第37話 見抜いた真実
「《ラピッド・ファイアボール》!」
エミルは杖を振って、魔術を唱えました。
パートナーの【ダークエルフプリンセス】――シルヴィアはひろげた両手にそれぞれ魔法陣を展開し、そこから無数の火の玉が連射されます。
『キキイッ!?』
それらは、緑の巨大鳥の顔面に全弾命中。一発一発の威力も高く、有効なダメージが与えられたようです。
(すごい……)
アルティナは、またも驚嘆しました。
伝説に聞くエルフの高い魔法技術はもちろん、そんな存在とみごとな絆を結べているエミルにも。
彼女たちには、出会ってからいつも驚かされっぱなしですが、いつまでもそうしてはいられないと、アルティナは剣をにぎる力を強めます。
王族の試練を達成し、凶星の魔女を打ち倒すために、私も負けてはいられない!
強い意思をこめて、剣を振るいました!
「《ラピッド・アイスニードル》!」
魔術を唱えると、今度はスノーベルが両手の魔法陣から、無数のとがった氷を発射します。
それらはまたも、巨大鳥の顔面に命中しますが……
『ケエエエッ!』
たいしたダメージにはならず、ただ相手を怒らせるだけに終わってしまいました。
「そんな……!」
アルティナはショックを受けました。
が、すぐに思い当たります。攻撃が効かなかった理由が、自分がエミルに劣っているからというわけではないということに。
『う……』
そう、スノーベルとの心の連携が取れていないからです。
巨大鳥と遭遇する直前のやりとりで、自分と彼女の信頼はゆらぎ、絆が弱まっていたからです。
この状態では、武装魔術による氷の剣も作れないでしょう。まともに戦えないいまのままでは、姉妹の足手まといでしかありません。
『ケエエエッ!』
そんなことはおかまいなしとばかりに、巨大鳥は大きく羽ばたいて、強風を起こしてきました。
まともに受ければふっとばされて、この小さな浮き島から落っこちてしまうでしょう。ここは高い高い空の上、そうなればまちがいなく命はありません。
『なんだか、【ツカミドリ】との戦いを思い出しますね!』
シルヴィアは過去をなつかしみながら、美しい顔に不敵なほほえみを浮かべました。
以前エミルたちは、旅の途中さらわれたシロンを助け出すため、【ツカミドリ】という種の大型の鳥と戦ったことがあるのです。
それはエミルとシルヴィアが、はじめて力を合わせて戦った強敵であり、シルヴィアにとってはちょっぴり恥ずかしい思い出であると同時に、忘れられない大切な思い出のひとつとなっていました。
「今度は泣き言はなしだよ。相手はあのときより、ずっと大きいんだからね!」
『もちろんです!』
エミルは右手の杖を、シルヴィアは両手を真上に向かって突き出しました。
「《ワイド・ウインドバリア》!」
エミルが魔術を唱えると、シルヴィアの両手から、緑色の風のバリアがひろがっていきます。
「この魔術は……」
アルティナはハッと気がつきました。
これはイシビトの試練で、【ネンドーレム】の攻撃から自分のことをこっそり守ってくれた、見えない壁と同質のものです。あのときの魔術は、シルヴィアによるものだったとわかったのです。
しかし、今回はそのときと威力が段ちがい。こうしてはっきりと、チカラが肉眼ではっきり見えるほどなのですから。
ドフォーーーン……!
シルヴィアの風のバリアは巨大鳥の強風を受け止め、みごと打ち消し合うことに成功するのでした。
「いいよシルヴィア! いまだ!」
『はいっ!』
エミルにほめられて、シルヴィアは顔をほころばせました。
風のバリアを解除して、そのまま鍛えられた脚で大地を踏みしめ、大ジャンプ!
エイルもそれに続き、強化された脚力で高く跳び上がりました。
シルヴィアのしなやかな褐色の脚に炎が、エイルの輝かしい黄金の大剣に光が集まっていきます。
ふたりは空中で体をひねり、それぞれの武器を巨大鳥の腹部に叩きこみました!
「『《エレガント・フランシュート》!』」
ドゴォーーーン!
