第34話 大空の試練
「ソラビト……あなたが?」
エミルは目をぱちくりさせました。
これまでの試練で出会った二つの種族……イシビトとウオビトはどちらも方向性はちがいますが、かなりユニークな外見でした。
しかしこのソラビトは、とくにこれといった特異なところのない、本で見たままのふつうの鳥人間です。
『僕がイシビトやウオビトみたいに、へんてこりんな見た目じゃないから、おどろいているのかな?』
「!」
エミルはさらにぎょっとします。ただ図星を突かれたからではありません。
正確に思っていたことを言い当てられて……まるで、心を直接のぞかれたような感じがしたからです。
『確かに僕らソラビトは外見的に特異なところはないけど、真実を見抜くのは得意なのさ。いまキミが、そう感じているようにね』
自他ともに認める特異のなさのソラビトは、とくいげに目くばせしました。
またエミルの考えていることを見抜かれたので、どうやら彼の言っていることは本当だと信じざるをえないようです。
『じゃあ、シロンのしんじつもみぬいてみてよ!』
対抗意識でも燃やしているのか、シロンがずいっと前に出てきました。
『僕らソラビトが、食べたらどんな味がするのかなんて、おそろしいことを考えてるだろう?』
『うっ……』
シロンは図星を突かれたように硬直します。
……よく見ると、口からよだれをたらしていたので、考えを見抜くまでもないような気がしますが。
食欲を向けられていたソラビト本人は特に気にしていなさそう。よっぽどカンタンに食べられたりしない自信があるようです。
「……あなたのチカラはたいへんよくわかりました。それでは、試練の案内をおねがいできますか?」
アルティナは、ものおじせず堂々と前に進み出ました。心をのぞかれる心がまえができているようです。
『ずいぶんあせっているようだね。そんなに"凶星の魔女"とやらが怖いのかい?』
ソラビトはそんなアルティナの考えまでも、あっさりと見抜いてみせます。
「隠してもムダでしょうから、正直に言います。怖いです。ですから、できるだけ早く試練を達成し、聖獣のたまごを手に入れたいのです。それがきっと凶星の魔女を打ち倒すことにつながると、信じているから!」
アルティナはそれでもなお気後れせず、キッパリと言い切りました。
そんな彼女のりりしい姿を見て、スターリング姉妹も誇らしそうにほほえみます。
ソラビトもまた目を閉じ、感心したようにフッとほほえみました。
『いいだろう。ではさっそく、"大空の試練"をはじめよう!』
そして、緑の翼をバサッとひろげて宣言しました。
アルティナとエミルは、表情をより引き締めて身がまえます。エイルとシロンは、お花畑を飛ぶちょうちょを追いかけていました。
『イシビトの"大地の試練"は、ゆるぎない強い心を、ウオビトの"大海の試練"は、あらゆるものを受け入れる広い心を試すものだった。僕たち、ソラビトの"大空の試練"では……すべてを見通す澄んだ心を試させてもらう』
「すべてを見通す……」
アルティナとエミルは、そろって息を飲みます。
『この聖域、"ソラビトの庭園"には、たった一枚だけ、四葉のクローバーが存在している。君たちの目標は、それを見つけることだ』
え、それだけ?
