第4話 護衛任務
「お……お待ちください、お父さま!」
真っ先に口を開いたのは、護衛対象のアルティナでした。
「なんだ、不服か? 史上最年少マスターウィザードとその妹が護衛につくのだぞ。歳も近いし、これ以上の適任はあるまい」
「ええ、不服ですっ!」
ハッキリと言い切られて、エミルとシロンはガーン! となりました。エイルはあいかわらず、どうでもよさそうにしています。
「王族の試練など、私一人でたやすく達成してみせるので、護衛など不要と前々から言っておりましたでしょう!」
アルティナは立ち上がり、バッと白いマントをひろげて言い返しました。
すると王様は、にいっと意地悪そうな笑みを浮かべて、さらに言い返します。
「ほう、言うではないか。ついさっき【フルメタルアルマザウルス】に手も足も出なかったくせに」
「うっ……!」
アルティナは図星を突かれ、たじろぎました。
フルメタルアルマザウルスというのは、名前からして、さっき暴走していた鋼鉄の怪獣のことでしょう。ですが王様の言い方は、まるで実際に見ていたかのようです。エミルは、そのことが少し気になりました。
「おお、そうだ。そのことについて、お前たちに礼を言っておかねばな。あれは我が城で騎獣として使っているものでな。さらに希少な存在ゆえ、失うわけにはいかなかった。生かしたまま止めてくれたこと、感謝する」
「あ、ありがとうございます……」
エミルは、おずおずとしたようすでぺこりと頭を下げました。
ちなみに“騎獣”というのは、乗り物として使われる魔法生物を指す言葉です。
しかし、あれからまだ一時間も経っていないはずなのに、王様はずいぶん詳しく事情を知っています。本当に現場を見ていたのでしょうか。それとも、独自の情報網でも持っているのでしょうか。
「お前たちは、もともと依頼するつもりで呼んだのだが、その前に実力を確認できたのは怪我の功名といったところか。そういうわけなので、娘の護衛、よしなに頼むぞ」
「で、ですから、私は承認しておりません!」
アルティナはなおも反発しようとしますが――
「黙れ。私は王だ。王の命令は絶対。王族の娘でなくとも、誰もが知っている常識であるぞ」
「んむっ……!」
今度こそ完全に、アルティナは押し黙ってしまいました。
一瞬、エミルとシロンも、王様のひとことと表情から放たれる覇気に、ぞくりと身を震わせます。
一見するとどこか子どもっぽく見えますが、やはりこの人は国の頂点に立つ者――王様なのです。そう理解せずにはいられないほどの迫力がありました。
「ふあ~っ……。あのさあ、さっぱり話が見えないんだけど。護衛だとか試練だとか、まずはそこから説明しろよ」
しびれを切らしたエイルが、なんと王様の前で大あくびをかまし、あろうことかタメ口で話しかけました。
エミルとアルティナは、くるりと振り向き、キッと彼女をにらみつけます。
「はっはっはっは! あいかわらずだな、お前は! そうだな、まずはその説明をすべきだった!」
王様は豪快に笑い飛ばしました。
どうやらエイルの無礼な態度も気にしていないようですが、よい子はマネしてはいけませんよ。
「まず、王族の試練というのはだな、そのまんま、15歳を迎えた王族が受ける通過儀礼のようなものだ。王都の真北にある霊山に棲む聖獣から、王家を守るにふさわしい守護獣となる魔法生物のたまごを授かる。そうすることで、一人前の王族と認められる、というものだ」
「たまご……」
エミルは、指輪が四つはまった自分の右手を見つめて思い返しました。それぞれの指輪の宝石の中には、パートナー契約を結んだ魔法生物たちが収納されています。
エミルも村を旅立つ際、村長さんからせんべつとして、村の守り神の加護が宿るという魔法生物のたまごを受け取りました。
そこから孵ったのが【ソルフェニックス】のレッディであり、つい数日前の事件でも、絶体絶命のピンチを救ってくれたのです。