美しい炎のキックと豪快な剣の一振りがクロスして、巨大鳥に絶大なダメージを与えました。
そしてシルヴィアは優雅に、エイルはかっこよく着地。意識を切らさず、上空の相手を見すえます。
『ケケ……』
巨大鳥は空中でよろめいているものの、そのギョロっとした目の光は消えていません。やはり体が巨大なぶん、タフなようです。
「あとひと押しで勝てるよ、がんばって!」
『はいっ!』
エミルの応援で、シルヴィアは紺色のハイヒールでとんとんと地面を踏み鳴らし、気合じゅうぶん。
エイルもぶんぶんと剣を素振りして、次の一撃のために意識を集中しているようでした。
「く……!」
アルティナは、姉妹の戦いに見とれながらも、くやしげに歯をかみしめていました。
戦いの輪に入っていけない自分自身を、もどかしく感じているのです。
このままだまって見ていても、姉妹だけで巨大鳥に勝ってしまうでしょう。
しかし、これはそもそも自分に課された試練であり、さらに王女として、このまま指をくわえていていいわけがない、そう思っているのです。
「ベル……大地の試練のときのように、もう一度、力を貸してくれませんか?」
『……』
スノーベルはそっぽを向いて、答えてはくれません。
それでもアルティナは、めげずにおねがいを続けます。
「あなたを疑うような物言いをしてしまったことは、もうしわけなく思っています。――けれど」
アルティナはいったん呼吸をととのえ、凛とした顔つきで言いました。
「――あなたには王族の、私のパートナーとして、恥じない働きをしていただきたいのです」
スノーベルは、びくっとしました。
アルティナの目から、言葉から放たれる覇気に気圧されたのです。その威風堂々さは、まさに王族と呼ぶにふさわしいものでした。
同時に、思い出します。彼女の言う通り、自分はアストライト王国第一王女――アルティナ・フォン・アストライトのパートナーであることを。またそれを誇りに思い、きょうまでやってきたことを。
そんな自分が、小さないさかいで与えられた使命をおろそかにし、チカラを発揮できないなんて、あってはならないことです。
『……ええ、そうね。ごめんなさい。……今度は私から言うわ。私に、力を貸してちょうだい』
「……ええ!」
アルティナとスノーベルはもう一度手を取り合います。
武装魔術発動――アルティナの剣とスノーベルが合体し、氷の剣となりました。
さて、彼女たちがそうこうしているあいだに、戦いはクライマックスをむかえていました。
スターリング姉妹の猛攻によって、さすがの巨大鳥も虫の息です。全身切り傷と焦げあとでボロボロ、いつ墜落してもおかしくはありません。
「いきますよ、ベル!」
『ええ!』
そこに、アルティナが大ジャンプ。高度を落とした巨大鳥の頭上を取りました。氷の剣を高く振り上げ、刀身にさらにするどい氷が張っていきます。
そして――氷の大剣と化した武器を、おもいっきり振り下ろしました!
「《グレイシャルブレード》!」
ドシャアーーーン!
巨大鳥の脳天を直撃。ついに耐えきれなくなり、その巨体は地上に墜落しました。
ズズーンという重い音と地響きが起こり、遅れてアルティナがスタッと着地しました。
「ったく、おいしいところだけ、持ってくなよな」
エイルが黄金の大剣を肩に乗せて、にかっと笑いました。
「それは、すみませんでした」
アルティナは氷の剣を地面に突き立て、クールなほほえみを返します。
エミルはぱちぱちと拍手をしましたが、シルヴィアはどこかふきげんそう。エミルの前でかっこよく決められなかったことが不満みたいです。
「ベル……」
アルティナは消え入りそうな声でスノーベルの名前をつぶやき、合体剣を解除しました。
『アルティナ……』
ふたりは神妙な面持ちで見つめ合います。エミルとシルヴィア、エクシリアはもちろん、能天気なエイルとシロンでさえ、とても口をはさめる雰囲気ではありませんでした。
そして次の瞬間、アルティナは衝撃的なひとことを放ったのです。
「……いまの連携で、はっきりしました。ベル……あなたが、凶星の魔女の"目"だったのですね」
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