第39話 三つの試練を終えて
「……見つけました」
スタート地点の浮き島を探索していたアルティナは、目的の四葉のクローバーを見つけました。
『やったー!』
シロンはおおよろこび。空中でぐいーんと宙返りします。
「やっぱり……なんてことないクローバーに見えますね……」
エミルは、アルティナの手の中のクローバーをじーっと見つめながら言いました。
「ええ。きっと"何を見つけるか"は重要ではなかったのです。このクローバーも、自然に生えていたのではなく、あきらかにあとから植えられていたものでしたし」
「『え、そうなの?』」
エイルとシロンは目を丸くしました。
「だって彼は、"四葉のクローバーを見つければ試練達成"とは言っていませんでしたから。……そうですよね? ソラビトさん」
アルティナは、倒れている巨大鳥のほうを振り向いて言いました。
『ソラビト?? あれは、おっきいとりでしょ?』
シロンはなに言ってるんだコイツ、と言いたげにいぶかしみます。
しかし、次の瞬間。
なんと、緑色の巨大鳥の体が、みるみる縮んでいくではありませんか。
それはやがて、成人男性と同じくらいの大きさの鳥人間の姿に変わっていきます。
『ちっちゃくなっちゃった!?』
シロンはびっくりしますが、問題はそこではありませんでした。
その鳥人間は、試練のルールを説明してくれた、ソラビトその人だったのです。
『……実にみごとな手前だったよ。戦いも、試練もね』
ソラビトはポリポリと頭をかきながら、むくりと起き上がりました。
よろめいてはいますが、絶命二、三歩手前くらいのダメージをあたえたはずにもかかわらず、元気そうに見えます。見た目こそ大きくちがいますが、ウオビト並みのタフさだと、エミルは思いました。
『君は僕らのもとめる、大空のごとく澄んだ心をもって、真実を手に入れた。その証をその身に刻むがいい』
ソラビトが人差し指を向けると、アルティナの右手の甲に、緑のうずまく風の紋章が浮かび上がりました。
「これで……三つの証がそろいましたね」
エミルは息をのみました。
ほんとうなら、飛びあがってよろこびたいところなのですけれど、スノーベルの裏切りのこともあって、とてもそんな気持ちにはなれません。
『もうお気づきのことだと思うが、この試練達成の条件はクローバーを見つけることじゃない。君たちが身内の裏切り者を見つけ出し、どんな審判を下すのかを試すためのものだった。僕らは君たちの心を見透かせる。君たちがあの雪の妖精にわずかな疑念を抱いていたこと、雪の妖精が実際に敵の内通者であることに気づいて、このような形にさせてもらった』
ソラビトのタネあかしを、一行はだまって聞いていました。
それぞれの心の中にうずまく感情……いまはとても言葉にできるものではないからです。
『そして君たちは裏切り者を思ったより早く見つけ出し、私情にとらわれることなく、たもとを分かつ決断をした……だが本当のことを言うと、僕が感銘を受けたのは、その直前のことだったけどね』
「それは、どういうことですか?」
アルティナがたずねました。
『君が彼女に疑念を抱いていたにもかかわらず、彼女と力を合わせる選択をしたことさ』
「……!」
アルティナは、ハッとしました。
たしかに、自分とスノーベルはおたがいにモヤモヤした気持ちをかかえていたにもかかわらず、巨大鳥に確実にとどめをさせるだけの一撃をくりだせたのです。なんだったら、いままででいちばん威力が出せていたかもしれないと、開いた右手を見つめながら思い返していました。
ソラビトは、バツが悪そうに頭をポリポリかきながら続けます。
『正直、あの戦いの中で、君たちの最後の一撃がいちばん効いたよ。迷いがなく、広く、よどみない心がはっきり感じられる魔術だった。それひとつとっても、まちがいなく君たちはベストパートナーだったよ』
そのひとことを聞いて、アルティナは思わず口を覆いました。
アルティナは、たしかにスノーベルから裏切りにあいました。けれど、ふたりのあいだには、たしかな絆もちゃんと存在していたのです。それは、同行者である姉妹たちも感じていました。