と、つい口に出してしまいそうなアルティナとエミルでしたが、すぐに考えをあらためました。
これまで二つの試練の難しさから考えると、そんなはずがあるわけありません。なにしろ、この聖域に関する伝承や情報はまったくなかったのですから。それはつまり、他二つの試練よりはるかに難易度が高いという証明でもあるのです。
『え、それだけ? らくしょーじゃん。このしま、そんなにひろくないもん! シロンがすぐにみつけちゃうんだから!』
ノーテンキなシロンは、思ったままのことを言うのでした。相棒のエミルは、たははと苦笑い。
けれど、たしかにこの空島は半径数十メートル程度の広さで、パートナーたちもふくめて手分けすれば四葉のクローバーなんて、すぐに見つかりそうです。
『ふふっ、それはどうかな?』
ソラビトが楽しそうに笑ってみせると……
「ええっ!?」
エミルたちはびっくり仰天。
なんと、彼の背後の空に、無数の浮き島が突然現れたではありませんか。
『急に現れたわけじゃない。見えなくなっていただけさ』
だ、そうです。
浮き島の数は大小さまざま、20や30ではききません。これだけの中からたった一枚の四葉のクローバーを見つけるなんて、砂漠の砂から砂金を見つけるぐらいに難しいかもしれません。
『う、うそ~ん……』
シロンは目をまんまるくして、へなへなとお花畑にしりもちをつきました。設定難易度の落差のショックで、体の力が抜けてしまったのです。
「なるほどね。おもしろくなってきたじゃん」
エイルは捕まえたちょうちょを放してあげながら、にっと不敵な笑みを浮かべました。
『もちろん、ただ探しものというだけなのはつまらない。道中は我々ソラビトや、この庭園に暮らす魔法生物たちが、君たちを妨害するだろう』
「なるほどね。おもしろくなってきたじゃん」
「それはさっき、言ったでしょう」
アルティナはエイルにツッコミを入れました。
『澄んだ心をもって偽りの中から真実を見つけ出し、それをあばくことができれば、試練の達成を認めよう。それでは、健闘を祈る!』
緑のソラビトは翼をひろげて空へと舞いあがり、いずこかへと消えていきました。きっとこれが、試練開始の合図なのだと、一行は理解しました。
「よーし! 探すぞー! 四葉なら百枚以上見つけたことあるし、私にまかせろ!」
エイルは自信マンマンに言ってのけました。
アルティナはさすがに誇張でしょうと思っていますが、そうではないことを実の妹のエミルだけは知っています。
『でも、どうやってほかのしまにわたるの?』
復活したシロンが首をかしげました。
「私にはペガサスがいますし、エミルさんにもフェニックスがいますよね?」
「ええ。レッディはまだ長く高くは飛べないけど、あれぐらいの距離ならいけるはずです」
目算ですが、点在する浮き島の間隔は大体二、三百メートル前後ほど。飛行に慣れていないレッディでも、じゅうぶん渡っていける長さでした。
「では、移動手段の心配はいりませんね。捜索方法についてですが……」
「バラバラの島で手分けするっていうのはなしですよ。わたしたちは、あなたの護衛なんですから」
エミルがずいっと顔を近づけてきます。
ソラビトや魔法生物たちの妨害があるということは、戦闘は避けられないということですから。ひとりで行動して、なにかあってはたいへんです。
「ふふっ、そうですね。では、島をひとつずつ、しらみつぶしに探すということで」
『えー? めんどくさーい!』
「じゃあシロンは、ここでおるすばんしてれば?」
『むー、それはもっとやだ!』
エミルはシロンをからかって楽しんでいました。
『あ、それなら……』
すると、アルティナの指輪から、雪の妖精スノーベルが姿をあらわしました。
「どうしたの、ベル?」
『私、しばらくここで休んでていい? 正直、ここ何日か戦いの連続で疲れちゃったし。……おもにウオビトの試練のせいで』
スノーベルは、うらみがましく目をそらしてぼやきました。
たしかに試練がはじまる少し前から、彼女たちは激しい戦いやきびしい状況の連続でした。かよわい小妖精のスノーベルにとっては、しんどいものだったのかもしれません。
『だから、そのぶん今回はリフレッシュしたいって思うのよ。こんなりっぱなお花畑、ひさしぶりだもんね。あ、ついでにひととおり休んだら、この島のクローバー探しは私がやっておくわ。そのあいだにアルティナたちだけで先に行ってて』
「え、さすがにそれは……」
『ワンダーたちの妨害にあっても、私ひとりならカンタンに逃げられるし。そのほうが効率的でしょ? だいじょうぶよ。用が済んだら、すぐに追いかけるから』
「そうですか? ……なら、そうしましょうか」
アルティナはすこし考えたあと、相棒の提案を承諾して、ひと足先に次の浮き島に渡ることにしました。
スノーベルはこれまで、自分のために力をつくしてくれました。いたわってあげるのは、パートナーとして当然のことだと思ったのです。
『ちょっとまって! ベルがいなかったら、おひめさまはたたかえないじゃん!』
シロンはハッと気づいて、わめきましたが、
「それはおもに、護衛のわたしたちの役目だから平気だよ。アルティナ様には、アイスペガサスだっているし」
エミルがそう言って納得させました。
というわけで、スノーベルはこのスタート地点にひとり残ることになり……
アルティナは【アイスペガサス】に、スターリング姉妹は【ソルフェニックス】のレッディの背に乗り、まずは一番近くの浮き島目指して、飛び立ちました。
『がんばってねー!』
「ベルも、ゆっくり休んでくださいねー!」
スノーベルとアルティナは元気に手を振り合って、しばしのお別れです。
『……さてと。まずはひとやすみ、ひとやすみ!』
一行を見送り、あたりに気配がないことを確認すると、スノーベルは大の字になってお花畑の上に寝っころがりました。
こうして、王族の試練、第三の試練がはじまったのです。
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