第41話 誰がために振るう力
火星のカリンガは、王都の下町を拠点に活動していた魔法つかいでした。
戦闘の腕はたしかなのですが、そのあまりに好戦的すぎる性格から、まわりの人間や魔法生物からは恐れられ、一匹オオカミとして生きてきました。
しかし、似たような話はどこにでもあるもの。類は友を呼ぶというべきか、彼女のまわりにはいつしか、自分と同じような境遇の魔法つかいたちが集まってきました。
腹を決めたカリンガはそんな彼らをまとめあげ、戦闘専門魔法つかいギルド"エレメタル"を結成。いくつもの討伐依頼をこなし、王都じゅうにその名を轟かせていきます。
もっとも、性格に難のある人間が寄り合ってできたギルドです。依頼以外ではならず者の集まりとしてけむたがれている現状は変わりませんでした。
そこでカリンガは考えました。ひとつドデカイ討伐依頼を達成して、王都の連中に一泡吹かせてやろうと。だれもが悪口なんて言える余地がなくなるほど、自分たちを英雄とほめたたえるしかできないようにしてやろうと。
そしてギルドメンバー数十名総出で、極星魔法つかいすら手を焼くといわれる、火山に巣くう【エルダーレッドドラゴン】退治にのぞんだのですが……
結果は惨敗。メンバーはほとんど全滅し、生き残ったのはリーダーのカリンガと三名の幹部だけ。しかし彼女たちもまた致命傷を受けており、もはや風前の灯火といった状態でした。
(ちくしょう……このまま何者にもなれねえまま……終わりたくねえ……!)
生き残りの四人の思いが一致したとき、それに応えるように、奇跡が起こりました。
目の前に、宙に浮かぶ赤い髪の女性が現れたのです。四人の目には、その存在が女神のように映りました。
その威光には、暴れくるっていたレッドドラゴンでさえ、急におとなしくなってしまうほど。
まさに、女神の奇跡……死にかけていた四人は、生き返ったように目を見張りました。
ですが、奇跡はそれで終わりませんでした。
女神のような女性は、血の海の上で倒れ伏す四人に向かって、告げたのです。
「お前たちの生への執着、気に入った。私の手足となれ。さすれば、新たな命を与えてやろう」
断る理由はありませんでした。
四人は女神の啓示を二つ返事で受け入れ、その胸に赤い逆星の紋章を刻まれます。
女神の正体こそ、いま王都を震撼させている凶星の魔女。
逆星の紋章こそ、エレメタルの新たな命にして、二度目の敗北を許さぬ死の呪いだったのです。
☆ ☆ ☆
「フッ……まさか、二度も死の淵から生かされるハメになるたあな……!」
まだ体が動かないカリンガは、地面にはいつくばってこぶしをにぎりしめ、くやし笑いを浮かべました。
「マリンから聞いたよ。あなたたちの呪いは、生命力が一定のラインを下回ると発動する条件式のものだって。わたしにかけられたのは、スーリムの意志ひとつで発動する起動式だったみたいだけど」
カリンガのもとに歩み寄ってきたエミルは、すこし苦しげな顔で自分の左胸をおさえました。
クラウスの呪術凍結で動きを止めてはいますが、呪い自体はエミルの中でまだ生きているのです。なにかの拍子で再発してもおかしくない状態……その恐怖が、エミルの心をわずかにしめつけているのです。
「あなたの身柄を拘束します。王都にて正当な裁きを受けるのですね」
アルティナがきびしい声で、場をしめくくるように告げました。
「ハッ……! 偽善者どもが! テメエらの言いなりになんざ、なってたまるかよ!」
カリンガがニヤリと笑うと、次の瞬間……
ボウッ!
「きゃっ!?」
その全身が発火し、エミルとアルティナはびっくりして身をよじりました。
どうやら、最後の魔法で自分の体を燃やして、みずから命を絶つつもりのようです。
……が!
ドスッ!
「が……!」
カリンガの背中に、光の剣が突き刺さり、全身の炎は鎮火してしまいました。
『好きにさせないというのは、こちらのセリフです』
見ると、エクシリアが右手をかざして立っていました。
この光の剣は、彼女の魔法によるもの。体を傷つけることなく、動きと魔法だけを封じるものです。
「じゃ、これも没収ね」
エイルは身をかがめて、カリンガの右手にはまっていた指輪を取り上げました。
これで彼女は、もう魔術を使うことができません。魔法つかいは、パートナーの魔法生物がいなければ、なにもできないのですから。
「クソがッ……!」
カリンガは怒りの形相でエイルを見上げました。
ただ負けてくやしいというだけではありません。勇名をもとめ、でも得られないままギルドを壊滅させてしまった自分とちがい……極星魔法つかいとして、自分のほしかったものすべてをかっさらっていったエイルが、うらめしくて、憎くて、ねたましくてたまらないのです。
「俺とオマエ……いったいなにがちがうってんだ……!」
カリンガは涙を浮かべながら、エイルに問うようにつぶやきました。
自分もエイルも、戦うことしか能のない人間のはず。なのになぜ、こんなにも立場に差ができてしまったのか、せめて、それだけは知りたかったのでしょう。
するとエミルは、両手でエイルの右手をぎゅっとにぎって、かわりにこたえます。
「それは……だれかのための戦いをしなかったから、じゃないかな」
カリンガはハッとしました。
たしかに、自分がいままでにしてきた戦いは、すべて自分のため。でも、レッドドラゴン討伐に挑んだのは、けむたがられていたギルドの仲間たちのためだった……そのつもりでした、さっきまでは。
しかし、結局それを果たせなかったのは……その理由があくまで自分たちの名誉のためだったからなのでは、目的を最後までつらぬき通すための、ぜったいに負けられない理由として弱かったからではなのでは……エミルの言葉でそう思えたのです。
勝算がない戦いとわかっていながら、それをしないという選択もできたはずです。でもそうしなかったのは、承認欲求のあまり目がくもってしまっていたからにほかなりません。
けれど、エイルはちがいます。彼女もまた自分の欲望に忠実で、いつも自由奔放にふるまっているように見えますが、世のため人のため、そして最愛の妹のために力を振るうことを惜しみません。できないことはできないと判断もできる、それをエミルはとてもよく知っているのです。
それに、エイルは自分の名誉なんてこれっぽっちも興味がないのです。極星魔法つかいの称号を受け取ったのだって、故郷に残したエミルをよろこばせたいから、ただそれだけだったわけですし。
すべてのおこないは最終的に、自分のためということにいきつきます。でもそのなかに、だれかを助けたい、だれかのためにがんばりたい、という思いがあったかどうか、それが二人の明暗を分けたのではないかと、ずっと姉を見続けていたエミルは思ったのでした。
そしてカリンガも、それが理解できないほど人間ができていないわけではありませんでした。
だからこそ、くやしくてくやしくて、ただ涙を流すしかなかったのです。
「……罪をつぐなって、やり直してください。あなたはまだ、生きているのですから」
手をさしのべるような、アルティナのいつくしみの言葉。カリンガは目を閉じ、これ以上なにも言いませんでした。
こうしてお姫さまご一行は、凶星の魔女の刺客をすべてしりぞけたのです。
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