第36話 スノーベルへの疑念
ずっと明けたままの夜が明けて、朝ごはんをすませたお姫さまご一行は、四葉のクローバー探しを再開しました。
「ふああっ……」
けれど、みんな眠たそうです。ソラビトの園がずっとあかるい青空のままなので、うまく寝つけなかったのでしょう。
何日もこんな生活を続けていては、体が本格的におかしくなってしまいそうです。なので、さっさと試練をすませようと、やる気だけはじゅうぶんでした。
「じゃあ、次の浮き島に行こうか! 次は七つ目だし、見つかりそうだよ!」
そんななかでも、ただひとり元気いっぱいなエイルは、はりきって言いました。
七はラッキーセブン、四葉のクローバーは幸運の象徴。その相性に期待しているようです。
「次は五つ目ですよ。忘れないでください」
しかしアルティナの容赦のないツッコミが入り、エイルはすっかり消沈してしまうのでした。
「ちょっと待って」
すると、エミルがみんなを呼び止めました。
「なあに?」
まっさきにエイルが反応します。
「アルティナ様、いったん最初の島まで戻りませんか?」
「えっ?」
エミルからの意外な提案に、アルティナとエイルは目を丸くしました。
『ちょっと! 最初の島なら、私がくまなく探したわよ! 妖精が植物探しが得意だってことくらい、あなたも知ってるでしょ!』
きのう最初の島にひとり残っていた、雪の妖精スノーベルが抗議しました。
自分の仕事ぶりを疑われているのかと思って、腹を立てているようです。
「理由を説明してください、エミルさん。もしや……ベルの言うことが信用できないというのですか?」
アルティナも、エミルのことは信頼していますが、さすがにパートナーのことを疑われるのは見過ごせないようです。ほんのすこし、表情がけわしくなっていました。
「……」
エミルはなにも言い返しません。けれど、その青いまなざしには、これまでにない真剣さが感じられます。アルティナも気圧されて、これ以上の追求ができないほど。
「いいじゃん。ちょっと寄り道するぐらいさ」
エイルは頭の後ろで手を組んで、妹の意見を後押ししました。エイルはいつだって、エミルの味方ですから。
しかし今回、姉妹はあくまで王女アルティナの護衛。行動の決定権はすべて、彼女にあるのです。
『アルティナ、まさかこの子たちの言うこと、聞くわけじゃないわよね? 戻る必要なんてないわよ。時間のムダ! 早く試練をすませたいんでしょ?』
スノーベルは不安そうな表情でパートナーの顔をのぞきこみます。
アルティナは、考えていました。
たしかに、エミルがスノーベルの言うことを疑っているのはがまんなりません。けれど、スターリング姉妹が、パートナーとの信頼関係というものをわかっていないはずがありません。ふたりがパートナーたちと強い絆で結ばれていることは、見てきましたから。
そんな彼女たちが、わざわざスノーベルへの信頼を揺るがすようなことを言っているのなら、なにか考えがあるのではないか、ということもわかるのです。
それになにより……アルティナ自身も、きのうから……いえエミルがさらわれた二日前、あるいはその前からずっと、心に引っかかっていることがありました。エミルもそれに気づいているからこそ、こんな提案をしたのではないか……そう思ったアルティナは、表情を引きしめ、結論を出しました。
「……わかりました。いったん、最初の島に戻ってみましょう」
『アルティナ!?』
スノーベルは、信じられないという顔をします。
パートナーである自分の言葉より、出会ってわずか数日の、たかが同行者であるスターリング姉妹の言葉を信じるというのです。それはさっきアルティナが思っていた以上に、がまんならないことでした。
「ベル。私はあなたが植物探しが得意なのは知っています。でも、これが試練であると考えると、見落としはなくても、もう一度同じ場所を探すことで、新たな発見があるかもしれません。島はまだまだたくさんありますし、エイルさんの言う通り、ちょっと寄り道するぐらいなら、許容範囲といえます。ここは、エミルさんの言う通りにしてみましょう」
アルティナは、そうスノーベルをさとしました。
スノーベルはうつむいてこぶしをにぎり、しばらくわなわなとしていましたが……
『……ふんだ! なら、好きにすればっ!』
ぷいっとそっぽを向いて、そう言い捨てるのでした。
こうしてお姫さまご一行は、エミルの提案通り、スタート地点の浮き島まで飛んで戻ることになりました。
☆ ☆ ☆
最初の浮き島は、あいかわらず七色の花々でいろどられていました。
このあたりは徘徊している魔法生物もいませんし、襲われる心配もありません。
「じゃあ、どこから探そうか?」
エイルがみんなにたずねました。
『ふん! どうせムダだろうけどね!』
スノーベルはまだスネているようです。
「ムダじゃないよ。私の考えが正しければ、きっとすぐに見つかるはず」
エミルは自信ありげに言いました。
『なんですって!?』
「どういうことですか!?」
これにはスノーベルも食ってかかり、アルティナも食いついてきました。
エミルはそんなふたりを右手で制して、続けます。
「これ以上は、わたしからは言えません。これは、アルティナ様の試練ですから」
「む……」
アルティナはたじろいで、口を引き結びました。
『アルティナ! もうこんな子の言うことなんて、ほっときましょうよ! なんだったら、クビにしちゃってもいいわ!』
スノーベルはここぞとばかりにはやしたてます。
『なんかスノーベルって、さっきからこのしまをしらべてほしくないみたい』
そのとき、半目のシロンのするどい指摘が飛びました。
『なっ……そ、そんなことあるわけないじゃない!?』
それはみごと、スノーベルの図星を突いたようです。
「ベル……どういうこと?」
アルティナは、ショックを受けたようすでパートナーを問いただしました。
『わっ……私はただ……』
スノーベルがしどろもどろになった、そのときです。
バッサ、バッサ、バッサ……
大きな羽ばたきの音とともに、あたりがきゅうに暗くなっていきました。
「まさか、いまさら夜が来たの!?」
「ちがうよエミル、あれは……」
『うひゃあ!』
姉妹とシロンが思わず真上を見上げると、そこにはなんと、巨大な鳥の姿が。
つねに青空のはずのこの庭園がきゅうに暗くなった原因は、あの鳥が地上に影を落としていたからだったのです。
『ケェーーーッ!』
緑色の巨大鳥は、カン高くやかましい鳴き声を響かせました。耳をふさがなければ、鼓膜がダメになってしまいそうです。
「でかいな! ヌシのおでましか!」
エイルは不敵にニヤリと笑うと、腰の二本の剣を引き抜きました。"巨獣狩りの剣星"の二つ名にふさわしい大物に、魂がたぎっているようです。
『アルティナ、私は……』
「話はあとで! いまは協力して、あの鳥をしりぞけましょう!」
しょんぼりしていたスノーベルは、アルティナの叱咤で、ひとまず戦う決意を固めました。
「ああいうのが相手なら……今回はあなたにおねがいするね、シルヴィア!」
エミルは右手薬指の指輪から、ダークエルフの姫シルヴィアを呼び出しました。
あふれる光とともに、美しい銀髪と、紺色のセクシーな踊り子風衣装が風に舞います。
『はいっ! おまかせください!』
シルヴィアは褐色の頬を赤く染めて、力強くこたえました。エミルにたよりにされるのが、ほんとうにうれしそうです。
『ケエエッ!』
上空の巨大鳥は、眼下に一行をとらえると、急降下して襲いかかってきました!
ガキィーン!
大きなクチバシの一撃を、エイルが黄金の大剣で受け止めます。
その衝突を合図にアルティナとエミルたちは散開し、戦闘がはじまりました。
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