第22話 水中遺跡のお宝探し
「おったから♪ おったから♪」『どこだっ♪ どこだっ♪』
王族の試練、第二幕。ウオビトの居城である水中遺跡にて――
エイルとシロンは上機嫌で、ずんずん前に進んでいました。
「お姉ちゃん! シロ! あんまりふたりだけで先に行かないで! わたしたち、アルティナ様の護衛なんだよ! 忘れたの!?」
しっかり者のエミルは、そんなお姉さんと妹分を呼び止めます。
「あはは、そうだった。ごめんごめん」『ごめんごめん!』
エイルとシロンは素直に振り返ってくれました。自由奔放なふたりですけれど、かわいい妹や相棒の言うことなら、ちゃんと聞いてくれるのです。
「そうだった、じゃありませんよ。まったく……」
護衛対象のアルティナは、あきれたようにため息をつきました。
さてさて、この水中遺跡。なかなか入り組んだ迷宮になっています。
とても"居城"と呼べるような生活スペースではありません。ウオビトたちにとっては快適な生活環境なのでしょうか?
それとも、試練のためにウオビトたちが魔法であちこち作り変えたのでしょうか?
世界各地に存在する迷宮は、魔法生物たちの手によって、彼らが棲みやすいよう作られたものです。
ウオビトたちは、そのインパクトのある見た目ばかりが印象に残りますが、話してみると意外にもさわやかでフレッシュな性格をしています。こういった余興を好みそうな雰囲気もありました。
そんなことを考えながら歩いていると――
「しっ」
エイルが人差し指を口もとに当て、エミルたちを制止しました。
「どうしたの?」
「なんかいる」
エイルがキッと目つきを鋭くした、その次の瞬間。
うねうねうね。
「ひゃっ……!」
エミルとアルティナは、思わず跳ね上がりました。
通路のスキマから、無数のうねうねした触手が這い出してきたのです。気持ち悪いったらありません。
「出たなー、宝の番人!」
そのセリフはまだずいぶん早い気もしますが、エイルはうれしそうな顔で二本の剣を抜きました。
『おねーちゃん、やっちゃえー!』
シロンは小さな翼をパタパタさせてエールを送ります。
「まかせろ!」
言うが早いか、エイルは二本の剣を抜き放ち、果敢に触手へ斬りかかりました!
……が。
にゅるん!
触手は非常にぬめっており、刃がすべってまったく通りません。
「あれま」
エイルは目をまんまるくしました。
すると触手は、しかえしとばかりに今度はエイルを絡め取ろうと伸びてきます。
「おっと!」
エイルは軽やかにバックステップ。余裕で触手をかわし、エミルたちのそばまで戻ってきました。
『ニョオオーッ!』
同時に、触手の主が姿を現します。
紫がかった、3メートル近い大ダコでした。
普通のタコの足は八本ですが、その魔法生物は十倍近い数の足を持っています。何十本ものタコ足が、まるで生き物の群れのようにうねり続けていました。
先ほど通路から伸びてきた触手の正体は、このタコ足だったのです。
「あれは、【オクタクルス】……! "深海のトラップマスター"って呼ばれてる、やっかいなワンダーだよ!」
エミルがすかさず解説しました。その表情はどこか引きつっており、体もかすかに震えています。
『どうするの、おねえちゃん!?』
シロンはハラハラしながらエイルにたずねました。
「本体を直接ぶった斬ってやる! エクス、合体だ!」
エイルは指輪から剣の精霊エクシリアを呼び出そうとします。
ですが――
彼女はすん、と応えてくれません。
「おい、エクス、どうした!」
『いやですよ! あんなぬめぬめしたもの、さわりたくありません!』
「「言ってる場合かー!」」
エイルとアルティナの声が重なりました。
たしかに合体剣になってしまえば、剣そのものとなるエクシリアは、その感触をモロに味わうことになります。
しかも体の一部だけではありません。全身で、です。そのなんとも言えない感覚は、人間にはとても理解しがたいものでしょう。
「では、ここは私たちが! ベル!」
今度はアルティナが前に出て、雪の妖精スノーベルを呼び出そうとしますが……
『わ、私だってイヤよ!』
同じ理由で、断固として出てきませんでした。
「こ、凍らせてしまえば、なんとか……あるいは合体せずに、遠距離魔術で……」
『それでも、イヤなものはイヤ! 面と向かい合うのも耐えらんない!』
パートナーに拒絶されてしまえば、出せるチカラも出ないというものです。これが魔法つかいのつらいところでした。
そんな言い合いをしている間にも、オクタクルスの無数の触手がこちらへ向かって伸びてきます!
