第19話 アステールの光
『いんせき……』
シロンはぼんやりとつぶやきました。
シロンもまた、いまから8年前の夜、空から流れ星のように地上へ落下し、エミルと出会ったのです。だから、どこかシンパシーを感じているのかもしれません。
姉妹がアステールに見入っているあいだに、アルティナはすたすたと前へ歩み出て、説明を続けます。
「いまより700年以上昔、この地は度重なる戦争によって荒れ果て、死の大地と化していたそうです。それをよみがえらせ、豊かな大地へと生まれ変わらせたのが、このアステールなのです」
「え? インセキって、むしろ落ちてきたらやばいやつじゃないの?」
エイルも、それぐらいの知識は持っていたようです。
「いえ……ごらんいただければわかるように、アステールは、ただの隕石ではないのです」
アルティナの言う通り、姉妹も目の前の青い多面体から、はちきれんばかりの生命エネルギー――マナをはっきりと感じていました。それこそ、いままで感じたことのないレベルのものを。
「本や、村の学校で習いました。アステールからあふれるマナのチカラで、アストライトは多種多様な生命に満ちた地となった、って」
エミルが答えました。
「ええ……そして初代国王は、大魔導士ルミエールをはじめとした仲間たちとともに、このアステールを中心にひとつの国を築きあげました。それこそがアストライト王国――アステールの光によってよみがえった大地の国、なのです。この王宮は本来、アステールを守るとともに、そのあふれるチカラを制御するために建てられた観測所が元になっているのです」
アルティナの言葉を、エイルとシロンは感心したように聞き入っていました。
『ところで、なんでアステールってなまえなの?』
「降ってくるときに、青いしっぽみたいに見えたから、そう名付けられたんだって。星を意味するアストラと、しっぽを意味するテールを合わせた言葉らしいね」
『なるほどー……しっぽってことは、シロンとおそろいだね』
エミル先生の解説で、シロンはまた感心したようでした。自慢の白いしっぽを、ぴょこんと立てています。
「でも……アルティナ様。これって、国家機密レベルのものですよね。わたしたちが見ても、よかったんですか?」
エミルは、ちょっぴり不安げにたずねました。
たしかに、すごいものを見せてもらえたと思いましたし、感激もしました。しかしその一方で、やはりどこかうしろめたさも感じずにはいられないのです。
「かまいません。言ったでしょう? あなたたちにはぜひ見てほしいと。とくに、ルミエールの杖を持つエミルさんにはね。このアステールを見て、なにかを感じていただきたかったのです。機密のことなら心配はいりません。私は王女ですので、それくらいの権限はあるのです」
アルティナはくすっとほほえむと、胸を張って答えました。
「ルミエールの……杖」
エミルはローブの中から杖を取り出し、じっと見つめました。
おんぼろの木の杖は、アステールの光に反応するように、あわいオーラを放っているように見えます。
まるで、はるか昔をなつかしんでいるかのように――
『姫様ー!』
すると、アステールの間に、小さなホタル型の魔法生物が飛び込んできました。
この王宮でおもに伝令として使われている、【ケンシボタル】という種です。体こそ指でつまめるほど小さいですが、名前の通り剣を腰に下げ、兜までかぶっていて、なんとも勇ましい姿をしています。
『王様がお呼びです! すぐに謁見の間にお越しください!』
「え? もうですか? 早いですね……」
アルティナは目を丸くしました。たしか、さっきは謁見は二時間後だと聞いたはずです。
エミルがさっき言っていた通り、王様というのはとてもいそがしいものです。予定が一時間単位で早まるなんて、普通ならまずないことでしょう。
『姫様たってのご希望だと聞いて、急きょ予定を繰り上げられたそうです!』
「ああ、うちのお父さんも、そんなことあったなあ」
エミルは、村の学校の授業参観で、仕事を早めに切り上げて参加してくれたお父さんのことを思い出し、ほんのちょっぴり、しみじみとしました。
「……まったく、お父さまったら」
