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ワンダフルリング! エイルとエミルのふしぎな冒険 王女の試練と凶星の魔女  作者: 稲葉トキオ


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第35話 夜のおとずれない青空の下で

『がおーっ!』


 四つ目の浮き島にて、向かってきた青い鳥人間(ソラビト)を。シロンの吐いた炎が焼きつくしました。


 まっくろこげになったソラビトはたまらず、しっぽを巻いて飛び去っていきます。


『もーっ! クローバーはみつからないし、ワンダーはブンブンうっとうしいし、もうイヤーッ!』


 こらえ性のないシロンは、勝利の余韻にひたるでもなく文句を叫びました。


 緑のソラビトが告げた通り、四葉のクローバーを探しているあいだじゅう、幾度となく聖域内の魔法生物(ワンダー)たちに襲われたのです。しかもどれもが飛行能力に長けていたため、すばしっこくてめんどくさいったらありませんでした。


「わがまま言わない。まだ探しはじめて三時間じゃない」


 エミルは杖をふところにしまいながら、なだめるように言いました。


 がまん強いエミルは、こんなことでカンタンに音をあげたりしないのです。


『"まだ"じゃなくて"もう"でしょ! シロンもう、おなかすいたー!』


 シロンは空中でじたばたしたあと、大の字になってドサッと地面の上に倒れ込むのでした。


「私もおなかすいたー!」


 続いてエイルもいっしょになって大の字に倒れ、わめきました。


 エイルはもの探しなら何時間だって続けられますが、腹時計がなによりも最優先なのでした。


 それはともかく、たしかにふたりの言う通り、そろそろ晩ごはんの時間です。この"ソラビトの園"はずっと青空のままなので、時間感覚がうまくつかめないのです。こういうときは、エイルお姉ちゃんの腹時計の正確さがたよりになります。


「そうですね。きょうはこのあたりで休憩にしましょうか」


 アルティナはくすくす笑いながら提案しました。


 エミルも賛成します。おなかがすいているのは、エミルも同じですから。


「みんなー! 晩ごはんにするよー! 戻ってきてー!」


 エミルは、手分けしてクローバーを探そうと、浮き島内に散らばっているパートナーたちに呼びかけました。


 それに応えて、シロン以外の四体のパートナー……【グレイトウルフ】のグレイ、【ソルフェニックス】のレッディ、【プルンディーネ】のマリン、そして……


『エミル様ーっ!』


 風に揺れる美しい銀色の長い髪、光に照らされる麗しき褐色の肌、太陽のようにあたたかなオレンジの瞳を持つ、【ダークエルフプリンセス】のシルヴィアが、エミルのもとへ駆け寄ってきました。


「わぷっ!」


 シルヴィアに思いっきり抱きつかれて、エミルは息を詰まらせました。


 シルヴィアは身長175センチとかなり背が高く、たくましさと女性的なやわらかさを両立しているスタイルも抜群。なのでエミルは、強い力で彼女の胸に顔をうずめられている形になっています。やわらかさと息苦しさの、天国と地獄を両方同時に味わっているのです。


 アルティナは、そんなシルヴィアの横顔に見とれていました。


 エルフといえば、人間とほぼ同じ見た目でありながら、知力体力にすぐれ、おまけに単体で魔法が使えると、すべてにおいて人間の上位互換といえる魔法生物(ワンダー)です。おまけに見目麗しい美貌の持ち主。


 それゆえにプライドも高く、自分たちよりはるかに力の劣る人間のパートナーになる例は、すべての魔法生物の中でも一、二を争うほど少ないといわれています。


 エミルから話に聞いていても、実際この目で見るまでは信じられませんでしたが、そんな存在までパートナーにしているエミルの魔法つかい(ウィザード)としての資質の高さに、さらに驚きを感じずにはいられないのでした。


「……ぷはっ! それで、進捗はどう?」


 エミルはシルヴィアの胸から抜け出して、たずねました。


『もうしわけありません。くまなく探したのですけれど、ここでも見つからず……』


 シルヴィアは、つり目がちなオレンジの瞳をうるませました。


 シルヴィアは、エミルのことがあまりに大好きなので、彼女の役に立てないと大げさに悲しむクセがあるのです。それと、かなりの泣き虫。


 もともと、とっても平和な森の聖域の中で、箱入り娘のように育てられていたためか、話に伝わるエルフたちよりずっと温和で、親しみやすいのですけれど……精神面がちょっぴりもろいのが玉にキズ、というのがエミルの評です。