「シロン!」
『オーライ!』
エミルは意を決した表情で、とっさに杖を取り出して振りました。
同時に、シロンが口から強烈な火炎を放ちます!
『ニュルルァーッ!?』
触手を焼かれたオクタクルスは、気持ち悪い悲鳴をあげてのけぞりました。
「エミルさん……?」
アルティナは目を見張ります。
思えば、エミルが純粋に戦うために魔術を使うところなんて、はじめて見たのです。
そんな彼女の肩をぽんと抱いて、エイルは言いました。
「いーから、ここはエミルにまかせよう」
その言葉には、妹に対するゆるぎない信頼がこめられていました。
『ニョルルル……!』
触手を焼かれたオクタクルスは、ふっくらした頭部に血管を浮かび上がらせます。
何十本もの触手もムキムキと盛り上がり、その巨体からは怒りと力の高まりが感じられました。
「いまのままじゃ、火力が足りないか……おねがいできる?」
するとエミルは、右手薬指の指輪に向かってなにやらささやきかけました。
指輪の宝石がオレンジ色にチカチカと光り、まるで「おまかせください」と返事をしているかのようです。
「よし、次で決めるよ、シロン!」
エミルが杖を振ると、ぱかっと開いたシロンの口の前に、オレンジ色の魔法陣が現れました。
「《ソルブースト・ドラゴンブレイズ》!」
そしてシロンの口から、二発目の火炎が放たれます。
ですが、一発目とはまるでちがいました。
火炎は魔法陣を通過した瞬間、その威力と勢いを何倍にも増し、激しい回転をともなってオクタクルスへ襲いかかります!
『ニョルアアアーーーッ!!!』
断末魔の絶叫が響き渡りました。
極大の火炎が一直線に突き進み、一瞬にしてオクタクルスの全身をのみ込みます。
そして炎が消えたとき――
全身を真っ黒コゲにされた大ダコは、そのまま力なく倒れ伏しました。
この勝負、エミルたちの勝ちです。
「やったね、シロン!」
『やったよ、エミル!』
エミルとシロンは笑顔でハイタッチを交わしました。
それから――
「シルヴィアも、ありがとうね。助かったよ」
そう小さくつぶやくと、薬指の指輪にそっとキスをします。
指輪の宝石がチカチカと強く輝き、とてもよろこんでいることが伝わってきました。
指輪の中にいる、シルヴィアという名の姿の知れないパートナーは、よほどエミルのことが好きなようです。
「おどろきました、エミルさん……戦っても、すごかったんですね……」
アルティナは感激したように言いました。
浄化のチカラの使い手は、聖職者などのおよそ戦闘向きではない者がほとんどだというのが常識です。
浄化のチカラの主な源はやさしい心。闘争心や殺意などの"戦う者"の心は、そのさまたげになってしまうからです。
ですが、本当にごくごくまれに、戦うチカラと浄化のチカラを高いレベルで両立させている魔法つかいがいるという話は聞いていました。
それを実際に目の当たりにしたからこそ、驚嘆しているのです。さすがは、史上最年少極星魔法つかいエイル・スターリングの妹、といったところでしょうか。
現に、黒コゲになったオクタクルスのダメージは、気を失う程度にとどめられていました。ワンダーは人間よりはるかに生命力が強いため、あの状態なら放っておいても、いずれ自然に回復するでしょう。
そうしたチカラ加減ができているのも、エミルの技量とやさしさ――そして何より、"奪わなくていい命を奪わせない"という信念の強さゆえでした。
「そーだろ。私の妹、すごいだろ」
アルティナの肩を抱いたままのエイルが、誇らしそうに笑います。
エミルとシロンはくるっと振り返り、ふたりに告げました。
「さあ、先に進みましょう!」『ゴーゴー!』
体はまだ小さいけれど、とてもたよりになる少女だ――
アルティナは、エミルへの評価をさらに高めるのでした。
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