あきれたようにそう言いながらも、アルティナの顔はどこかうれしそうです。
「それでは、おふたりとも。謁見の間へ向かいましょう」
こうして一同はアステールの間をあとにし、王様が首を長くして待っている謁見の間へと戻っていくのでした。
青く輝くアステールの光だけが、静かに彼女たちの背中を見送っていました。
☆ ☆ ☆
謁見の間の扉前にて。
「もうしわけありません。今回はお父さまと二人きりでお話ししたいので、あなたたちはここで待っていてもらえませんか?」
「『え~~~っ?』」
エイルとシロンは、これまた露骨に不機嫌になりました。
「いっしょにいたって、どうせまたあくびするだけじゃない」
エミルがため息をつきながらツッコみます。アルティナも、うんうんと無言でうなずきました。
「この話は、部外者に聞かれるわけにはいかないのです。ご理解のほど、よろしくお願いいたします」
「部外者って……わたしたちはあなたの護衛ですよ?」
エミルはいたずらっぽく笑ってたずねると、
「あら? 私はまだ護衛と認めたわけではありませんよ? あなたたちの立場は、あくまで『勝手な同行者』のままですから」
アルティナもまた、いたずらっぽく返すのでした。
「……冗談はさておき、このお話は、とくにエミルさんの前ではお話しできないことなのです。ですが、どうか信じてください。あなたたちの立場を危うくするような内容では、けっしてありませんので」
さっきとはうってかわって真剣な表情で語るアルティナを見て、エミルは釈然としない部分はあるけれど、彼女を信じることにするのでした。
「……わかりました。わたしたちはここで待たせてもらいますね。しつこい同行者として」
「ええ、よろしくお願いいたします」
そしてふたりは、にまっとほほえみ合うと、アルティナはひとり、謁見の間へと入っていくのでした。
『……あのおひめさま、ちょっとはまるくなったみたいだね』
「シロンに言われちゃ、おしまいだね」
『どーゆーことっ!』
エミルはシロンをからかって遊んでいました。
「でも、やっぱりさすがだよ、エミルは。むかしっから、ワンダーとなかよくなるの、うまかったもんね」
エイルはほほえましそうに目を細めながら、誇らしげに言いました。
「アルティナ様は、人間だけどね」
エミルはちょっぴり苦笑いします。
「でもさ、あの子もどっちかっていうと、ワンダーみたいだと思わない? 私はそう思うよ」
直感で生きているエイルお姉ちゃんは、ときどきこういうわけのわからないことを言います。
でも妹のエミルは、その言葉の意味がなんとなくわかるのでした。
アルティナがパートナーにしている妖精もペガサスも、心が清らかな人間としか絆を結ばない存在といわれています。そして、そんなことができる人間は、得てして人間社会よりもワンダー側に寄った考えの持ち主が多いということを、エミルも感じてはいました。だって、自分だってそうですし、旅先で親しくなった人にも、そういう人は多いのですから。
エミルはわずかにほほを染め、思い返しながら言いました。
「……アルティナ様、試練のとき、すごく強くて、かっこよかったんだよ。……もちろん、お姉ちゃんほどじゃないけど。かたくなに一人で戦うって言い張って、それでもパートナーといっしょにあれだけのチカラを出せるなんて……たしかに、お姉ちゃんの言う通りの人だと思う」
「だよねー。私は王家がどーたらとか正直わかんないけどさ、ああいう子が王様になってくれるなら、きっとこの国はもっといい国になると思うんだよ」
エイルはにっこり笑って言いました。
「……そうだね。ワンダーのことを抜きにしても、アルティナ様はステキな人だと思う。やさしくて思いやりがあるし、だれかのために……国のためにまっすぐで、真剣だし……」
エミルは、ゆうべアルティナとふたりきりで話したときのことを思い返しながら言いました。
「だから、私たちがちゃーんと守ってあげよう!」
「『うんっ!』」
エイルとエミルとシロン、三姉妹は、満面の笑顔でうなずき合うのでした。
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