「もう、泣かないの。ごはんのあとにまた"ごほうび"あげるから、元気出して!」


 エミルは苦笑いしながら、やさしくシルヴィアの涙をぬぐって、なぐさめてあげます。


 しかし、それはむしろ逆効果。シルヴィアは今度は感激の涙を流してしまい、またエミルに飛びつくのでした。


『この人、私より泣き虫かも……』


 新たに仲間になったマリンも、シルヴィアの涙もろさにおどろいているようでした。


『アルティナー!』


 そこに、最初の浮き島にひとり残っていた、雪の妖精スノーベルも合流してきました。彼女も晩ごはんの気配を感じ取ったのかもしれません。


「ベル、おかえりなさい。リフレッシュはできましたか?」


 アルティナは手をさしのべて、やさしくたずねました。


『ええ! もうすっかり元気よ! きれいなお花畑は、目の保養になってくれたわ!』


 スノーベルがくるくる飛び回りながら胸を張って言うと、アルティナとエミルは「たはは……」と苦笑い。


『でも、四葉のクローバーは見つからなかった……ごめんなさい』


 スノーベルはうってかわって、しゅんとしてしまいました。


「いいのよベル。私たちもまだ見つけられていませんから」


 アルティナは、そんなパートナーを責めたりはせず、そっと指で彼女の髪をなでてあげました。


 スノーベルはくすぐったそうに照れ笑いを浮かべます。その表情には、アルティナへの感謝と愛情が感じられました。


 ……けれど、その青い瞳にわずかな悲しみの色が混じっていたことを、はたしてどれだけの者が気づいたでしょうか。


「さー! みんなそろったところで、ごはんの準備だ!」


『おー!』


 くいしんぼうエイルとシロンが、勝手に音頭を取るのでした。さっきまで大の字になってぎゃーぎゃーわめいていたくせに、ほんとうに現金な姉妹です。


 その他のみんなはちょっぴりあきれながらも、夕食の準備に取りかかろうとします。


 そのとき。


『……』


 マリンが、スノーベルと楽しそうに話をするアルティナのほうを、じーっと見つめていました。


「どうしたの?」


 気になったエミルが、彼女の顔を見上げてたずねました。


『……あのコ、ちょっと気になるかも……』


「……?」


 エミルは首をかしげるのでした。



 ☆ ☆ ☆



「はー、食べた食べた!」


『シロンも、おなかいっぱ~い!』


 エイルとシロンはおなかをぽっこりさせて、草の上でまた大の字になるのでした。


「でも、なんだか、晩ごはんを食べたって気がしないなあ……」


 エミルはまわりを見渡しながら、ちょっぴり苦笑いしました。


 時刻は夜のはずなのですが、このソラビトの園はずっと青空のまま。


 エイルの腹時計はともかく、こちらの体内時計がくるってしまわないか心配になります。そのためにも、早く試練を達成したいところなのですが……


「じゃあシルヴィア、約束のごほうびをあげようか」


 エミルが言うと、そばに座るシルヴィアはハッとして、ふるふるとかぶりを振ります。


『いえ……きょうはけっこうです。なんというか、ムードが……』


 シルヴィアがそらした視線の先には、果てのない青空がひろがっていました。


「あはは……そうだね。じゃあ、試練が終わるまでおあずけにしようか」


『はい……』


 シルヴィアは照れ笑いを浮かべて、もじもじしました。


 ダークエルフの美人顔でそんなふうにされるのがあまりにかわいく感じられて、エミルの胸もほっこりします。


『そのためにも、早く四葉のクローバーを見つけましょうね!』


 はりきり顔になったシルヴィアは、こぶしをにぎって、むん! と気合を入れるのでした。


「うん、その意気だよ。あしたからもがんばろうね」


『はいっ!』


 エミルとシルヴィアは、そろって笑い合うのでした。


「あのふたり、ずいぶん仲がよろしいんですね……」


 そんなふたりのやりとりを、アルティナはぽーっとしたようすで見ていました。


 ちなみにスノーベルは、おなかいっぱいになると自分から指輪の中に戻っていきました。いまはぐっすり眠っていることでしょう。


『シルヴィアさんは、エミル(いもうと)さんのことが大好きですからね』


 そのとなりに座るエイルのパートナー、剣の精霊エクシリアが言いました。


「それは聞いています。なんでも、エミルさんが彼女の命と故郷の恩人なのだとか。それにしても、あのようすは、敬愛の範囲を超えているような……」


 アルティナがそう言っているまにも、シルヴィアはほっぺを赤く染めて、エミルと甘い空気を作っていました。


『……まあ、愛にはさまざまな形がある、ということですよ』


「はあ……」


 エクシリアとアルティナは遠くを見るような目でつぶやくのでした。


『おほしさまみえないの、つまんないねー』


「そーだねー」


 大の字になっているシロンとエイルは、のんきに空を見上げてつぶやきます。


『あの……エミルちゃん……』


 エミルがシルヴィアと甘い時間をすごしているところに、水の精霊マリンがもじもじしながら声をかけてきました。どうも、話をするタイミングがなかなかつかめなかったようです。


「なあに?」


 エミルとシルヴィアは、そろって彼女の顔を見上げます。


『ちょっと……話しておきたいことがあるんだけど……』


「……?」


 ずっと青空のふしぎな空間で、一行は思い思いの夜をすごすのでした……

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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