『地上の事情は、僕らのあずかり知るところじゃない。だが、その大空の証を刻んだ君は、もう僕らの盟友だ。困ったときには、いつでも力になるよ。それではね』
ソラビトはさわやかに言うと、うずまく風とともに姿を消しました。
同時に、その場に光の柱が立ちのぼります。これはきっと、地上に戻るためのものでしょう。この中に入ると、地上に瞬間移動するというしくみです。
「……さあ! これで三つの証は揃いました! いよいよ次が、最後の試練ですよ!」
アルティナは姉妹に振り返り、はりきってこぶしをにぎりしめました。りりしく見えるその表情には、あきらかな強がりが感じられます。
けれど、姉妹とパートナーたちは、そのことにふれたりはしませんでした。無理をおしてでも試練を達成しようとする彼女の覚悟も感じられましたし、そんな彼女をなにがあっても自分たちが支え守ると、こちらも覚悟を決めているからです。いまさら水を差すようなことを言うのは、ヤボというものです。
「……あれ? 試練って三つでおしまいじゃなかったっけ?」
……なのに、エイルお姉ちゃんがそんなすっとぼけたことをいうので、全員ずっこけました。
「……あのねえ! 最初に言ったじゃないですか! 三つの試練のあとで、聖獣の住む霊山に行かねばならない、って!」
アルティナはぷんすかどなり散らしました。いろいろフラストレーションがたまっていたのでしょう。それが一気に爆発した感じです。
「あー、そうだったね。忘れてたや。でもさ、あとはもう聖獣のたまごもらうだけなんでしょ?」
「そんなわけないではないですか。霊山――"アストラ山"もりっぱな大聖域なのです。これまでの試練とはくらべものにならない、大試練が待っているのですよ」
『うへー、そりゃタイヘン!』
シロンはうんざりしたように、べーっと舌を出しました。
「だいじょうぶです。いまのアルティナ様なら、きっと攻略できますよ」
エミルははげましの言葉をかけました。けっして気休めではありません。いままでの試練でのアルティナの活躍ぶりを見て、心の底からそう思っているのです。それに……
「うん。私たちがいるもんね」
極星魔法つかい――この国でいちばんの魔法つかいの一人であるエイルもそう言っています。
最愛のパートナーが欠けたといっても、しくじる要素はなにひとつない、アルティナはふしぎと、そう感じていました。
「……そうですね。私の護衛、最後までよろしくおねがいします」
アルティナは姉妹たちに、いつくしむようなほほえみを浮かべました。
すると姉妹たちは、そろってにま~っとした笑顔を返します。
「ど、どうしたのですか?」
「お姫さま、いま私たちのこと……」
「ええ、はっきり"護衛"って言ってくれましたよね! "同行者"とか、"表面上"じゃなくて!」
そうです。アルティナはこれまで、かたくなに試練の護衛をこばんできました。姉妹の立場もあくまで、"同行者"ということだったのです。
それが姉妹といっしょに行動しているうちに、だんだんと心の距離は縮まっていき、ついにはそのかたくなな思いをへし折るところまでたどりついたのでした。
アルティナは一瞬あきれたような顔になると、ひとつせき払いをします。
「……そう、ですね。ただいまをもって、あなたたちを正式な私の護衛として認めます。……エイル、エミル、そしてパートナーたち、あらためてどうぞ、よろしくおねがいいたします」
そしてぐっと左胸の前にこぶしを当てて、勇ましく宣言するのでした。
その姿はまさに、気高き王女そのもの。姉妹とシロンも同じポーズを取って、彼女を守り抜くと誓いを立てるのでした。
失ったものは大きいけれど、得たものはそれ以上に大きい。
それはきっと、失ったものを取り戻す力となる――アルティナはそう信じて、仲間たちとともに地上へ帰還するのでした。
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