村長さんは「お前に合ったワンダーが生まれる」と教えてくれました。そして実際、その言葉どおりになりました。
ならば、その聖獣のたまごとやらからも、きっとアルティナを、ひいてはアストライト王国を大いに助けてくれる存在が生まれるのでしょう。
『しれんって、それだけ? カンタンじゃん』
エミルの肩の上で、ものものしい空気にきゅうくつそうにしていたシロンが、気だるげに口を開きます。
「こら、シロン!」
エミルは小声でタメ口をしかりますが、
「はっはっは。気にするな。神聖なドラゴン殿に礼儀を説くほど、そこまで私は尊大じゃない」
王様はまた豪快に笑い飛ばし、どこか皮肉っぽい言い方で許すのでした。
「もちろん、簡単に終わったりはせん。その前にクリアせねばならない、三つの試練というものがある」
王様はニヤリと笑いながら、ぴっと三本の指を突きつけました。
「三つの試練……?」
エミルは首をかしげます。
「申し訳ないが、私の口からそれ以上の内容を話すことはできんのだ。ネタバレNGというやつだな」
言い方は軽いですが、要するにオキテかなにかで教えてはいけないことになっているのでしょう。なにしろ詳細を知ってしまえば、試練の意味がありませんから。
「と、まあ、その護衛をお前たちに任せたい、ということだ。どうだ、頼めるか?」
「オッケー、わかった。楽勝、まかせろ」
エイルはぴかっとした笑顔で、二つ返事に請け負いました。
エミルは、そんな姉の態度にやれやれと苦笑いを浮かべながらも、無言で同調します。いちおう、要人の護衛は一度だけですが経験がありますので。
同時に、エイルと再会してからはじめての大冒険の予感に、わくわくもしていました。
いっぽうで、当のアルティナは、わなわなとこぶしを震わせたあと、しぶしぶといったようすで――
「……では、私はさっそく試練へおもむく準備をしますので、これにて失礼させていただきます!」
不機嫌そうに言い捨てると、きびすを返し、つかつかと謁見の間から出ていってしまいました。
エミルとシロンは、ぽかんとあっけにとられたまま、静かにその背中を見送るのでした。
「……すまんな。娘があのような態度で」
王様は、ふうとため息をつきます。
そのようすを見て、エミルはなんだか故郷のお父さんのことを思い出しました。
お父さんも、エイルの奔放さには手を焼かされていて、いつもあんな顔をしていましたから。
「あの……どうしてアルティナ様は、あそこまで護衛を拒絶なさるのでしょう?」
そろそろ雰囲気にも慣れてきたエミルは、気になったことをためらわずにたずねました。
王都を歩きながら話をしていて、アルティナの人となりはなんとなく理解できたつもりです。
彼女はまじめでおかたい印象はありますけれど、やさしさとあたたかさも感じられました。あんなふうに感情をあらわにして反発するような人だとは、とても思えなかったからです。
「……あいつはストイックだからな。おおかた、自分の試練に護衛がつくこと、他者の手を借りること自体が気に食わんのだろう。そなたのようなかけだしの小娘なら、なおさらだ」
そのかけだしの小娘を護衛に指名したのはあなたじゃないか、とエミルは心の中でムカッとしました。
でも、それと同時に、王様の言葉にはなにか含みがあるとも感じられました。まるで、なにかを隠しているような……
「そうは言っても、試練自体は実際、アルティナ一人でも攻略できなくはないだろう。親バカと言われるかもしれんが、あの子には確かな能力があるからな。だが、問題は……そこではないのだ」
今まで冗談まじりに語っていた王様の口調が、急に真剣さを帯びてきたので、エミルとシロン、それにエイルまでもが表情を引き締めました。
「“凶星の魔女”……お前たちは、その名を聞いたことはあるか?」
暗く冷たい王様の声が、白くあかるい謁見の間に、ゆっくりと影を落としていきます……
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