほほえみをたたえて、エミルをたたえました。
「それって、わたしがその人たちにも負けないくらい、優秀だってことですか? 照れるなあ」
「いえ、むしろ成績が悪い者が多かったですね。四分の一くらいはサボり魔でしたし。変人ばかりだった、といいますか」
「え~っ!?」
エミルはびっくりおくちあんぐり。
自分はまじめにやってきているつもりなのに、そんな人たちといっしょにされるなんて、心外です。さらにアルティナがこんな上げて落とすようなことを言うなんて、意外です。
アルティナはくすくす笑って、つづけて言いました。
「まあ、それはそれ、これはこれで……少なくとも私は、エミルは優秀な魔法つかいだと思いますよ。純粋な戦闘の強さではおよぶべくもなくも、正直、素質自体はエイルより高いと思っています」
「……それ、むかしお姉ちゃんも言ってくれました」
エミルは一転、目を細めてふにゃりとした笑顔になりました。
ローブの中から首を出しているシロンも、同じような顔をします。
8年前、シロンと出会った日にエイルにかけてもらった言葉……それはエミルにとって、なにものにも代えがたい宝物だからです。
「おーい! そろそろ行くぞー!」
「「『はーい!』」」
剣をおさめ、すでに先を行こうとしていたエイルの呼びかけに、エミルとアルティナは談笑を切り上げて応えるのでした。
☆ ☆ ☆
お姫さまご一行はその後も登山道を進み、生息するたくさんの魔法生物たちと戦いました。
岩肌を這いまわる大型のトカゲ、【アストロリザード】。
群れをなし、全方位から襲いかかってきたオオカミ、【アストロボス】。
あぐらをかき、無数の岩を念力で操作する人型、【アストロエスパー】。
ずば抜けた強さを持つ百獣の王、【アストロレオン】。
どれも同じような白色をしていたのが特徴的で、おまけにめちゃくちゃ硬いときています。
エミルとアルティナとそのパートナーたちは、さすがに休憩をはさまなければ動けないほど疲れ切っていました。
その中でもただひとりエイルは、ケロッとすずしい顔をしていました。
"巨獣狩りの剣星"の二つ名どおり、野生の獣の相手はお手のもの。途中からは、ほとんどひとりで魔法生物たちを相手にしていました。
(ほんとうに……なんて人なの……)
アルティナは息をととのえながら、心の中で驚嘆します。
エイルの圧倒的な強さは何度も目にしてきて、それ自体はもうおどろくことはありません。
真におどろくべきは、その強さが、この王族の試練を経るごとにあきらかに洗練されていっているからです。その理由のひとつが、聖域の魔法生物たちを殺してはならない、という新たなルールをみずから課したことによって、自然と技がみがかれていったからでしょう。
もうひとつは、最愛の妹エミルの存在。4年ぶりに再会した彼女を守ろうとするエイルの本能が、その体にさらなる力をみなぎらせているのでは、とアルティナは推測しました。また、かわいい妹の前でかっこいいところを見せたいという気持ちが、いい方ばかりに出ているということもあるでしょう。そっちのほうが、エイルらしいとも思えました。
ただでさえデタラメなほど強いのに、まだ成長の余地を大いに残している……そう思うと、たのもしい反面、ぞっとせざるをえません。
「エミル、お姫さま、歩ける? ムリなら、かついでってあげようか?」
しかも、こんなことまで言えてしまう余裕まで持っています。もう感心を通り越して、あきれるばかりです。
「わたしは……そろそろだいじょうぶ!」
エミルは腰かけていた岩の上から、すっと立ち上がりました。
彼女は姉のエイルほどではないにしろ、体力自慢。まだまだ元気は残っています。
『シロンだって、へーきだもん!』
ちっちゃいけれどドラゴンのシロンも、さすがの生命力です。
「気づかいは……無用です!」
アルティナもゆっくりと立ち上がります。
彼女も王宮やアカデミーで訓練を積んでいるのです。そんじょそこらの魔法つかいとは、鍛えかたがちがうのです。エイルの強さに引いている場合じゃないとばかりに、負けじと気持ちを引きしめ直しました。
休んでいたお姫さまご一行は再出発。さらに山を進んでいくと、円形に開けた場所に出ました。
この一帯だけ白いモヤは消えており、まわりは高い岩壁にかこまれています。奥には、出口のようなまっすぐな道が伸びていました。
三人が広場に足を踏み入れると……
ゴゴゴゴゴ……
なんと、もと来た道と、奥に見えている道が、急にせり上がってきた岩によってふさがれてしまいました。
「これってもしかして……そういう感じ?」
エミルは目をぱちくりさせ、苦笑いを浮かべながらつぶやきました。
この状況、ダンジョン攻略のときに何度かおぼえがあります。このあつらえたような広場、閉ざされた出入口、とくれば、次に出るのは……
『よくぞここまで来た。アストライトの王族と、その護衛よ』
おごそかな声が、上のほうから響いてきました。
一行が空を見上げると、バッサバッサと大きなはばたき音とともに、一体の大きな魔法生物が舞いおりてきました。
エミルとシロン、アルティナは息をのみます。
現れたそれは、ライオンの顔に鳥の翼、ヘビのようなしっぽを生やした、いわゆるオーソドックスな合成獣のような見た目をしていました。
全体の色は白色で、それはまるで、ここまで遭遇してきた魔法生物たちが合体したような感じです。
『我は【アストロキメラ】。この先を通りたければ、一戦交えてもらおう』
そう、次に出るのは……こちらの行く手をはばむ、番人です。
対峙するアストロキメラの放つ威圧感を、全身でびしびし感じながらも……
「いいじゃん。やっと試練らしくなってきたんじゃない?」
エイルは楽しそうににししっと笑いながら、腰の剣に手をかけるのでした。
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